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32億円で売り出し オードリー・ヘプバーン邸宅

大きな家と庭
Barnes International Realty

スイスは静寂と美しい景色を求める著名人たちの理想的な隠れ家として知られる。日本をはじめ世界中に多くのファンを持つ英俳優オードリー・ヘプバーン(1929〜93年)もその魅力に惹かれた1人だ。

スイス西部ローザンヌ近郊のトロシュナ村にある故オードリー・ヘプバーンの邸宅が1900万フラン(約32億円)で売りに出されている。1963年に購入し、1993年に亡くなるまで30年間暮らした。18世紀に建てられた農家の屋敷で、寝室が12室、バスルームが8室ある。

「オードリー・ヘプバーンが60歳になったとき、彼女は60本の白いバラの木を取り寄せ、自宅にバラ園を作った。その半分は今も残っている」。邸宅の所有者であるカタリーナ・ボージョリンさんは、米ブルームバーグ通信にそう語った。

寝室
邸宅には寝室が12室、バスルームが8室ある Source: Barnes International Realty

ヘプバーンは映画「ローマの休日」(1953年)でアカデミー賞の主演女優賞を受賞。ほかにも「ティファニーで朝食を」(1961年)、「マイ・フェア・レディ」(1964年)などに主演し、世界的に有名になった。

一連の映画ヒットや受賞を経た後、ヘプバーンは家族との時間を大切にするため半ば引退状態となる。1988年にユニセフ(UNICEF、国連児童基金)の親善大使に就任し、1993年にがんで亡くなるまでの5年間、精力的に活動した。ヘプバーンはトロシュナの静かな共同墓地に埋葬された。

スイスは長年にわたり、数多くの映画俳優や作家、スポーツ選手が訪れる場所となっている。素晴らしい景色や手厚い税制、欧州各地へのアクセスの良さだけでなく、豪華な宿泊施設やウインタースポーツに恵まれた、贅沢な遊びができる場として有名だ。

しかし、スイスを訪れる著名人が何よりも価値を置くのは、平穏とプライバシー保護にある。ヘプバーンはそのお陰で、パパラッチや過熱報道から逃れることができた。

不安定な幼少時代

スイスの静けさとは対照的に、ヘプバーンは不安定な環境で育った。父ジョセフ・ヘプバーン・ラストンはヘプバーンが6歳の時に家族を捨て家を出たため、心に深い傷を負った。第二次世界大戦中はナチスの占領下となったオランダのアーネムで10代前半を過ごし、レジスタンスの資金を集めるために密書を運んだりもした。

子供を抱く女性
次男のルカ・ドッティと一緒に。ヘプバーンは家族との時間を大切にするために静かな場所での生活を望んだ Condé Nast

ヘプバーンの長男で映画プロデューサーのショーン・ヘプバーン・ファーラーは、自身の母親について、普通の暮らしができる、スイスの平和と安全に重きを置く謙虚な女性だったと語った。

ハリウッドの芸能生活から離れ、スイスで暮らしていたヘプバーンは、パパラッチに悩まされることなく買い物に出かけ、息子たちを育てることができた。英語、フランス語、オランダ語、イタリア語、スペイン語ができたため、地元の人々との会話も楽しむこともできた。

理想的な隠れ家

16世紀にフランスで宗教戦争が勃発し迫害を逃れたユグノーから、1950年代に米国で巻き起こった反共産主義の「赤狩り」を逃れたきた喜劇俳優で映画監督のチャーリー・チャップリンまで、スイスは長きにわたり中立的な避難場所となってきた。

チャップリンの息子マイケル・チャップリンは2014年、SWI swissinfo.chのインタビューで「ハリウッドのプレッシャーから離れ、欧州で暮らした。人生の最後の25年間、彼は家族と時間を過ごし、規則正しい生活を送り、精神的に安定していた。それはすべて、スイスでのことだ」と語った。

イタリアを代表する世界的俳優ソフィア・ローレンは、2014年出版の回想録で「自分と家族がより安全に、より平和に暮らせる」場所を見つけるため、1980年代にジュネーブに移住したと明かしている。「ジュネーブでは小さなことに喜びを見出している。考えたり、読んだり、書きものをして時間を過ごしている」

「ロックンロールの女王」と称された米国人歌手のティナ・ターナーにとっても、スイスは波乱に満ちた過去からの逃避の場となった。ターナーは1994年にスイスに移住し、2023年に亡くなるまでチューリヒの高級住宅街に住んだ。ターナーは2014年、「スイスはすぐに我が家のように感じた。完璧だ。ここの人々は互いのプライバシーを尊重し、お互いを気遣っている」と語った。

チャップリンの像
チャールズ・チャップリンを含む多くの著名人がスイスに足跡を残した KEYSTONE/Noemi Cinelli

レマン湖畔にある博物館「チャップリンズ・ワールド」からモントルーにあるクィーンのフレディ・マーキュリーの銅像まで、スイスにはほかにも多くの国際的なスターたちが足跡を残した。

マーキュリーは晩年を過ごした絵葉書のように美しいモントルーについて、「心の平穏が欲しければ、モントルーに来たらいい」といった言葉を残している。

この言葉と同じ思いを胸に、映画俳優のデビッド・ニーヴンやロジャー・ムーアから、伝説のF1ドライバー、ミハエル・シューマッハやアラン・プロストまで、多くの著名人がスイスを第2の故郷に選んだ。

編集:Reto Gysi von Wartburg/sb、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:上原亜紀子

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