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段階的に脱原発をすれば温暖化対策も経済成長も可能

原発はすでに過去の電力源?暗闇に淡くライトアップされたミューレベルク(Mühleberg)原発 Keystone

原発を廃止すれば電力不足で経済が停滞したり、火力発電の稼働率増加で二酸化炭素(CO2)排出量が増えるなど、さまざまな影響が現れると懸念されている。しかし、段階的な脱原発なら温暖化対策も達成でき、経済成長も実現できる。

そう話すのは、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)のコンスタンティノス・ブルホス教授だ。

 省エネ技術などの研究を手掛けるブルホス氏は、ほかの研究者数人と共に、脱原発がスイスのエネルギー供給や経済にどのような影響を与えるのかを調査。その研究結果をまとめた論文「スイスにおけるエネルギーの未来(Energiezukunft Schweiz)」が今秋発表された。

 脱原発を実現しても現行の温暖化対策は技術的に可能か、また脱原発を受け経済はどう動いていくのか。今回の共同研究を取りまとめたブルホス氏に詳細を聞いた。

swissinfo.ch : スイスは今年、原発を段階的に廃止することを決定しました。代替エネルギーによっては今後CO2の増加が予想され、温暖化対策が続けられるかどうかが危惧されています。これに対し、どうお考えですか。

ブルホス : スイスの場合、現在原発が賄っている発電量の大部分を再生可能エネルギーで賄うことができる。現在、水力は電力供給の半分を占めているが、既存のダムの稼働能力を上げれば、あと年間3~4テラワット(30~40億キロワット)の増加が期待できる。だが環境破壊や漁業への影響も考えなければならず、大幅な増加は望めない。

 一方、バイオマスは必要な時に発電可能な小型の分散型発電施設として利用でき、木材や家畜の糞尿などスイスには多くあるため6テラワット(60億キロワット)は賄える。

風力も多少期待できる。スイスでは風はあまり吹かないが、ジュラ州やヴァリス/ヴァレー州の山地ではよく吹く。しかし、景観を損なうと思う人もいるし、山に巨大なタービンを運んだりメンテナンスをしたりするのは高くつく。

最も期待できるのが太陽光発電だ。スイスには太陽光が多く、ヴァリス/ヴァレー州やグラウビュンデン州は北スペインや北ギリシャに匹敵するほどだ。もちろん太陽光発電はコストが非常に高くつくので、実現には約40年必要だろう。ドイツや中国が太陽光発電設備をどんどん生産しており、値段は安くなる傾向にある。そのため、太陽光発電は今すぐ大々的に始めるのではなく、試験的に少しずつ始めたほうがいい。

swissinfo.ch : しかし、スイスは冬の日照時間は少なく、安定した電力供給源と言えないのでは?

ブルホス : 太陽光は昼に最も強く、昼に余分に作られた電力は揚水発電(二つの貯水池の高低差を利用する水力発電)を利用して貯めておくことができる。世界にはこのような貯水池はあまりなく、十分にあるのはスイスやオーストリア、ノルウェーだけだ。もちろんバッテリーを利用することもできるが、今はまだかなりコストが高い。だが、電気自動車の開発などでバッテリーも今後安くなるだろう。

swissinfo.ch : 再生可能エネルギーで足りない電力はどう補えばよいのですか?

ブルホス : 外国から輸入するか、天然ガス発電を利用するかのどちらかだ。だが、スイスは外国への依存を避けるため、電気の輸入はなるべくしたくない。そのため、ガスは輸入しなければならないものの、天然ガス発電が重要となる。

スイスでは天然ガスを利用した暖房が多い。暖房効率を上げれば暖房に使う天然ガスが減り、その分を発電に回せば輸入依存度も少し下がる。問題はCO2が排出されることだ。

CO2を地中に貯める技術(CSS/Carbon Capture Storage)があるが、人々がそれを受け入れるかどうかは疑問だ。石炭火力発電が多いドイツでCSSの試験施設が作られ、技術的に可能だと証明された。だが、埋めたCO2が漏れて事故が起こるかもしれないと不安がる人が多く、原発同様、CSSにも反対が強まっている。そのためドイツの投資家はCSSへの投資にかなり慎重になっている。スイスでも反対運動が起こるだろう。そうなればCO2を空中に放出して、外国と排出権取引をするしかない。

そうした点で、太陽光発電には無限の可能性がある。コストは年々下がっており、これに反対する人はほとんどいない。自然の象徴である木を使ったバイオマスも同じだ。

swissinfo.ch : 再生可能エネルギーは原発と比べ割高で、脱原発を実行すれば経済が停滞すると産業界は主張しています。これについて、どうお考えですか?

