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ハリウッド映画にみるスイスの銀行家

マーティン・スコセッシ監督の最新作で、ジュネーブの銀行家ジャン・ジャック・ソレル役を演じるフランス人俳優ジャン・デュジャルダン Paramount Pictures

世界中で一般公開されているマーティン・スコセッシ監督の最新作「ウルフ・オブ・ウォールストリート」。1990年代初頭にニューヨークのウォール街を揺るがした一人の男の破天荒なストーリーだ。そこにはスイスの銀行家も登場する。スイスインフォは、ハリウッド映画で風刺的に描かれることの多いスイスの銀行家に焦点をあててみた。

 アカデミー賞にノミネートされているこの作品は、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公、証券ブローカーだったジョーダン・ベルフォート氏の回顧録を原作としている。主人公を取り巻くのは、善良な顧客からためらいもなく何百万ドルもの大金をだまし取るブローカーたち。彼らの日常はセックス、ドラッグ、そして桁外れの豪遊。その中に、ベルフォート氏が違法に得た資産を隠匿するために近づいた、ジュネーブの銀行家が登場する。

 その人物はスイスのプライベートバンク「ユニオン・バンケール・プリヴェ(UBP)」の行員。ベルフォート氏の依頼を即座に受け入れる、温厚だが不正を厭わない人物として描かれている。映画の中では、退廃的な生活を送りウォール街でマネーロンダリング(資金洗浄)に関わるスイス人女性と不倫関係にある。

 「ベルフォート氏の回顧録は、彼がとらえた『現実』をそのまま表現している」と話すのは、その役のモデルとなったジュネーブの銀行家ジャン・ジャック・ハンダリさんだ。「映画は原作よりも誇張されているし、現実よりも大げさに描かれている」とスイスインフォに語った。

原題「The Wolf of Wall Street」。マーティン・スコセッシ監督。破天荒な人生を送った後に証券詐欺容疑で有罪判決を受け収監された実在の証券ブローカー、ジョーダン・ベルフォート氏の回顧録が原作。

2011年に映画「アーティスト」でアカデミー賞主演男優賞を獲得したフランス人俳優ジャン・デュジャルダンが、不正に加担する温厚なスイス人銀行家を演じた。

3月2日に授賞式が行われるアカデミー賞では5部門で、作品賞、監督賞にマーティン・スコセッシ監督、脚色賞にテレンス・ウィンター、主演男優賞にレオナルド・ディカプリオ、助演男優賞にジョナ・ヒルがノミネートされている。

フロリダで逮捕

 フランス人のハンダリさんは、現在ジュネーブで資産管理会社を経営している。電話インタビューでは、この件に関してあまり目立ちたくないと念を押した。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」では多くの登場人物に仮名が使われているが、ハンダリさんも「ジャン・ジャック・ソレル」と改名された。

 映画のストーリーと同じく、ハンダリさんは1994年、フロリダでベルフォート氏の共同経営者と共に逮捕される。米当局から資金洗浄の国際的ネットワークの中心人物だとみなされたためだ。そしてスイス政府は、この事件に関わったUBPのある口座から1500万ドル(約15億2640万円)を凍結した。

 この事件の捜査を指揮し、ベルフォート氏の逮捕を導いたFBIのグレゴリー・コールマン捜査官は、ニューヨークタイムズ紙に対し「私はこの男を10年追い続けた。彼が(回顧録に)書いていることは真実だ」と話している。

風刺

 映画フィルムを保存する「シネマテーク・スイス」のフレデリック・メール館長は「ハリウッドはスイスの銀行家に対してゆがんだ風刺的なイメージを持っている」と言う。スイス人銀行家が、出どころの疑わしい資金を決まって受け入れるというステレオタイプは、これまでにもハリウッドの大ヒット作のあらゆるシーンで見られてきた。ジェームズ・ボンドやジェイソン・ボーンを主人公にしたスパイ映画の成功で、このステレオタイプが浸透しスイス銀行の謎めいたイメージが強調された。

 メール館長は、アメリカ映画に登場するスイスの銀行家は二つのタイプに分けられると言う。「『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に出てくるような金持ちの浪費家タイプか、目立たず厳格で口の堅いゲルマン系プロテスタントタイプ」だ。また、映画の中で描かれる「匿名口座に資金を隠せるスイスの経済メカニズム」と、「スイスの銀行家のイメージ」を区別してとらえている。

 「銀行家のイメージはその役を演じる俳優のキャラクターに左右されるところが大きい。俳優の立ち居振る舞いや話し方による。時にはとても誇張されている」と言う。シネマテーク・スイスの館長の目には、今回のソレル(ハンダリ)役は「やり過ぎで、少し滑稽で、あまりスイスっぽくない」と写る。ソレル役は「有名なフランスの俳優(ジャン・デュジャルダン)が演じていて、ソレルのあまり信用できない側面が強調されている」。

スイス映画界は興味を示さず

 スイス銀行家協会(SwissBanking)のシンディ・シュミーゲル報道担当者は、スイスインフォに対し「当協会は、スイスの銀行業界が文化的にどう認識されているかには関心がない」とコメント。それでも、「私たちは、スイスの銀行が違法などころか非常に厳格に規制されていることを証明しようと務めている」と強調した。

 一方、ベルフォート氏の回顧録『ウォール街狂乱日記-「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』で名指しにされたジュネーブのプライベートバンクUBPは、この映画についてコメントを拒否した。だが、昨年の夏にはフランス語圏の日刊紙ル・タンで、ジュネーブで撮影が行われている間UBPはオフィスの看板に板を打ちつけ、見えないようにしていたと報じられている。

 前出のメール館長は、スイス銀行の徹底的な変革にもかかわらずハリウッドの凝り固まったイメージはすぐには変わらないだろうと言う。「現実にはスイスの銀行の守秘義務は消えつつあるというのに、固定観念は相変わらず根強い。スイスと言って連想されるのは常に『銀行』、『銀行の秘密主義』、『疑わしい巨額の金』だ」

 だが、スイスの映画界では銀行家は異なった扱いを受けているようだ。「スイスの銀行家は『冷たい』か『全く普通に』描かれる。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』に見られるような実状はない。それにスイスの映画監督は自国の金融業界にあまり興味がないようだ。それはきっとこの業界をあまり『セクシー』だと思わないからかもしれない」と、メール館長は語った。

(仏語からの翻訳 由比かおり)

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