金豹がかぶりつくアニメの世界
今年でアーティスティック・ディレクターを退任するフレデリック・メール氏がすでに昨年から予告した通り、第62回ロカルノ国際映画祭は、「マンガインパクト」を企画し、30本の長編を含む約70本のアニメやテレビ番組の上映、製作者たちによるシンポジウム、展覧会などさまざまな形で大きく取り上げている。
高畑勲氏と冨野由悠季氏がそれぞれ金豹名誉賞を受賞した。8月6日、ピアツァ・グランデで「この舞台に上ろうとは夢にも思いませんでした」と語った高畑氏の「平成狸合戦ぽんぽこ」が上映され、集まった約8000人の観客を魅了した。また、10日には「機動戦士ガンダム」が上映される。
窓を開ける役割
「マンガインパクト ( Manga Impact )」 のキュレーター、カルロ・チャトリアン氏自ら、2度日本を訪れたが、大部分は国立近代美術館フィルムセンターの協力や日本のエージェントに頼ったという。
「国際映画祭に慣れていないアニメスタジオは、コマーシャル的な発想が先立ち、ロカルノの趣旨を理解してもらうのに苦労した」
と語る。展示場の入り口に置かれたスタジオ別にその特徴を解説したパネル制作の際も、版権問題などを解決することで時間がかかったという。
1970年代にテレビで放映された「鉄腕アトム」、「ブラックジャック」といった手塚治虫のマンガから「ポケットモンスター ダイヤモンドと真珠」 ( 湯山邦彦監督 ) のほか、2009年の米アカデミー賞最高短編アニメ賞を受賞した「つみきのいえ」( 久里洋二監督 ) といった最新作、欧米の映画への影響に注目し、アニメ部分を石井克人氏が担当した「キル・ビル」( クエンティン・タランティーノ監督 ) や「マトリックス」なども取り上げられている。
「すべてを網羅することはできないが、代表的な作品を取り上げることで、日本のマンガやアニメの広い世界につながる窓を開ける役割ができれば」
とチャトリアン氏はその意図を語り「アニメのコマーシャリズムと芸術性の2つの面を提示したところがロカルノらしさ」だという。
日本のものとは知らずに
スイスの新聞はロカルノ国際映画祭の報道の中で、大きく紙面を割いて日本のアニメを取り上げている。
「大きな瞳に熱を上げ」( NZZアムゾンターク/ NZZ am Sonntag ) や「大きな瞳の世界に身を沈め」 ( テシーナーツァイトゥング/ Tissiner Zeitung ) などスイスでは、「大きな瞳」はマンガの代名詞となっている。さて、NZZ アムゾンタークで「日本のアニメを観たことのない人はいない。『アルプスの少女ハイジ』、『みつばちマーヤの冒険』も実は日本のアニメなのだ」 と紹介するように、アニメが日本製であるという認識は低い。
高畑氏と「アズールとアスマール」のミッシェル・オスロ氏を迎えた7日のシンポジウムでは高畑氏が、子どもが主人公のアニメに大人が感情移入しているという「日本では不思議な現象が起きている」ことや、日本のアニメがファンタジーの世界ではなく、現実と地続きにあるといった一般的な日本の事情の説明のほか、たぬきが化けることなど日本の伝統まで、根気強く説明する姿が印象的だった。
ロカルノ国際映画祭は、はや62歳。「映画祭は引退年齢に入り」( 8月5日付テシーナーツァイトゥング) 観客の高齢化も指摘されている。若者向けに防空壕を宿泊施設として提供するなど、新たに若者を引き込もうとする試みの1つがマンガインパクトであることはチャトリアン氏も認めるところだ。
ピアツァ・グランデで8月6日に「平成狸合戦ぽんぽこ」が上映され、10日にはマンガナイトとして「機動戦士ガンダム」、「つみきのいえ」など4本、14日はスポーツカーのアクションアニメ「Redline」が上映される。そのほか、映画祭の各映画館では長編約30本を含むおよそ70本が上映されている。
日本のアニメを紹介する展示や、日本からアニメ関係者を招聘 ( しょうへい ) し、シンポジウム、講義、ワークショップなども企画。ロカルノ国際映画祭が終了したあと、9月16日からイタリアのトリノに引き継がれ、2010年1月まで続く予定。
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