ブルホス : 予想では電気料金は今後2、3割高くなる。だが、電気料金の上昇の有無にかかわらず、スイスの経済は今後もプラスに成長するだろう。原発を廃止しても、原発を維持した場合の2050年時点の経済水準に1年遅れで達成できる見込みだ。

「なぜそこまで言えるのか」と言う人もいる。もちろん今の経済危機のような具体的なことは予想はできないが、経済は状況の変化に対応できる。例えば鉄が高くなれば、製造会社は技術革新をしたり新しい製品開発をするなどして対応する。電気料金が上昇した場合も同じだ。

重要なのは次のことだ。原発の電力が安いのは、既存の原発がすでに稼働から4、50年たっており、これまでの設備投資がすべて償却されているからだ。だが、原発もいつかは建て直さなければならない。

原発にさらに投資すべきかどうか電力会社は悩んでいる。安全基準は年々厳しくなるし、住民が反対運動を起こしたり、裁判が長期間続くかもしれない。燃料棒や核廃棄物の処理方法もはっきりしていない。太陽光発電と違い、原発のコストは安全基準や事故後の補償問題などで膨らむ傾向にある。「原発は安い」と言うが、今後も安いままでいられるか分からない。

swissinfo.ch : ドリス・ロイタルト連邦環境相は脱原発の実現に向けて、各方面の有識者を集めて助言機関を作りました。あなたもそのメンバーですが、政治家に対しどんな助言をしていらっしゃいますか?

ブルホス : 政府は、今後2、30年かけて温室効果ガスの削減目標を達成し、また脱原発を実現していくと市場や投資家、消費者にシグナルを送るべきだ。投資はエネルギーシフトに不可欠だ。この分野の投資は償却に10年も20年もかかるため、政策がコロコロ変わるようでは投資家も計画を立てにくい。政治家は法律を作り、CO2に課税すべきだ。

swissinfo.ch : エネルギーシフトは一日にしてならず、ということですね。

ブルホス : その通り。5年後にすべての原発を廃止するというのは非現実的だ。ドイツはあと10年で全原発を廃炉にすると言っているが、私はそれは難しいと思う。幸い、スイスは原発を段階的に廃止すると決めた。エネルギーシフトには30年は必要だ。それより短い期間では無理だ。

1955年生まれ。

1984年、スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)で博士号取得。

1995年、スイスの国立研究機関パウル・シェラー研究所の焼却研究ラボ所長に就任。

2002年から連邦工科大学チューリヒ校の教授に就任すると同時に、空力熱化学・焼却システムラボの所長を務める。

さらに、同大学で2005年設立されたエネルギー・サイエンス・センターの実行委員を務める。

今秋、ドリス・ロイタルト連邦環境相の助言機関メンバーに抜てきされる。

エネルギー効率が高く温室効果ガス排出量がゼロに近い焼却システムの研究開発や持続可能なエネルギーシステムの研究に従事している。

原子力発電38.1%

揚水発電32.3%

流れ込み式水力発電24.2%

その他5.4%

運輸部門(自動車など)31.4%

産業部門21.2%

家庭部門20.4%

農業11.7%

商業・サービス・事務所など9.1%

廃棄物(焼却など)6.2%

高低差のある二つの貯水池を利用する発電方法。

上の貯水池から下の貯水池に水を流し、タービンを回して発電する。

下の貯水池に流された水は、電気を使った汲み上げポンプで再び上の貯水池に送られる。

このポンプの稼働にほかの発電所で余分に作られた電気を利用できる。つまり、電力を水の位置エネルギーに転換することで、電気を貯蓄することになる。

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