深まる国内の独語州・仏語州の溝
スイスの公用語は、独、仏、伊、ロマンシュの4言語があり、うち独語人口が最多で全体の約73%、仏語人口が20%強、イタリア語4%、ロマンシュ語は1%未満だ。多言語の人々が混ざって住んでいるのではなく、州別に言葉が違う。そのスイスで「Rustigraben」と表現される国内の独語州と仏語州の政治的な格差が拡大していることが、チューリッヒ大学の調査で判明した。
チューリッヒ大学社会地理学部の研究員、ミヒャエル・ヘルマンさんとハイリ・ロイトホルドさんは、過去20年間の連邦選挙結果を分析し、各地域の政治的傾向の変遷を図表化した。過去10年間で最も顕著な変化は、仏語地域は左傾、独語地域は右傾と政治的な二極化が進んだことだ。現時点では、仏語州で最も保守的な州と、独語州で最もリベラルな州がほぼ同じレベルだという。仏語州の人々はリベラルで親EU、全般的に政府支持だ。それに反し、独語州は嫌外国人で環境保護問題に関心が高く、個人資産への執着が強い。ヘルマンさんは、80年代の最も大きな変化は独語州はエコロジー志向となり、各仏語州政府は官僚主義になったことだという。90年代までに二つの言語地域は政治的な溝が深まり、今日もこの傾向が続いている。仏語地域で伝統的に最も保守的なヴァリス州やヴォ−州、フリブ−ル州の農村地域でさえ左傾化が見られ、最も左派傾向が強い独語圏と同じような投票パターンだという。一方、独語地域では劇的な右傾化が見られ、バーゼル、チューリッヒなど社会主義の伝統を持つ都市部でも同様な現象が起きている。
仏語州の左傾化の主因は、独語圏の高度経済成長にあるとヘルマンさんらは見る。加えてチューリッヒが経済の首都としてだけでなく反移民、反EUを掲げるスイス人民党タカ派の牙城となったことも、独語州の右傾化の大きな原因だろう。90年代初め、仏語州の不況は独語圏よりもはるかに深刻で、失業率が高くなった。「文化の違いだけなら問題ない。が、経済問題さらに政治的な支配問題がからむと一気に問題化する。」とヘルマンさん。実際、仏語地域の発議は、国民投票で人数の多い独語州住民にひっくり返されることがしばしばある。その不満と鬱積が仏語州で左傾化を推進したと、二人は分析する。
この傾向がどこまで進むのかは予想困難だが、格差の要因は減少傾向にあるという。経済はスイス全国で順調だし、社会的な格差は狭まった。昨年の対EU相互通商合意協定をかけた国民投票では、たとえ一時的にせよ全国民の団結を見た。が、今後チューリッヒの一局支配は強まり、仏語州/独語州の境界線に位置する首都ベルンなど中部スイスの影響力は徐々に薄れていく傾向にあるとヘルマンさんは見る。「両地域の架け橋は消滅しつつある。独語圏の中心は東へ移行している。が、連邦崩壊の始まりとは思わない。」とヘルマンさんは語った。
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