ルツェルン州ヴァウヴィル(Wauwil)に再現された杭上家屋
Keystone
アルプス圏広域に広がる杭上家屋が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の 世界文化遺産に登録された。
このコンテンツが公開されたのは、
パリの本部では6月27日第35回世界遺産委員会が開かれ、そのほか日本の平泉など合わせて六つの候補を文化遺産として承認した。
スイスで今回新しく世界遺産に登録された杭上家屋は、通常ほとんど目にすることができないものだ。その大部分は湖底や湖岸の砂の中に隠れている。
150年前に初発見
アルプス圏広域に散在する杭上家屋は、新石器時代から青銅器時代にわたる人類の発展を把握するに当たって重要な役割を果たしている。これら有史以前の雄大な記録が近代に伝えられたのは、スイスの水や砂が保存に最適な条件を作り上げたからだ。
私たちの祖先が利用した、木、皮、繊維、骨、あるいは食物の残りなどの有機物は、空気や天気、また人間の手などによって遺跡が傷められてしまう場所から離れた湖底の中でしっかりと保存されてきた。
およそ150年前にアルプス圏で初めて杭上家屋集落が発見されて以来、研究者たちは世界のほかのどの地域よりも多く、農業や栽培飼育に携わる人々の社会生活を再現してきた。
杭上家屋の発見で、有史以前の狩猟採集民族とヨーロッパの初期の大文明の間に存在した空白期間が再現されることになったのだ。
国境を越えた共同プロジェクト
杭上家屋はまた、100年以上にわたって、ほかの国々と異なるスイスの独自性を際立たせてきた。しかし今回、スイスはアルプス圏に属する国々と共同で世界遺産登録に立候補した。
このプロジェクトはスイスが提案、主導し、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、スロベニアの支援を受けた。6カ国111カ所に遺跡があり、うち56カ所はスイス国内で発見されている。これらの遺跡が今回すべて世界遺産に登録された。
同プロジェクト「パラフィット(Palafitte)」の責任者を務めるクリスティアン・ハルプ氏は「国境を越えて推進されたこのプロジェクトの特性が認められたのだろう。ユネスコは各加盟国の文化協力にも肯定的だ」と語る。
「世界に残る杭上家屋の数が少ないこと、また杭上家屋は水中にあるためほかの候補のように観光に結びつかないこともプラスとなった」
関係者はそれでも、今回のユネスコ世界遺産登録が弾みとなって、杭上家屋を扱った公園や博物館や展示会に大勢の人が訪れてくれることを期待している。そして何よりも、登録が杭上家屋の保存につながることを願っている。湖水はこれらの歴史的な遺産を保存をしてくれる。だがそれは、永遠というわけにはいかない。
アルプス圏6カ国で発見された杭上家屋のうち111カ所にある集落跡が、ユネスコ世界遺産に登録された。
そのうち半分以上を占める56カ所がスイスで発見された。
ほかの国にある杭上家屋数は以下の通り。
イタリア:19
ドイツ:18
フランス:11
オーストリア:5
スロベニア:2
世界遺産委員会は、フランス政府が中心となって推薦している共同プロジェクト「ル・コルビュジエの建築と都市計画」の登録を今回は見送った。
基本的には登録を歓迎するが、作品の選択と世界遺産登録の理由が不十分だったという。
(独語からの翻訳・編集、小山千早)
おすすめの記事
スイス、PFASの規制強化を検討
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府は「永遠の化学物質」の異名を持つ有機フッ素化合物(PFAS)の規制強化に着手した。飲み水の上限値は来年から引き下げられる。
もっと読む スイス、PFASの規制強化を検討
おすすめの記事
ローザンヌ国際バレエコンクール 韓国高校生男子が優勝、安海さんが3位
このコンテンツが公開されたのは、
ローザンヌ国際バレエコンクールの最終選考が8日に行われ、韓国のパク・ユンジェさんが優勝。群馬出身の安海真之介さんが3位で入賞した。
もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール 韓国高校生男子が優勝、安海さんが3位
おすすめの記事
スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
このコンテンツが公開されたのは、
世界有数の試験・検査・認証機関であるスイスのSGSは、本社をジュネーブ州からツーク州に移転する。大手多国籍企業の移転は、ジュネーブ州の税収にも影響を及ぼしそうだ。
もっと読む スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
おすすめの記事
ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
このコンテンツが公開されたのは、
スイス西部ローザンヌで2日、第53回ローザンヌ国際バレエコンクールが始まった。23カ国から集まった85人の若手ダンサーが8日の最終選考進出を目指し、さまざまな課題曲に挑戦する。
もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
おすすめの記事
スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。
もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
おすすめの記事
スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
このコンテンツが公開されたのは、
スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。
もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
おすすめの記事
スイスに感染症情報解析センター発足
このコンテンツが公開されたのは、
感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。
もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
おすすめの記事
ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。
もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
おすすめの記事
スイスでX離れ進む
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。
もっと読む スイスでX離れ進む
おすすめの記事
スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの研究者たちが、キノコで発電する電池を開発した。農業や環境研究に使われるセンサーに電力を供給できるという。
もっと読む スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
続きを読む
おすすめの記事
スイスの史跡27万カ所 5州に集中
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦統計局が18日発表した統計によると、スイス国内に存在する城や教会、橋、彫像などの史跡は2016年で27万2千カ所。うち7万5084カ所が国の保護指定を受けている。史跡に関する公式調査は初めて。
もっと読む スイスの史跡27万カ所 5州に集中
おすすめの記事
杭上家屋:ユネスコ世界遺産の候補に
このコンテンツが公開されたのは、
杭上家屋は、1854年にチューリヒ湖畔のオーバーマイレン ( Obermeilen ) で考古学上最初に発見された。考古学者のフェルディナント・ケラー氏は、杭上家屋は有史以前の集落の証としてとても意義深いものだと位置づけ…
もっと読む 杭上家屋:ユネスコ世界遺産の候補に
おすすめの記事
チューリヒ市内で遺跡発見
このコンテンツが公開されたのは、
杭上家屋は紀元前5000年頃からアルプスをまたぐ地域に見られる建築様式で、チューリヒ周辺には特にこうした集落が多くあることが知られ、これまでも各所で発見されていた。今回の発見は広範囲にわたり、今後の研究に大きく寄与すると…
もっと読む チューリヒ市内で遺跡発見
おすすめの記事
杭上家屋
このコンテンツが公開されたのは、
スイス、ドイツ、オーストリア、スロベニア、イタリア、そしてフランスの当局と研究者は、アルプス周辺国にある杭上家屋をユネスコ世界遺産に登録しようとしている。スイスには該当する集落跡が82カ所ある。
もっと読む 杭上家屋
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。