スイスの視点を10言語で

プレス・レビュー、地震の大災害に次いで放射能被曝の恐怖

福島県では放射能被曝の懸念が広がっている Keystone

地震と津波の大災害に引き続く、原子力発電史上初めての大惨事に陥った日本。ショックを受けたスイスは、自国の原発の在り方に疑問を持ち始めている。

福島第一原発の冷却装置の機能停止に伴う事故の発表を受け、スイスの日曜紙は3月13日朝、そろって日本の原発の危機を報じた。また多くの新聞が津波の被害関連も含め1面から続く3,4面の紙面を日本関連に割くという例外的な措置を行った。日本の原発の危機はスイスの原発危機にも繋がるという議論が巻き起こっている。

チェルノブイリと同じ惨事か?

 「チェルノブイリ ( 原発事故 ) と同じ惨事か」という疑問は多くの専門家の頭をよぎる。スイス政府の顧問も務めるジョルジュ・シュバルツ氏は、かなり慎重に

 「事故の要因からすればチェルノブイリは日本の100倍の規模だった。また原子炉のタイプも違い、日本のものは格納容器を保護する壁がいくつもある。ただ、問題はこの壁がどれだけ耐え得るかだ」

 とドイツ語圏の日曜紙「ゾンターク ( Sontag ) 」で話す。

 ジュネーブ大学教授、ヴァルター・ヴィルディ氏は「NZZ・アム・ゾンターク ( NZZ am Sonntag ) 」 で、日本政府が事故の重要性を低く見積もっているとしながら

 「日本政府は放射能被曝の危険性を低レベルに公表しているが、半径20キロ圏外に住民を避難させた事実は、原発をうまく制御できていない証拠だ」

 と指摘する。

地球の怒り

 進展がはっきりと掴めない状況の中で、各新聞の編集者はすでに大規模な被爆を予想し、原発事故を工業化社会の虚弱性の象徴と捉え絶望感に浸っている。

 「世界で最も安全な原発所有国で事故は起きた。あり得ないことが起きた。それは2008年、2009年の経済危機があり得ないのに起き、 ( エジプトの ) ムバラク前大統領の失墜、カダフィ氏のリビアもあり得ないのに起きたのに似ている。多くのことがあり得ないのに起きている。気候変動、インターネットの崩壊、極端なインフレーション、石油資源の終わり・・・」

 とゾンタークの編集部は書く。

 

 「ゾンタークス・ブリック ( Sontags Blick )」 は、世紀末的なトーンでさらに強く警鐘を鳴らす。

 「人間は突然無力な存在になった。無力さにただ泣くしかない存在。恐らく地球を怒らせてしまったのではないか・・・もっと速い自動車が欲しい、もっと原子力発電所が欲しいと、欲望のままに進んできた・・・ただそれが可能な限りだが。日本は、人間の限界がどこにあるかを再び見せてくれた。あと何回こうした限界を見せつけられないと人間は納得しないのだろうか?地球はあとどれだけわれわれに耐えてくれるのだろうか?」

スイスでも核エネルギーの見直し

 一方、日本の原発の大惨事は、原子力発電に頼る国々にエネルギー問題の議論を巻き起こすだろうと全ての日曜紙は書く。

 

 「福島第一原発の事故は日本だけの問題ではない。世界の核エネルギーそのものに関わる。それは温暖化などで原発が再評価されはじめたいわゆる『原発ルネサンス』がまさに積極的に論じられようになった矢先に起きた」

 と、「ゾンタークス・ツァイトゥング ( Sontags Zeitung ) 」は言う。

 スイスでも議論が再開されることは必須だ。国民投票により、現存する原発以外の建設は反対されていたが、電力の需要に伴い電力会社が二つの原発建設計画を練っているからだ。

 「確かに日本とおなじ原因でスイスに事故が起こるとは考えにくい。しかし問題は、安全性に信頼を置けるのかどうかということだ。真摯で納得できるような返事が出されない限り、国民は建設に賛成はしないだろう」

 とNZZ・アム・ゾンターク。

 福島第一原発の事故を受け、社会民主党 ( SP/PS ) の党首クリスティアン・ルヴラ氏は、新しい原発計画を直ちに凍結すべきだと訴える。緑の党 (  Grüne/ Les Verts  ) はさらに一歩突っ込んで、ベルンにあるミューレベルク原発の使用に制限を加えるよう政府に再検討を要求している。

 ところで、緑の党の議員ゲリ・ミュラー氏は、スイスの外電 ( ATS ) で、「スイスでも600年前にマグニチュード7の地震があった」と語り、この古いミューレベルク原発はマグニチュード5でも耐えられないだろうと警告している。

擁護側にもショック

 しかし、今回の事故はこうした左派の政党のみならず、原子力発電を最も擁護する側にもショックを与えている。アールガウ州の原子力発電所取締役会のメンバーである国民議会議員 ( 下院 ) 、ロルフ・ビュッテイコッファー氏は

  「日本の原発事故にショックを受けた。安全性の確認を新しく行うべきであるし、こうしたことがスイスでは起こらないと考えるのはまったくのまちがいだ」

 と明言。

 さらに、次のように結論した。

 「まるで何も起こらなかったように振る舞うことはもうできない。核エネルギーの危険性を再検討し、もしそれが非常に高いという結論に達するのなら、スイスの新しい原発建設は辞めるべきだろう」

スイス連邦外務省 ( EDA/DFAE ) は3月12日、日本の被災地への捜索・究明チーム派遣を決定した。

3月13日朝に到着した25人の専門家と9匹の捜索犬は2グループに分かれて活動を開始した。

第1グループは捜索隊。捜索犬と位置測定器で瓦礫に埋もれた人を捜索。津波に襲われた地域を中心に活動。

第2グループは重要課題の究明を急ぐ。特に環境保護分野で、緊急援助が必要な場合に当局との調整を確保するなどの任務を受け持つ。

( 仏語からの翻訳・編集、里信邦子 )

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部