スイスで問われた沖縄における表現の自由と「共謀罪」法への懸念
ジュネーブで開催されている国連人権理事会で、人権侵害について発言する機会がNGOに与えられ、沖縄における表現の自由の侵害が取り上げられた。また、それに関連し、国連人権理事会の枠組み内で開かれたシンポジウムでは、沖縄メディアへの不当な扱い、「共謀罪」法への懸念も取り上げられた。これらの問題はスイスでどのように伝えられたのだろうか?
沖縄における表現の自由
沖縄平和運動センター議長で、米軍基地やヘリパッド建設に反対する抗議活動を行う山城博治氏(64)は、ジュネーブで開かれている国連人権理事会で15日、沖縄では抗議運動を行う自由や米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設への反対を表明する自由が侵害されていると訴え、日本政府に対し沖縄の人々の民意の尊重を求めた。
山城氏は人権理事会での演説前、スイスインフォの質問に対し、「国際社会で、人権や民主主義の根源を問いたい」と述べ、「政府の政策が沖縄の民意に沿っていないことに悔しさを感じている」と話した。
また、16日に行われたシンポジウムでは、山城氏の弁護士、金高望氏が、「選挙において、建設反対の民意が示されているのに、沖縄の声が本土に届かない」「民主制の過程が沖縄にはない」と指摘した。この1時間半に渡るシンポジウムでは、沖縄における表現の自由の規制が訴えられ、基地建設反対運動の際の警察や海上保安庁の暴力、「共謀罪」法への懸念、沖縄メディアの報道の自由侵害も報告された。
国連人権理事会での発言
山城氏は15日、人権理事会で沖縄国際人権法研究会の代表として「私は抗議運動からの離脱を迫られた。これは当局による明らかな人権侵害だ」と主張した。
そして、新たな米軍基地の建設に反対する声がある中、名護市辺野古では新基地建設が推し進められていることに対して山城氏は、「日本政府が人権侵害をやめ、新しい軍事基地建設に反対する沖縄県民の意思を尊重することを求める」と強調し、「日本政府は抗議活動をする市民を弾圧し暴力的に排除するため、大規模な警察力を沖縄に派遣した」と訴えた。
山城氏は昨年10月、抗議活動で有刺鉄線を切断した器物損壊容疑で逮捕されたが、約5ヶ月間勾留された。そのため、この状況に関して、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルなどが長期拘留に強い懸念を表明し保釈を求めたため、国際社会から批判の声もあった。
一方、ジュネーブ国際機関日本政府代表部は山城氏の訴えに対し、「山城氏は違法な行為のために逮捕され、拘留された。警察や裁判所は、法に基づいて対応した」と反論した。
また、人権理事会ではその前日14日、「琉球新報、沖縄タイムスをただす県民・国民の会」代表運営委員の我那覇真子氏(27)が演説し、「沖縄では、地元住民の人権と表現の自由が外からやってきた来た基地反対活動家や共産革命主義者、さらには偏向したメディアによって脅かされている。彼らは、自分たちの人権と表現の自由を盾に、考えが反対の人たちの人権と表現の自由を抑圧している」と訴えた。
加えて、我那覇氏は「刑事被告人である彼(山城氏)が日本政府に渡航を許可され、国際組織で話すことが許されているという事自体が、日本では人権と表現の自由が尊重されていることを証明している」とも発言した。
国連で語られた「沖縄の人の民意」とは
山城氏は、戦争をしたくないという人々の意思が伝わる民主主義を願う。「今の政府は、前のめりではないかと思うくらい戦争政策に走りすぎではないか。戦争をしない、また72年前の悲劇の戦争にならないような国際関係を対話と交流で友好的に進めることができる、そういう政治であって欲しいーー」。
「沖縄は民主主義が圧殺されていく最前線。国策を考え直して欲しい」「自分の地域を世界の平和のメッカにしたい」と山城氏は語る。また、「14日に成立した共謀罪法は市民を監視し過ぎだ。ものの言えない社会にして戦前のように国家中心の国にするのか」と憤る。そして、「沖縄の基地建設反対運動に共謀罪が適用されるのではないか」と不安を語る。
「沖縄県知事が2年前にも国連人権理事会に来たが、県民はつらい立場にいる。県民の思いを政府は聞こうとしない。国際社会でも訴えたい。沖縄では、人の声が結集して県知事や市長を選んだ。また、住民投票も何度もした。ところが、県知事の思いすら踏みにじられ、沖縄の民意が日本の世論を動かすものになり得ない」
「この数年は、『沖縄の県民に寄り添う』という言葉が聞かれない。形式的な法治国家を強調する言い方ばかり。政府は民意を問わない」「平和と民主主義を基調とする国際社会に私たちは繋がりたい」と語る。
「共謀罪法」成立に対するスイスメディアの反応
では、山城氏が「表現の自由が侵害されるのではないか」と疑問を投げかける「共謀罪法」成立のニュースは、スイスの主要メディアでどのように伝えられたのだろうか?
