前スイス大使 國松孝次氏に聞く
國松孝次、前スイス大使は、スイス滞在中に見聞したことをもとに著した『スイス探訪』(角川書店)を出版した、スイスに造詣の深い日本人の一人である。スイスを訪れる観光客がいまでも、アルプスの山などスイスの美しい自然にしか興味がないのは残念という。
スイスインフォとのインタビューの中で國松氏は、ハイジの国スイスといった、スイスの典型的イメージを払拭するためにも、愛知万博のスイス館を日本人が訪れることは有意義だと語った。
———日本大使としてのスイスに滞在した3年間は、どのようなものでしたか。
多くのスイス人と知り合いになることができ、滞在を大いに楽しんだ。スイス人との交流を通し、日本人とスイス人はだいぶ似ていると思った。
任期中にスイスの20州を訪問したが、スイスのどこを訪ねても、スイスが孤立しているとは感じなかったのが印象的だ。
———日本からの観光客が多いですが、その理由はなんだと考えますか。
日本人はスイスという国が好きだからだと思う。一度はスイスに旅行したいと望む日本人は多い。また、スイスを一度訪れた人は、再訪したいと思い、実際、再びスイスを訪れる。多くの日本人観光客は、アルプスの山の美しい風景を堪能し、チョコレートを食べて、高級時計を買う。観光客の関心はこうした「典型的なスイス」の観光に限られていることが多く、残念なことだ。
観光客の多くは、スイスの政治制度、社会構造そして文化などに対する興味は薄い。わたしの任期中は、スイスを総合的に日本人に紹介することに心を砕いた。
———スイス人はきれい好きで、信頼のおける国民であり、完璧主義者であるといったことも観光客がスイスを訪れる理由になっていますか。
それもある。美しい風景はスイスのひとつのメリットだ。しかし、日本人にはスイスのほかの面も見てほしい。たとえば、社会福祉機関を訪問したり、文化活動への参加などもしてほしい。
わたしは『スイス探訪」という題の本を著したが、本の中で、日本人に見てもらいたいスイスを書いた。スイス人が自然の美しさを愛するのは事実だが、スイスにはそれ以上のものがある。
———愛知万博のスイス館は、訪れる人々に対し、スイスに対する見方を変える効果があると思いますか。
スイス館を訪れる日本人にとって、スイスの全体像を見ることができるという意味で、有意義だ。美しい山の景色だけではなく、スイスの高い技術の粋なども紹介されている。多くの人がこれを見て、スイスを訪れたいと思うのではないか。
観光ばかりではなくスイスが、ほかの面でスイスをアピールすることは良いことだ。たとえば、連邦工科大学がすでに行っている、各国の科学者の交流を深めるといった活動は有意義だ。
———両国がお互いに学べることがありますか。
スイスは、欧州共同体(EU)に加盟していないが、EUの東方拡大など、グローバル化に直面している。スイス政府とスイス国民はこうした状況下において、スイスのアイデンティティーの保持とグローバル化とのバランスを探っている。
グローバル化が進む中、国としてのアイデンティティーを保つのは難しい。他国に侵略されたこともなく長い歴史があるスイスにとって、グローバル化に乗り遅れないようにすることは今後の課題である。
一方、日本もスイスと同じような立場にある。スイスが新しい時代にどのように対応しようとしているのかといった面で、日本がスイスに学ぶことは多くある。
swissinfo 聞き手 クリスティアン・ラーラウフ 佐藤夕美(さとうゆうみ) 意訳
國松孝次
1999年から2002年まで日本国スイス特命全権大使を務める
著作『スイス探訪』
現在は損保ジャパンの顧問をしながら、ヘリコプターによる人命救助の組織を日本に作るため活動をしている。
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