スイスの古城、一泊1890円から ( スイスめぐり-3- )
スイスは世界で最も物価の高い国の1つかもしれないが、必ずしもお金持ちでなくても王様のようにお城に住むことができる。
ユースホステルやバックパッカーのために改築された中世の建物が、スイスには沢山ある。この中のいくつかは、なんと中世の古城だ。
現在のロートベルク ( Rotberg ) 城の主は、トーマス・クレーマーさんだ。クリームがたっぷり入ったトマト・ソースをかき混ぜながらも、小さな鍋に入ったペーストから目を離さない。
現代の城主はトイレ掃除もする
「私はこの城の主であり、同時に台所の主でもあり、そしてトイレの主でもあります。とにかく全部私の采配できれいに掃除してますから」とトーマスさんはにっこり微笑む。「私と妻で全てを取り仕切らなくてはいけません。会計だって一緒にやってますよ」
クレーマー夫妻は3年前、この13世紀のお城を買った。そしてこの大きな買い物には、もれなく「多大な責任」も一緒についてきたというわけだ。
この城には80人以上の人が泊まれる。学校の生徒たちのグループや旅行者、騎士気取りの観光客でほとんどいつも満室だ。
お買い得
安い値段でお城に泊まれるなんてめったにできない体験だ。このようなお城がスイス・ユースホステル協会やスイス・バックパッカー協会の宿泊施設リストに載っているのは驚きだ。お値段は1泊20フラン ( 約1890円 ) から朝食付きでも40フラン (約 3800円 ) 以内に収まる。
こんな値段で17世紀に建てられた中世のお城や、ベル・エポック時代のヴィラや、500年前の荘園屋敷に泊まることができる。これらは建物自体のユニークさのみならず、立地条件も面白い。壮大な滝の上にあったり、美しい湖のほとりだったり、中世の面影を残す旧市街だったり、ロートベルク城のように山の斜面だったりする。
ロートベルク城はバーゼルから南西に15キロメートルほど行った、ジュラ山脈の中にある。このお城を建てたのは、近くの荘園を持っていた代々の城主たちだったが、約100年前にもっと便利なバーゼルの街に引っ越してしまった。
その後、お城は荒れ果てたままになっており、1930年代にやっとユースホステルに改築された。
失業者が大活躍
「残念なことに、お城の原型を知るための資料はほとんど残っておらず、想像に任せて改築するしかありませんでした」と説明してくれたのは、クレーマーさんの妻、コリーナさんだ。
バーゼルの若い失業者たちが、改築作業の仕事をあてがわれた。そして彼らは見事にこの老朽化したお城を現代のユースホステルに生まれ変わらせたのだ。
鉄の花のカーブで飾られた重い扉を取りつけ、捨てられた古い横げたと柱を使って威厳のある騎士の部屋を蘇らせ、現代の快適さのためにセントラル・ヒーティングを取り付けた。
「荒れ果てた古城が、ロマンチックかつ実用的なユースホステルに見事に生まれ変わりました」。コリーナさんは、小さなケーブルカーを運転しながら語る。これは昔、荷物や物を下の道に運んでいたものだ。
ジュラ山脈には、まだ多くの古城が建っている。ロートベルク城から見ると、フランスの国境沿いには、信じがたいほど荒れ果てたランズクロン城が建っている。またこの間にはマリアシュタイン修道院が峡谷の上にたたずんでいる。この修道院は「ネオ・バロック調の宝石」とも呼ばれる建物だ。
ロートベルク城の歴史
ロートベルク城の元々の主が、城を捨ててバーゼルに移住してしまった当時、修道院は多くの巡礼者を受け入れる地となっていた。
修道院の存在が大きくなるにつれ、力をつけた修道僧たちはロートベルク城を手に入れた。城自体というよりも、城が持っていた農園が欲しかったのだ。城の方は、時間のある時にゆっくりと石のブロックや他の資材を使って修復していった。
そして21世紀、修道院と城はそれぞれまた独立した関係になった。前者は毎年15万人の巡礼者を受け入れる宗教的な場、後者は中世を体験してみたい人々の楽しい宿泊宿として別の道を歩んでいる。
トーマスさんは以前の生活を振り返る。「ここに来る前、私たちは小さなアパートに住んでいて、お城に住むなんて思ってもみませんでした。ところが、どうです、今はこうやって文字通り一城の主となって快適に暮らしています。もう、ここ以外の場所に住むなんて想像できませんよ」
「最初の年はちょっと怖かったです。二人っきりでこのお城にいて、ちょっと見上げると高い塔があって」。コリーナさんは「入城」当時、そんなに快適ではなかったらしい。「1人であの塔に行くのは嫌でした。でも、今はこの『我が家』を楽しんでいます」
swissinfo、デイル・ベヒテル ( ロートベルク城にて ) 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳
スイス全国にユースホステルは60軒近くある。
スイスのバックパッカー協会に登録しているホテルは20軒以上。
ロートベルク城:ロートベルク王によって紀元1200年前後に建てられた。ホステルとして使用されるようになって70年近くになる。ベッド数は80床。
シャフハウゼン・ホステル:ラインの滝を一望できる荘園領主の屋敷。16世紀に建てられた。1914年、ヘルマン・ヘッセの小説『ロスハルデ ( 湖畔のアトリエ )』のモデルとなり、世界的に有名になった。
ソロトゥールンの歴史的な屋敷:税関や商業ハウスとして使われていた。旧市街にあり、9年前にホステルとして改築された。
レイシン・ヴィラ:19世紀に建てられた。レイシンは健康リゾート地として有名。ヴィラには36床のベッドがあり、村のスキー・リフトのすぐ傍にある。
ヴェヴェイのリヴィエラ・ロッジ:オードリー・ヘップバーンやチャップリンも住んだ景勝地ヴェヴェイに、19世紀、ローザンヌ湖畔に建てられた個人の屋敷。1997年に全面改築された。ベッド数は60床。
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