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現実と戯れながらアートを「つくる」

シュヴァイカーさんは拾ってきた石を「知恵の石」と名付けることで「意味を持つ存在」に変貌させる swissinfo.ch

ロンドン南部トゥールス・ヒルの路地裏にある古いガレージ。ここがスイス人アーティスト、ロザリー・シュヴァイカーさんのアトリエだ。人形や色あせた靴下、アボカドの植木鉢などが所狭しとシンプルな手作りの棚に並ぶ。シュヴァイカーさんのアートに対する考えとはどんなものだろうか?

 シュヴァイカーさんは24年前、4人姉妹の次女としてチューリヒで生まれた。エンジニアの父と園芸家の母に連れられ、ドイツのバーデン・ヴュルテンベルグ州ハイルブロンに移り住むため就学前にスイスを離れた。

 シュヴァイカーさんは、普通に書かれた経歴は好まない。「絶対的なものは何もない」と言う。シュヴァイカーさんはWiki(ウィキ)上に、自分の経歴を載せている。彼女の経歴を編集・修正したいと思う人がいれば誰でもそうできるようにだ。

 「多くのアーティストにとって、全てを支配することはとても重要。でも私は、自分のコントロールや作者としての役割を放棄させるWikiのようなメカニズムを模索している」とシュヴァイカーさんは説明する。

 「私には、アート界がおかしな風習で取り囲まれていると思える」と続ける。「例えば、作者の出身校などが重要視されたりする。全てがそういった実質のないものに縛り付けられている」

 この若い女性アーティストは、そのようなシステムを揺るがそうと試みる。「もし誰かが私と働きたいと言うならば、私の作るものに共感するからだと思ってほしい。私が2003年に生まれたとか、場所や出身地を知ったとして、何が変わるだろう?アーティストは誰でも自由に自分の経歴を語っていいはず。でも、その中にも少し遊び心があったほうが創造的だと思う」

自分を褒める

 「遊び心」。社会活動への取り組みの話をしているときにも、シュヴァイカーさんの口からよく出てくる言葉だ。例えば、「ジャガイモの力を借りて問題を解決する方法」、「アボカドから学ぶべきこと」などについての講演を自分で開く。そして自分に賞を与える。

 多くの人が人と直接会話するよりもコンピューターを好む世の中で、シュヴァイカーさんは「参加すること」に重きを置く。

 「私は人々が単に挨拶を交わしたり、初めて出会ったり、普通では話さないようなことを話したりできる機会を多く作り出す。私の仕事は、普通では起こらない出来事が起こるようにシチュエーションやシーンを設定すること」

 「私の仕事に参加して人が笑うとき、とても幸せに感じる。一般のアートギャラリーで笑う人はほとんどいないから」

ロザリー・シュヴァイカー

偶然何かにつまずいてこけるとする。ところがその人が起き上がって笑った場合、それは完全にアートだと思う。つまり、通常ではない認識の「混乱」を引き起こすことが、私にとってはとても大切だ

放浪のアーティスト

 シュヴァイカーさんは英国デボン州のダーティントン芸術大学で学んだ後、ロンドン芸術大学カンバーウェル校で美術の修士号を取得した。アーティスト活動のためにフィンランドやドイツ、シンガポールにも滞在した。

 その後、アーティストたちが経営するギャラリーの一角にアトリエを無料で借りることのできたロンドンに戻った。このアトリエは3年間、2015年まで運営される。

 シュヴァイカーさんは、スイスでは連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)で教育実習をしたりベルンで展覧会を開いたりしたが、一つの国に愛着を感じることはないと断言する。

 「自分をスイス人だとも英国人だとも思わない。それがいったい誰の何の役に立つというのだろう。芸術とは、カテゴリーや型にはまったものに挑む何かであるべきだ」と語る。

「男性か女性かも大きな影響を持つ。今までに男性の名前で作品を出したことがあるが、全く違った受けとめ方をされた。時には、作品にあえて私の姓だけを添える。作者が男性か女性か分からないように」

Rosalie Schweiker

闘い

 他のアーティスト同様、シュヴァイカーさんも生活の苦しい時期があった。花を売り、タロット占いをし、教壇に立ち、イベントの企画などをした。しかしWikiの彼女の経歴には「タロット占いで大金を稼ぎ、2008年からセックスショップを経営し利益を上げている」と書かれている。

 「私のアートは目に見える材料の中ではなく、描写やお話、笑いの中にだけ存在する。従来のアートはオブジェを通して何かを伝えようとするが、実は何かを(ストーリー性のある形で)表現できない。だから、せめて見る人が何かオブジェから答えを見つけてくれればいいなと思いながら、目で見える形を提示する」

 「しかし、私のアートは『現実』と戯れることに主眼を置く。木材やブロンズのような素材は扱わない。ある意味で、私は『状況』から何かを作り出すのだ」

シュヴァイカーさんのアトリエでは、彼女の作品「知恵の石」がえり抜きの場所に飾られている。キラキラ光る「知恵の石」には、メッセージが添えられている。「自分に何が起きているのか分からないときは、知恵の石を触るがいい。そうすれば全てが明らかになるだろう」

 「知恵の石」はシュヴァイカーさんの代表作だという。見つけてきた石というなんでもない素材に別の名前をつけることで、別の性質を与える。「『知恵の石』を通して、アートは常に説明される必要があると伝えたい。素材に語らせることで、意味を持たせる」。さまざまなアイデア、悪ふざけ、会話。シュヴァイカーさんの、形のない作品だ。「アートの目的は、人に違った考え方を与えることだ」と言う。

有益なアート

 「人がたまたま何かを見て、驚かされる。それがアートだと思う。ある意味、私にとっては当惑を生み出すことがとても重要だ」

 だがシュヴァイカーさんは、遊び心のあるものだけを好むわけではない。「私のアートは、役に立つものであってほしい。特に私が生活するコミュニティーにおいて。だから、長期的なプロジェクトが好きだ。急にどこからかやってきて、何かをこしらえるようなアーティストは信用しない。長い時間をかけて発展させるのがいい」

 では、アボカドは?「アボカドの種は長い間、気持ちの悪い姿をしている」と答える。「捨ててしまおうかとも思うが、でも捨てたりはない。それはアボカドの力を信じているから。そうするうちにある日突然、種から小さな芽が出る。それは少しだけ、アーティストのひらめきに似ている」

1989年9月16日チューリヒに生まれる。

1995/96年、家族と共にドイツ、ハイルブロンへ引っ越す。

2007年、英国デボン州ダーティントン芸術大学へ通う。

2010年、ロンドン芸術大学カンバーウェル校で美術の修士号を取得。

2012~15年、ロンドン南部トゥールス・ヒルにアトリエを構える。

「スイス人アーティストであることは、私にとってとても有利なことだったと思う。多くの道が開けたし、スイス人でなかったならば遭遇しないような機会も持つことができた。でも、もう長い間外国に住んでいるからか、自分で努力もせずに手に入れたものから得をするのは変な気がする。とは言っても結局、誰も生まれる場所を選べない。それで時々スイス人である自分は、ロンドンっ子がよく言う『運のいいやつ!』だと感じることがある」

(仏語からの翻訳 由比かおり)

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