スイスは欧州のポピュリズムのテストケースになるか?
最近、ヨーロッパ各地で頭痛の種となっている「ポピュリズムの台頭」は、スイスではもっと早くから経験していた。直接民主主義は、このような動きをどのように吸収したのだろうか。
西側諸国で過去100年続いた民主主義の政治的不安定には、常にポピュリズムが絡んでいた。民主的な枠組みの乱用だと支配層がみなすものへの「特効薬」探しともなれば、歴史はさらにさかのぼる。
なぜポピュリストは時代を超えてもてはやされるのか?
1つは、扇動行為が聴衆の耳に残る、ということだ。ポピュリズムという用語は、明確な定義づけが難しい。明確に測れないため、複数の定義の寄せ集めで対処するしかない。その定義のほとんどが、抑圧・無視・あるいは欺かれた「民衆」と、道徳的に破綻した「エリート」を戦わせる政治スタイルを指す。
政策に関して言えば、ポピュリストは移民、文化的多様性、社会変化といった複雑な問題に関し、過度にシンプルな解決策ばかり示すと批判される。ポピュリストたちは、合言葉やモットーというものは、好まない議論を避けるためエリートが使うオールマイティーなタームだと話す。
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だが言葉の定義より重要なのは、現実にあるポピュリズムとどう向き合うか、だ。スウェーデンの研究グループIDEAは、ポピュリストが実際に政権を握る時期と、表現の自由や市民社会の関与など健全な民主主義の多くの要素が低下する時期とが重なるという。
今はまさにそんな時期かもしれない。欧州委員会の調査論文は、欧州各地でポピュリスト政権が失敗したことは「ポピュリズムのピーク」が過ぎたようにもみえるが、過去20年間のスパンで見ればポピュリズム政党は欧州大陸全体で支持を3倍以上に増やしたと指摘した。
フランスの国民連合やオランダの自由党といった極右政党と連立政権を組むという考え方は、多くの中道派や穏健派にとっては末恐ろしく聞こえるだろう。だが、選択の余地はないのかもしれない。代替案は、増え続ける市民を更迭することだ。
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スイスでは政治に関して言えば、スイスはやや独特だ。この国は安定した政治モデルを持ち、(直接)民主主義の世界王者と言われるが、その一方では極めてポピュリスト的で、それが続いた時期もあった。
過去30年間で、この国のポピュリスト運動は右肩上がりの成功を収めた。顕著だったのは右派国民党で、議会の議席占有率は1991年の12%から2015年にはピークの29.4%に達した。
かつてポピュリストと呼ばれた緑の党が2019年の総選挙で大勝したにも関わらず、国民党はいまだに連邦議会の最大政党の座を堅持している。
スイスは、他の西側諸国で見られたような、ポピュリスト絡みの政治的不安定性や大げさなレトリックを一体どのようにして回避できたのだろうか。専門家は、直接民主制の存在が関係していると分析する。
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直接民主制は一方で、異なる制度下では却下されうるアイデアも議案に組み込めるため、ポピュリズムを助長する。国民は法案を提案できるほか、1年に4回、国民投票の機会がある。それによってポピュリストは政治エリートたちから既得権益を奪い、自分たちの政策課題を推し進めることができる。
だが直接民主制は他方で、政治プロセスに国民の意見を常に求めることでポピュリズムの抑制につながる。定期的な投票や審議に慣れ親しんだスイスの有権者は、自分たちの声を政治に届けるチャンスが多い。このため、政治アナリストのクロード・ロンシャン氏が言うように、政治問題は「より早く明確な形で表面化し、解決されなければならない」。そのため強い不満が長期間抑えられることがなくなり、ポピュリストを支えるエネルギーが削がれる。
他国では問題が未解決のまま水面下に沈んでしまうかもしれない、とドイツ人作家ラルフ・シュラ―氏は指摘する。「(ポピュリスト)運動は、既存の政党が未解決のまま置き去りにした問題を取り上げ、「既存政党の議論の影響を受けやすい部分から、民衆をこちら側に呼び込めるのだ」と話す。
最後に記すべきはもちろん「マジック・フォーミュラ」だ。これは連邦内閣閣僚(7人)を複数の主要政党で振り分けていることを意味する用語で、スイス政府を構成するのは常に、主義主張の異なる主要政党の代表者による合意に基づいた集合体といえる。
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他国のポピュリスト集団は村八分にされているが、スイスでは国民党が長年、合法的に政権の一翼を担う。境界線を超えて争いをけしかけるわけでもなく、他党ともうまくやっているのだ。
ポピュリズムの未来について、ジャーナリストで作家のロジャー・ドゥ・ヴェック氏は、スイスが再びポピュリズムの手本となりえると考える。「私の希望は、ヨーロッパで最初に反動的なポピュリズムを経験したスイスが、ポピュリズムを拒絶する最初の国の一つになることである」
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「マジック・フォーミュラー」
JTI基準に準拠