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ちびっこギャングが高級ホテルに潜入

何かを始めるのに、早すぎるということはない swissinfo.ch

世界中の高級ホテルでスイス人が活躍しているのはなぜだろうか。答えは簡単。彼らは非常に早い時期から準備を始めるのだ。

皇室や王侯貴族も泊まる超高級ホテル、リッツ。この名前は創業者のセザール・リッツ氏から来ている。彼はスイス人だった。そしてパスカルやニコール、ジョエルの名前もいつの日か世界的に有名になるかもしれない。

 パスカル、ニコール、ジョエルはそれぞれ9歳、10歳、11歳。彼らに国のホスピタリティ産業が熱い視線をおくっている。

裏の裏まで見せますツアー

 ジョエルは将来のホテル・ビジネスを担う者としてなかなか素質がある。このぷっくりしたほっぺの、野球帽をかぶった坊やは、ホテル・ゼーブルクの宿泊料が一泊590フラン ( 約5万5000円 ) と聞いても眉一つ動かさなかった。ホテル・ゼーブルクは、ルツェルンにあるしゃれたホテルだ。

 「ま、このくらいの部屋なら確かに納得する値段だね」。ぶくぶく泡のでるお風呂や、金のふち飾りがたっぷりついた鏡や洋服ダンス。このロマンチックなスイート・ルームを一通り見て廻ると、ジョエルは感想を述べた。

 客室だけではない。子供たちは、洗濯部屋から調理室までホテルの裏側を全部見て廻る。しかも、ただ見学するだけではなく、膨大な食料や飲み物がどのように効率よく安全に管理されているか、宿泊客のチェックインをどう段取りするのか、ということまで細かく知ることができる。

 これはルツェルン市が、子供たちを対象に夏休み特別プログラムとして組んだ「裏の裏まで見せますツアー」だ。何十人もの子供たちが参加した。これは企業にとっても、若い世代に自らを売り込めるまたとないチャンスだ。

お墨付き

 子供たちのほとんどは、高級ホテルリッツの伝説やスイスの国際的に有名なホテル学校について、まだ耳にしたことがないかもしれない。例えばローザンヌホテル学校 ( Ecole Hoteliere Lausanne ) 。ホテルのマネージメントでは世界で最も由緒正しい学校であり、現在でもここを卒業すれば世界的に通用するお墨付きを手にすることになる。

 このローザンヌホテル学校を卒業すれば、普通の大学と同じレベルの学位が取れる。しかも2005年からスイスのホテル学校は、プログラムの基準をより引き上げた。今までは2年間のプログラムだったのが、2005年からは3年間になったのだ。

 一方、子供たちはスイスのホテル産業の危機についてマスコミが書き立てていることについても、きっと知らないだろう。過去十数年で閉鎖されたスイスのホテルは約1000軒。だからこそ、若い世代がこんな余計な情報を手にする前に、ホテル産業に良い印象を持ってもらわなくてはいけない。

人材難にそなえよ

 大抵の場合、スイスでは義務教育が終わった16歳から職業見習い期間が始まる。ホスピタリティ業界の就職人気ランキングは第6位だ。

 ホテル・ゼーブルクも所属しているスイスホテル協会 ( Hotelleriesuisse ) のカリン・リッツハルト氏は語る。「毎年、私たちのセクターは多岐に渡る種類の職業見習い生を受け入れており、全部でその数は8000人ほどになります。しかし、他の産業の職業見習い人数はそんなに多くないため、私たちのセクターへの応募はかなりの数になっています」

 しかし、スイスでも10年以上出生率が下がり続けた結果、少子化は頭の痛い問題となっている。特に2008年はかなりの人材難が予想されている年だ。「だからこそ、私たちはあらゆる努力をして、若い世代に積極的に売り込みを行っていかなくてはいけません」とリッツハルト氏は今回子供たちを受け入れた理由を話す。

 というわけで、今回のツアーはジョエルにとっても企業にとってもおいしい企画であるわけだ。メロンを勢いよく叩き割ってお皿に飾り付けた後、ジョエルは自分がいつの日か白いコック帽をかぶって調理室に立つことを夢見るかもしれない。

 10歳のニコールはテーブルにお皿やコップを運ぶことに興味を持ち、クサクシタはディナーのマナーレッスンが理解できないようではいつか困ったことになるかもしれないと思い始めた。

自分の家のお客だと思いなさい

 しかし、子供たちがどんなにホスピタリティ産業に興味をひかれようとも、将来も彼らがスイスに残るとは限らない。スイスでトップのホスピタリティ学校を卒業すれば、観光産業が勢いを持っている場所なら世界中どこでも引く手あまたなのだ。

 経済発展めざましいアジア太平洋地域や、中東の湾岸地域では新しいホテルが毎日完成しており、ホスピタリティのプロフェッショナルの需要が急増している。ホテル協会の求人部門の職員であり、自らもコックであるアレックス・スペールサクソ氏は言う。「バンコクやドバイなど、世界中でスイス人のコックが働いています」。スイスのホスピタリティ学校の卒業生が活躍する場はホテルだけではない。優雅なリゾート地や、豪華客船のコックという道もある。

 しかし、なんといってもホスピタリティの真髄は「真心」だ。ツアーもいよいよ終わりに近づき、リッツハルト氏は「私たちは子供たちに、ホテルはあたたかい家庭のようなものだと説明しています」と言った。「いつか彼らがホテルの経営者になった時、自分の家で大事なお客さんを招く時と同じ気持ちでいるべきだということを、彼らに伝えたいと思っています」

swissinfo、デイル・ベヒテル ルツェルンにて 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳

ホスピタリティは「もてなし、歓待」の意味だが、ここではホテルやレストランなど、お客を迎えるサービス産業を指している。
スイスはホスピタリティ・マネージメントのメッカ。

‐スイスには3万軒ものホテル、レストラン、バー、カフェがある。これは住民235人に1軒の割合。
‐ホテルやレストランなどでお客に出される食事は1日200万食。
‐記録に残っているものだけで、ホテル5600軒に1年間3200万泊の宿泊数。

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