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明かされた軍事機密

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スイスで秘密といえば銀行の守秘義務が有名だ。だが、秘密はほかにもある。有事になると48時間以内に臨戦態勢が整うといわれているスイス軍の軍事機密だ。

スイス各地に散らばる要塞や防空壕の存在もその1つ。これらの場所や設備などは、長い間、厚いベールに覆われていた。

 時は第2次世界大戦にさかのぼる。中立国スイスは南北を枢軸国に挟まれ、国土の防衛に必死だった。北の国境を守り切れないと判断した連邦政府は、アルプスを背後に控えるスイスの中央部に軍事を結集させ、ここを最後の砦にすることにした。シュヴィーツ州はこの戦略で大切な役目を果たした土地の1つだ。

お役御免の要塞

 北から侵入してくる敵をここで食い止めるため、各要地の堅固な岩山の中に大砲を備えつけた要塞が造られ、セルギス ( Selgis ) の山中に司令部が置かれた。これらの施設は外から見てもほとんど目立たない。灰色の扉が山の岩肌から覗いているだけだ。近隣の村人はその存在をうすうす感じ取っていたにしても、詳細が外に漏れ出ることは絶対になかった。

 だが、戦争が終わり、冷戦も過ぎ、国際関係の緊張の糸が弛むにつれてスイス軍は縮小され、これらの要塞は無用の長物となった。もちろん、まだ使用されている知られざる要塞も存在するが、閉鎖される施設もあれば、個人に売られたり、基金によって一般公開されているものも多い。ここセルギスの要塞は「シュヴィーツ州要塞基金 ( Stiftung Schwyzer-Festungswerke ) 」が連邦政府から管理を引き継いで一般公開している5つの要塞のうちの1つだ。セルギスの管理責任者を務めるアロイス・メットラーさん ( 69歳 ) によると、スイス全国には軍が造った要塞や防空壕がおよそ3万カ所あるという。

異色の存在

 しかし、ここセルギスは異色の存在だ。まず、大砲などを備えた砲兵や歩兵用の要塞が多い中、ここは武器を置かない指令部であったこと。そして、施設内に1人の兵士が描いた13の壁画が残っていることだ。

 その兵士、ザンクトガレン州出身のヴィリ・コッホさん ( 1909~1988年 ) は画家だった。一介の狙撃兵として1943年から44年まで兵役に就いたが、彼の任務はおそらく絵を描くことだけだったのではないかと、メットラーさんは推測する。軍の幹部が集まるセルギス要塞には特別仕様が施されたというわけだ。

 壁画のモチーフは実にさまざま。自然光の入らないひんやりとした施設の中で、明るい港街や田舎道を行進する軍人、あでやかな婦人などが壁いっぱいに広がる。これらの絵は岩山の中で秘密裏に行動しなければならない軍人たちの心を和ませていたのだろう、落書きなどはほとんどない。

 「秘密を守らずば祖国を損なう」。セルギス要塞の壁にはこんな言葉も大きく書かれている。コッホ画家はこの軍規を堅く守り、任務に関して一切他言しなかった。この壁絵の存在が明らかになったのは、2003年にセルギスの情報が公開されてから。現在、これらの壁画はシュヴィーツ州の文化財に指定されている。

 シュヴィーツ州要塞基金は、スイスの歴史と深く結びついている軍の足跡を後の世代に伝えるために設立された。「要塞を造らず後悔するよりは、造ったが使わなかったという方がいいでしょう?」とほほ笑むメットラーさんの目が印象的だった。

swissinfo、小山千早 ( こやま ちはや )

<シュヴィーツ州要塞基金>

– 2000年2月設立。

– シュヴィーツ州にあるエッツェル ( Etzel ) 、ザッテル ( Sattel ) 、グリナウ ( Grynau ) 、シールゼー ( Sihlsee ) 、セルギス ( Selgis ) の5つの要塞を管理、一般公開。

<セルギス要塞>

– 1941/42年に地下司令部用に建設される。

– 奥行き100メートル、広さ約1300平方メートル。

– 改築を重ねて1995年まで大部隊が利用。

– 2003年に情報が公開され、2004年以降シュヴィーツ州要塞基金が連邦政府から賃貸、いずれは買い取る予定。

– 見学は最低10人から ( 100フラン/約9800円) で、ボランティアの案内人が1人つく。言語はドイツ語か英語で所要時間は約1時間半。予約要 ( 電話番号079-355-2823および041-811-2247 ) 。

– 施設内は常に10度から12度に保たれている。

– 施設内で会議を開いたり、地元のワインや軍隊の簡単な食事などを楽しむこともできる。予約要。

– 過去1年間の来訪者数はおよそ500人。

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