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スイス、ES細胞研究を緩和   難病治療へ第一歩

一定の条件下でES細胞に関する研究を認める法律がスイスで3月から施行された Keystone

人間に育ちうる受精卵を使ってあらゆる臓器や組織をつくり、将来の治療に役立てる——。

そんな研究の「第一歩」を認める法律がスイスで3月1日から施行された。

受精卵を使って作るヒト胚性幹細胞(ES細胞)は、人間のさまざまな臓器や組織になるため、臓器移植やパーキンソン病などの難病治療に道を開くと期待されている。だが、本来人間になるべき受精卵を壊して作るため、慎重論も根強い。倫理面で多くの問題を抱えるES細胞の研究がスイスでも舵を切り始めた。

ES細胞研究法

 スイスでは、これまで受精卵を研究目的で使用することは禁じられていた。今回の法改正は、クローン人間やクローン胚作りの禁止は堅持しながらも、受精後7日目までのヒト胚から研究目的でES細胞を作る研究を認めたのが特徴。

 具体的には、保存中の体外受精卵のうち、既に妊娠に成功したなどの理由で夫婦が受精卵の提供を許可すれば、夫婦への十分な説明とそれに基づく同意を前提に、入手が可能となる。

 法改正により今後、ES細胞に関する研究は政府の倫理委員会にかけ、承認を得ることが必要となる。たとえ研究目的であっても、承認されていないES細胞を勝手に作ることはできない仕組みだ。

 これに違反した場合は、5年以下の懲役か50万フラン(約4,400万円)以下の罰金が科せられる。

 連邦政府総務省厚生局のアニタ・ホラーさんは、「現段階では、申請される研究のほとんどは輸入されたES細胞を使うことになるのではないか」と見ている。ES細胞は受精卵から取り出した細胞を培養して作るが、それにはかなりの時間を要するためだ。

欧州と連動

 スイスがクローン人間作りは認めないものの、ES細胞研究を条件つきで認める背景には、世界がしのぎを削る臓器や組織の再生研究に乗り遅れたくないという焦りがある。

 厚生局のホラーさんは「スイスの立場は、生命倫理の面からきわめて慎重なドイツと、ES細胞の一歩先を行くクローン胚研究を認めるイギリスの中間に位置する」と指摘する。

 スイスと同じ立場に立つ国は、フランス、オランダ、デンマーク、フィンランド。

 ES細胞を巡る議論がスイスで注目されたのは、2000年に国内の研究者が米国から輸入したES細胞の研究を認めるよう当局に申請したのがきっかけ。同研究を容認する法案が2003年、議会で通過した。

 だが、中絶に反対する市民団体や遺伝子技術の活用に反対する左派から批判が相次ぎ、法案の是非を問う国民投票が昨年11月に実施され、賛成多数でようやく可決した経緯がある。


 swissinfo  アンドレア・トニナ   安達聡子(あだちさとこ)意訳

ES細胞:


心臓、血管など、あらゆる臓器や組織を無限に増やすことができる細胞。ヒト胚性幹細胞とも呼ばれる。

本来人間になるべき胚を受精卵の段階で取り出し、刺激を与えて作られる。

他に、核を除いた未受精卵にヒトの体細胞を入れてクローン胚を作り、そこからES細胞を作る方法もある。

ES細胞は臓器移植やパーキンソン病などの難病治療に道を開くと期待されている。

だが、子宮に戻せばクローン人間の誕生につながるため、慎重論も根強い。

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