安倍政権が成立させた「組織的な犯罪の共謀罪外部リンク」法では、277の犯罪に関して、犯罪の準備行為をした段階で処罰できるようになる。ところが、スイスのメディアでは、テロ対策よりも、プライバシー権と表現の自由が制限される可能について主に報じられた。
スイスの通信社ATSは15日、「日本政府は個人の自由を脅かしかねない法案を強行採決した」と報道。また、「この法律では、テロや犯罪行為の計画や実行に加わる個人やグループの起訴が可能になる。しかし、人権団体、日本弁護士協会、多くの学者などは、この法が歪曲され無実の市民の通信が傍受されたり、憲法が保障する自由が制限されたりする可能性があると危惧している」と伝えた。
スイスドイツ語圏の新聞NZZは、「物議を醸す共謀罪法」と題して、「野党やデモ参加者の猛烈な抗議にもかかわらず、日本の保守的な政権のもとで木曜日の朝、議会は組織犯罪やテロに関する法案を可決し成立させた。安倍晋三首相は、法律は2020年の東京オリンピックでの安全を確保するために必要だと強調した」と報じた。
そして、「野党や評論家は、日本が監視国家になるのではないかと危惧する。民進党の蓮舫代表は、思想の自由を制限する残酷な法律だと語った。この法律により、組織的な犯罪集団による重大犯罪の計画は監視され、処罰の対象となる。そうなると日本は、『犯罪は、犯罪行為の後にのみ処罰され得る』という原則から外れる。数千人もの日本人が国会の前で、この法律に反対するデモに参加した。日本弁護士協会は、この『テロ対策法案』では対象となる277の『重大犯罪』が、異例なほど広く解釈されているとして批判している。それには、住宅の建設に抗議する座りこみや、音楽の違法コピーも含まれている」と解説した。
また、国連人権理事会のプライバシー権の特別報告者ジョセフ・カナタチ氏はすでに5月、対象となっている犯罪の多くのケースにおいて、組織犯罪への関連が明確ではないと非難していた。カナタチ氏は、日本は、プライバシー権や表現の自由の権利が不当に制限される危険にさらされていると批判し、木曜日に日本に対し自由権の保障策を促した」とNZZは続けた。
言論と表現の自由に関する国連特別報告者の意見
沖縄には民主制の基盤がないのだろうか?その問いに対して、国連人権理事会の言論および表現の自由の保護に関する特別報告者、デービッド・ケイ氏は、「日本は比較的オープンな国。ただ沖縄問題に関しては、(米軍)基地周辺では、抗議をする余地も表現の場もない。閉鎖的で、抗議のための余地を見つけるのは難しい。さらに難しいと感じているのは、今回政府がとった政策により、今後一層抗議が難しくなるのではないかということだ。沖縄には、メディアの問題、差別問題など他にも問題があり、地元の人は制約されていると感じている」とスイスインフォのインタビューに対して答える。そして、「日本政府はそういったこと全体をもう一度考えるべきだ」と述べる。
ケイ氏は、「日本政府へ抗議をする余地を提供するよう求め、表現の自由、メディアの自由を促したい」と話す。また、「日本政府は対話をすべきだと思う。私は、今の状況の結果として負の結果が生じていると感じている」そして、「明らかに、公衆との意見交換を行うパブリックコンサルテーションが欠如している。公衆は、これらの決定に対して、自分たちがかかわっていると感じられなければならない。ところが今は、私にはそれが感じられない」と語った。
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