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石への愛、何千年も変わらず ( スイスめぐり-2- )

洞窟と過去を開ける鍵を持つブルーノ・ドナティさん swissinfo.ch

絵のように美しいティチーノ州ヴァレマギア(Vallemaggia/ 「マギアの谷間」の意味 )。昔ながらのこの景勝地が、石の中から新たな姿を見せている。

長い間、ここは建物の資材となる石材の生産に依存してきていた。今、ここで「ピートラヴィヴァ・プロジェクト」が着々と進んでいる。ピートラヴィヴァとは、「生きた石」の意味だ。

 見どころの1つはチェヴィオ村。この村の裏手には、岩の崖が崩れた跡がそのまま残っている。有史以前からのものだ。この下に、網の目のようにつながっている洞窟があるとは、ちょっと信じがたい。

地下への扉

 もしどこにその洞窟があるかを知っていて、道から外れたその岩場の前に立ってみても、すぐに洞窟の入り口を見つけ出すのは簡単ではない。洞窟の入り口は完全に視界から隠されているのだ ( ビデオをご参照下さい )。

 「洞窟が最初に建設されたのは、何千年も前のことです。けれども、ここが他と違う所は、この洞窟は第二次世界大戦の頃まで使われていたことです」。洞窟の扉を開けながら、ブルノー・ドナティさんが説明してくれる。ブルノーさんはこの村の学校の先生だが、この谷の美術館も経営している。

 かちゃりと扉の鍵が開けられる。さあ、これから地下の世界に踏み込んでいくのだ。

 人の手で作られたと見られる岩の壁と重い木のドアに閉ざされたその空間は、ひやりと冷たかった。今は空っぽだが、ブルノーさんによると、昔、人々はここに秋の収穫物を全てここに詰めこんだそうだ。チーズやとうもろこし、栗やワインがここにどっさりと積まれていたらしい。

岩と村との特別な関係

 「地元では、『人生の中で1度は、洞窟の鍵を持ちなさい』ということわざがあります。これには人の幸運を祈る意味がありますが、生きていくために必要な食べ物がちゃんとあるということが重要だったからでしょう」

 岩場は今でも地元の人々の生活になくてはならないものだ。チェヴィオの洞窟群が見つかると、この美しい谷を訪れる観光客にとって必見の場所となった。

 観光客のさらなる増加を期待し、地元のホテル産業の後押しもあってピートラヴィヴァ ( Pietraviva )・プロジェクトが立ち上げられた。

 プロジェクトのリーダー、ジョヴァンニ・ドさんは語る。「私たちはもう石器時代の暮らしをしていませんが、今でも岩場から恩恵は受けています。ビルの石材を切り出したり、文化的にもね」

 「何百年も、何千年も、岩場は私たちの生活の中心にありました。そしてこれからも、変わらないでしょう。私たちと石の関係は特別なものですから、決して失ってはいけないと思います」

大理石や花崗岩も

 村を歩くと趣味の良い、昔ながらの家々にうっとりみとれてしまう。石のタイルの屋根が印象的だ。

 ペッキア ( Peccia ) 村は、スイスで唯一、大理石の石切場がある場所だ。この谷の学校では、初心者から上級者まで幅広く、彫刻の授業を受けられる。

 曲がりくねった山道をもう少し登って行くと、モグノ ( Mogno ) という小さな村に着く。ここにはティチーノ州が誇る有名建築家、マリオ・ボッタが設計した楕円型のチャペルがある。この美しいチャペルは、ペッキアの大理石とチェヴィオ郊外にあるベタッツァ石切場の花崗岩を使って建設された。

 マウロ・ペタッツァさんはこの土地の花崗岩の品質について胸を張る。「世界中どこを探しても、ここの花崗岩のような灰色のニュアンスと質を持った物は見つかりません」

 ベタッツァの花崗岩は、世界の価格水準からいったらかなり高いのだが、地元の家族経営の企業によって毎年2万立方メートル輸出されている。

手作りの温かさ

 片麻岩と呼ばれる岩の塊を細く板状に切り出すのは、職人による手作業だ。このような根気のいる仕事は最近では珍しくなった。機械でなく時間がかかっても手作業でするのは、岩を切り出した後でも自然な表面が保てるためだ。

 前出のプロジェクトのリーダー、ジョヴァンニさんは語る。「ここの風景は岩によって作られてきました。ここに住む人々の生活が、岩と密接に結びついたものになったのも当然のことでしょう」

 地元の観光局は、情報満載の「ピートラヴィヴァ・パンフレット」をイタリア語とドイツ語で発行している。これには渓谷に連なる牧歌的な村を歩く、ハイキング・コースのルートなどが紹介されている。

 また、この閉ざされたアルプスの渓谷にかつて住んでいた人々の暮らしや、現在の住民がどのような生活をしているかも初めて明かされている。

 ピートラヴィヴァ・プロジェクトと共に、観光局は伝統的な石造りの農家のリストも作成しており、新しい発見をしたい観光客が休暇を楽しむために提供されている。

 「私たちの過去を知ることは重要ですが、それで終わりではありません」とジョヴァンニさんは抱負を語る。「外の世界に対して、ヴァレマギア洞窟をこの谷のシンボルとして強くアピールしたいですね」

swissinfo、デイル・ベヒテル 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳

ピートラヴィヴァ・プロジェクトは観光促進のために地元が音頭を取って始めた。
ヴァレマギアには1600個もの洞窟がある。
ヴァレマギアはロカルノの町の湖畔近くにある。
ロカルノには観光客のための様々な宿泊施設が充実している。
ロカルノには谷間の散策を楽しむ観光客が毎年沢山やって来る。
ヴァレマギアの事務局は、谷間の美しい村、チェヴィオにある。ここにもいくつかのホテルと長期休暇用宿泊施設がある。

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