宇宙探査 小国スイスの大きな貢献
スイスはノーベル物理学賞のダブル受賞、世界初の「宇宙ごみ収集車」計画、太陽系外惑星望遠鏡CHEOPS(ケオプス)と、宇宙研究で華々しい実績を持つ。その技術力は最新宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ」でも活躍している。
その映像は世界の宇宙研究史に新しい1ページを刻んだ。赤外線を計測し、先代のハッブル望遠鏡よりはるかに大きく、低軌道ではなく地球から150万キロメートル離れた場所を浮遊するジェームズ・ウェッブ望遠鏡は、人類がこれまでに作った中で最も強力な天体観測装置であると言える。その要となる技術の開発にはスイス人科学者も携わった。
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新型望遠鏡ジェームズ・ウェッブ 宇宙で輝くスイスの技術
宇宙にはこれまで数千個の物体が打ち上げられ、数万個の宇宙ごみ(デブリ)が危険をもたらしている。連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)らが2020年12月、デブリ収集車「クリアスペース1号」計画を発表した。その任務は宇宙ごみ1個を捕獲し、ごみと共に帰還し、大気圏に再突入することだ。
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世界初の「宇宙ごみ収集車」はスイス製
2019年にノーベル物理学賞を受賞したミシェル・マイヨール氏とディディエ・ケロー氏。2人が太陽系外惑星を最初に発見したのは1995年だが、学界の外ではほとんど話題にならなかった。それから何年も経ち、人々はSFの中の話だと思っていたものが現実と証明されたことに、ようやく気付いたのだ。銀河系は星だけでなく、数多の惑星がある。そして、太陽以外の恒星を回る「世界」を最初に見つけたのは、ほかでもないスイス人のマイヨール氏とケロー氏だった。
24年後、彼らの発見が、ノーベル賞受賞につながった。
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「ノーベル物理学賞で科学界の頂点に登りつめた」
この誇り高き2人の功績はノーベル賞にふさわしい。20世紀の天文学で最も重要な発見だったからだ。宇宙の構造を理解するための新たな研究分野を切り開いただけでなく、地球外生命体の可能性も数百万倍に増えた。
太陽系外惑星の発見から20年を迎え、誰もが抱く疑問についてこの記事は踏み込んだ。
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無数にある太陽系外惑星、生命体はどこに?
しかし、数億キロという途方もない空間の中で生命体を探すというのは、至難の業だ。でも、そこが人間の知恵の見せ所。そこでもスイス人が貢献している。
この探求には最初から創意工夫が求められた。だが、ぼんやりした光の点が映る1、2枚の写真を除いては、誰も目にしたことがない惑星の存在をどう証明できるというのだろう。それを紹介するビデオがこちらだ。
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発見される、無数の惑星
研究はさらにその先へ進んでいる。太陽系外惑星は何でできているのかを調べること。その使命を担うのが、昨年12月に打ち上げられた欧州初の衛星で「スイス製」のCHEOPS(ケオプス)宇宙望遠鏡だ。
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宇宙望遠鏡ケオプスが打ち上げ スイスなど開発
しかし、宇宙部門でスイスの評判を確立させたのは、CHEOPSやノーベル物理学賞研究者のほかにもいる。宇宙に滞在したことのあるただ一人のスイス飛行士、クロード・ニコリエ氏だけではない。
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「子どもの夢がかなった」
1969年、ニール・アームストロング船長とバズ・オルドリン宇宙飛行士は、スイス製の腕時計をつけ、人類で初めて月面着陸に成功した。そして2人が星条旗を打ち立てる前にした初めての作業は、太陽風の粒子を集めるアルミ箔シートを月面に設置することだった。アポロ11号に搭載された、唯一米国のものではないその実験を担当したのは、ほかでもないベルン大学だった。
宇宙探査が始まってから、小国スイスの技術は必ずと言っていいほど米国や欧州緒宇宙事業に使われてきた。宇宙旅行の過酷な環境に耐えられる、精密で信頼のおけるデバイスを作るノウハウを、スイスは持っているからだ。
火星で探査機ローバーを動かす、彗星から排出されたガスを「嗅ぐ」、太陽系の惑星の高解像度画像を撮影するーなどといった問題の解決に、スイスのエンジニアたちが貢献している。
最新の例がSTIXだ。 これは太陽フレアを調べるX線望遠鏡で、太陽のごく直近まで近づき、さまざまなデータを収集する欧州宇宙機関(ESA)の太陽観測衛星に搭載されている。
スイスは、時計と精密機械の製造国であり、非常に効果的な教育研究支援システムもある。 それが、このアルプスの小国が宇宙事業で活躍する理由の一つでもある。
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