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スイスのイニシアチブ 世界に広がる民主主義パワー

米オレゴン州では2015年7月、嗜好(しこう)品としてのマリファナ使用の合法化が住民投票で可決された。2016年から認可された店で購入できる Reuters

スイスにおけるイニシアチブ(国民発議)の歴史は長い。男性は1891年から、女性は1971年からこの制度を利用して憲法を直接変えることができる。イニシアチブという考えは既に2世紀以上もの歴史があり、この間、世界中に着実に浸透していった。この制度がどのように世界に広まっていったのか、その道のりをたどってみよう。案内役は民主制度の専門記者でpeople2power編集長、ブルーノ・カウフマンが務める。

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 「国民が法律を作るという素晴らしい思想が地球の反対側でも開花するのは誠に喜ばしい」。今から100年以上前、米国に渡ったあるスイス人読者からの手紙に対し、スイスの社会派系新聞社の編集長はそう回答している。

 時代は1894年にさかのぼる。ニューヨークのジャーナリスト、ジョン・サリバンは、スイスでイニシアチブとレファレンダム(議会で可決された法案の是非を国民投票で問う制度)州・国レベルで導入されることについて小さな記事を書いた。その記事は、当時の米国でセンセーションを巻き起こした。サリバンが「スイス制度」と表現したこの二つの制度に感銘を受けた農民、労働組合や手工業者は、同様の制度を太平洋側にある米国の新しい州に導入するよう求めた。

 前出の手紙は、スイスから米国に渡った移民が直接民主制の影響について詳しく知るために故郷に宛てて書いた物だ。彼の住むオレゴン州では1902年、住民投票でイニシアチブの導入が可決された。以来、オレゴン州では既に300件以上のイニシアチブに関して住民投票が行われている。ちなみにスイスでこれまでに国民投票にかけられたイニシアチブの数は206件だ。

その後、「スイス制度」は米国で「オレゴン制度」と呼ばれるようになり、過去125年間に23州で導入されことになった。

 そして19世紀末期には、まだ米国に併合されていなかった当時のハワイ王国にもこの制度は波及する。米国で女性参政権導入のきっかけとなった「オレゴン制度」の評判は、この島国で活動していた共和派の運動に影響を与えた。この運動に関わっていた人物の中には、後に中華民国の初代臨時大総統となる革命家、孫文の姿があった。

女性参政権権の導入を求め、オレゴンからワシントンへと向かう女性たち。1912年、ニューヨークにて Library of Congress

 こうしてイニシアチブの構想はアジアへと渡り、1912年、中華民国の憲法に取り入れられる。この憲法は20世紀の騒乱を乗り越え現在に至るまで、台湾憲法のベースとなっている(台湾の正式名は『中華民国』)。台湾では近々、今年1月に選挙があった台湾の立法院(国会)で、イニシアチブの法制化が行われる予定だ。

少数派の疑問に多数派が答える

 今から125年前に米国で導入された「スイス制度」の話など、ここで取り上げた話はイニシアチブが世界で広まっていったことを伝えるためのほんの一例に過ぎない。この「スイス制度」にはもちろん、憲法改正の是非を国民投票で問う「強制的レファレンダム」(1848年導入)と、議会で可決された法案の是非を国民投票で問う「任意のレファレンダム」(1874年導入)が含まれる。

 直接民主制に基づくこの国民の権利には、非常にシンプルで説得力のある基本原理が根底にある。それは少数派が政治に関する具体的な質問を投げかけ、多数派はそれに対し回答をする義務があるという原理だ。

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時代とともに発展してきた直接民主制

このコンテンツが公開されたのは、 中立性や連邦制と並んで、スイスという国を特徴付ける直接民主制。国民投票は、国民が直接意思表示をするための重要な手段だ。その国民投票にかけられてきた事案の数は、1970年代以降著しく増えている。1848年から現在まで、実に600回以上もの国民投票が行われてきた。

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 国全体で何かを決める場合、事前に公で討論が交わされることが民主主義では重要だ。イニシアチブが国民にとって分かりやすく、また法的効力があれば、このような民主主義の理念をよりよく実現できるだろう。

 イニシアチブは125年前にスイスで発案されたのではなく、さらに100年ほど前のフランスの啓蒙家・革命家のコンドルセ侯爵が考え出した。フランス革命で国王が地位を追われた後の1792年、コンドルセ侯爵は憲法委員会に選出された。そこで彼は、国民による「コントロール」が目的の強制的レファレンダムだけではなく、国民自身が憲法改正を提案する「革新的な」イニシアチブの土台を築いた。

世界に急速に波及

 ところが1794年、コンドルセ侯爵は革命混乱期の犠牲となり命を落とす。そして今日に至るまで、中央集権制の強いフランスでは、大統領を決めるときでしか国民投票が行われない。こうしてフランスで日の目を見なかった理念は、やがてフランスの東方にある地方分権制の隣国、スイスで実を結ぶことになる。全国レベルで導入される以前に、1830年以降、既にスイスほとんどの州にイニシアチブは普及していた。

 今日では世界の計22カ国でスイスと同様のイニシアチブが導入されている。そこにはハンガリー、ウルグアイ、ケニア、台湾、メキシコ、ニュージーランドといったさまざまな国々が含まれる。残り14カ国は、署名を集めれば議会の決議に関する是非を国民投票で問うことができる。今年、イタリアとオランダではこの種の国民投票が行われる。

 過去25年間で特に目を見張る発展を遂げたのは、全国レベルのイニシアチブではなく、地方レベル、地域レベル、超国家的レベルでのイニシアチブだ。ドイツでは7万5千以上の基礎自治体ほぼ全て、そして16の州全てにこの種の制度がある。これは世界中の何百、何千もの地方自治体に関しても同じだ。そして2012年には欧州連合(EU)で欧州市民イニシアチブという制度が導入され、初めて国境を越えたレベルでのイニシアチブが可能となった。

 特に興味深い点は、イニシアチブが自ら直接民主制の形や効力を変えていく点だ。過去10年間にスイスだけでも国民の権利に関するイニシアチブが10件立ち上がった。


スイスのイニシアチブは日本でも導入可能だと思いますか?皆さんのご意見をお聞かせください。


(独語からの翻訳・シュミット一恵 編集・スイスインフォ)

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