同性婚を権利として憲法上で認めた米国とアイルランド。つい最近のこのニュースは、スイスでも大きく取り上げられた。スイスで同性カップルの結婚を法的に保障する動きは、どの程度進んでいるのだろうか?また、それが国民投票にかけられるのはいつだろうか?
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同性婚という、一つの平等の権利を求める活動家たちにとって、この2、3カ月は喜びのニュースで満ちていた。アイルランドでは同性婚を合法化する憲法改正案が国民投票で可決され、その1カ月後には米最高裁が同性婚を合法とする判決を下したからだ。
このような世界の動きの中で、直接民主制を誇るこの国スイスで、国民が同性婚法制化の是非について意見を問われるのはいつになるのだろうか?
「間もなく実施されると期待したい」と答えるのはバスチアン・ボーマンさん。同性愛者の権利を訴えるスイスの団体「ピンク・クロス」の事務局長を務める。同性婚をめぐる国民投票が行われるとすれば、(国民投票に持ち込むには10万人もの署名が必要なので)そのこと自体が、国民の高い支持を意味していると考えている。
だが、一つの案件が国民投票に持ち込まれるまでには相当な時間がかかる。政府、議会、市民を巻き込んだ投票までの政治的プロセスは通常、数年にもわたるからだ。
ただし、他の国で同性婚が次々と合法化される動きは、スイスの政治家には直接影響を与えていないようだとボーマンさんは嘆く。「それでもこうした動きは、国民の関心を集め、世論は確実に高まりつつある」
署名活動
スイスで現在、同性婚の憲法上での法制化を求めるイニシアチブ(国民発議)が提案されていないのは、意外に思われるかもしれない。
イニシアチブの提起には費用もかかり、多くの人の協力を必要とする。そのため同性カップルの権利を主張する活動家たちは、イニシアチブに頼るよりも、中道派の自由緑の党が議会に出した提案に望みをかけている。同性・異性間を問わず全てのカップルが法的に守られるよう、憲法の修正を求めたものだ。
そして活動家たちは、同党の提案にさらに象徴的に価値を付け加える目的で、署名集めを始めた。
「私たちは、性的指向や性同一性などに関係なく、全ての人がスイスで自由に結婚できることが重要だと確信している。結婚が全ての人に認められ、無条件に与えられる権利であることを望んでいる」と話すのは、性的少数者(LGBD)に関するスイスの諸団体を統合する組織「スイス・レインボー・ファミリー」の会長マリア・フォン・ケネルさんだ。
集めた署名は、上院(全州議会)の法律委員会が同性婚について討論する11月に、議会に提出される予定だ。
ちなみに下院(国民議会)の委員会はすでに今年2月、賛成を表明している。
行き詰まり?
この署名だが、現在までに約1万人分が集まっている。イニシアチブの提起に必要な署名の数は10万人。それとはかけ離れた数字だが、ボーマンさんは「(象徴的な意味での署名集めなので)最小限の目標は達成できている」と言う。ただし、「これからもっと努力をしないと、これ以上の署名が集まるとは思えないのも事実だ」と、批判がこもる。
理由は、ゲイやレズビアンのコミュニティーからの、政治的な働きかけが欠けており、状況が行き詰まっているからだという。
さらに、同性愛者の権利に理解を示しながらも、法制化に動こうとしない社会は、今のスイスという国を象徴しているとも指摘する。2005年には、同性カップルの正式なパートナーシップを認めるという議会の決議を国民投票で承認したこの国は、先駆者的存在だったはずだ。「だが、スイスが過去10年間(具体的な法制化に)足踏みをしている間に、他の国が大きく前進してしまった」
総選挙を活用
ボーマンさんもフォン・ケネルさんも、彼らの活動を推し進めるには、今が最適だと確信している。今年5月に行われた世論調査では、市民の71%が同性婚に賛成だという結果が出ていることも理由の一つだ。
また、10月の総選挙も、同性婚への支持を集める良い機会になると見ている。フォン・ケネルさんは、左派政党だけではなく中道派でさえも、潜在的な投票者の支持を狙い、同性愛者の権利の強化を選挙綱領に入れていると指摘する。
一方ボーマンさんは、少数派の権利を推進する政治家を支持すれば、自分たち活動家にとっての利益にもつながると付け加える。
政府の年次報告書
ところで今年3月には、シモネッタ・ソマルーガ司法警察相が公表した年次報告書の中で、共同生活を営むカップルに、法的婚姻関係のカップルと同等の権利を認める、通称「パクス(PACS)」と呼ばれる民事連帯契約を導入する可能性が提起されている。前出の「スイス・レインボー・ファミリー」は、これを高く評価している。
「全ての人に平等な権利を保障するため、私たちレズビアンやゲイ、性転換者などにも結婚への門戸を開く必要がある」とケネルさんは言う。
そして、前述の上院で審議される同性婚に関する憲法改正案にしても、これが議会を通過した場合、(憲法改正案は必ず国民投票にかけられるため)最終的に決定を下すのは結局、投票という手段を持つ国民なのだと強調した。
民事連帯契約「パクス(PACS)」
フランス法で認められた、2人の成人の間で結ばれる民事契約に由来する。パクスによって結婚と同等の権利と義務が生じるが、養子縁組などについてはその限りではない。
パクスでは、同性カップルにもある程度の法的保障が認められるが、パクスを選ぶカップルの大半は異性カップル。パクスは1990年代から欧米を中心に世界約20カ国で導入されている。
スイスは同性婚を認めていないが、2005年の国民投票結果を受け、その2年後の2007年に、パクスにある程度の制限を加えた同性間のパートナーシップ登録制度を導入した。
(英語からの翻訳・編集 由比かおり)
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教会のルールに厳密に従うべきか、それとも同性カップルを祝福すべきか。こうしたジレンマに悩む神父は近年多くなっており、中にはどの信者も教会から祝福を受ける権利があると考える神父もでてきている。
ゲオルク・シュムッキさんは同性婚を支持する神父の一人。これまで数組の同性カップルを祝福してきた。最初の1組目は内密に行ったが、次第に教会内で祝福するようになった。しかし、このことを聞きつけたザンクト・ガレン司教のマルクス・ビュッヒェルさんは、教会のルールに反しているとシュムッキさんをとがめた。今のところそれ以降の処分は行われていない。
ビュッヒェルさんは、同性カップルが役所で式を挙げることに問題はないとする一方、カトリック教会がこうしたカップルを祝福することに反対している(スイスで結婚する場合、カップルは役所で公式に結婚を認めてもらわなければならない。キリスト教信者はそれに加え、教会で式を挙げ、教会からも結婚を認めてもらう)。
ビュッヒェルさんはまた、同性カップルを祝福すれば、結婚は男女の結びつきとする教会の考えに反すると主張する。
レズビアンカップルのブリギッテ・レースリさんとマヌエラ・ウールマンさんは近年、教会で式を挙げた。敬虔なキリスト教信者だった二人は、教会で愛を誓いあうことが大事だと考えていたからだ。挙式には大勢の人が駆けつけたが、中には「神への冒涜だ」と出席を拒む人もいた。
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