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エコカー革命

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世界のガソリン車の半数が今後3年間で水素駆動の車に代わるだろうと、スイス人企業家ニコラ・ハイエック氏は言う。

太陽光を利用して水を水素と酸素に分解し、乗用車の燃料を得るという環境に優しいエネルギーシステム研究の促進を目的としたプロジェクトを「スウォッチ ( Swatch ) 」の会長が立ち上げた。

 ハイエック氏は5月7日にルツェルンで開かれた世界自動車連盟 ( FIA ) 主催の会議に出席した。今回の会議では、自動車関連団体の環境問題への取り組みについて話し合いがおこなわれた。

3年以内に実用化

 水素自動車が商業生産に入るにはまだ何十年もかかるだろうという専門家もいるが、ハイエック氏の見解では、ここ数年の大手自動車会社は水素自動車の実用化をもっと早くに実現できるだけの進展を遂げているという。

 「どれだけ多くの人が精力的にこの課題に取り組むかの問題です。燃料電池の開発に取り組んでいる自動車会社すべてが、今後3、4年の間に10万台の水素自動車を市場に出せば、10年以内に世界にある車の半数が水素で走るようになるでしょう」
 とハイエック氏は言い、さらに続ける。
「しかし、消費者からの要望が高く、開発にもっと力を入れるならば、2、3年以内に水素自動車を市場に出すことが可能です」

穴だらけの宇宙船地球号

 ハイエック氏はスイスの時計産業との関わりが実に深いが、20年前にソーラーカー「スピリット・オブ・ビール ( Spirit of Biel ) 号」を作っている。その後、当初の計画ではハイブリッドエンジンを搭載するつもりだった小型車「スマート ( Smart ) 」 をデザインしたのも彼だ。

 「地球という1隻の宇宙船に乗っているというのに、わたしたちは子どもたちや未来の世代のことを考えず、この船を大事に扱っていません。この宇宙船に穴を開けているのがわたしたちです」
 と、ハイエック氏はFIAの会議で聴衆に語りかけ、車の欠かせない現代社会について触れた。
「わたしたちは個人的な移動手段を必要としています。車に乗って毎日どこかに移動する自由がなかったら、非常に困ることでしょう」

 ハイエック氏の新事業である「ベレノス・クリーン・パワー社 ( Belenos Clean Power ) 」は、自動車燃料用の水素を製造する技術の向上に向けさまざまなアプローチをしているが、その中の1つは、太陽エネルギーを利用して水を水素と酸素に電気分解し、水素の大量生産を商業的に実現できるような方法の開発だ。太陽エネルギーを利用することで、水素製造過程で排出される温室効果ガスの問題を回避できる。

 また、洗濯機ほどの大きさの家庭に置ける電気分解装置を作ることで、ハイエック氏は負担を「分担」できると見込む。水素が各家庭で製造されれば、大きな工場を建設する必要がなくなる。

政治家に頼らず

 また、ガソリン車と変わらない性能を確保し、低価格で利用できるよう、燃料電池、電池、太陽電池の効率の向上に取り組んでいる。ベレノスは実際に車やエンジンを製造するのではなく、研究内容の特許を取り、自動車会社にライセンスを販売することで利益を上げるつもりだ。

 「スイス・ツーリング・クラブ ( Touring Club Switzerland )」 などの国際的な自動車団体が出席した今回のFIAの会議で、ハイエック氏は出席者の担う役割の重要性を語った。
「政治家よりも皆さんの方がよっぽどエネルギー問題を解決できるのです。皆さんの団体は、移動性によって私たちが得る利益を守っているのですから、メンバーの信頼が厚いのです。民主主義の国では、何かを生み出し変える力はいつも人民の側から起こります」

swissinfo、マシュー・アレン ルツェルンにて 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

「ベレノス・クリーン・パワー ( Belenos Clean Power ) 」の株主には「スウォッチ ( Swatch )」 、「ハイエック・エンジニアリング ( Hayek Engineering ) 」、「ドイツ銀行 ( Deutsche Bank ) 」が名を連ねる。ケルト神話の光を司る神ベレノスに由来し、2007年に創立された。

ニコラ・ハイエック氏は息子のニコラ・G・ハイエックJr.氏、娘のナイラ氏、ドイツ銀行最高経営責任者ヨゼフ・アッカーマン氏、ハリウッドス俳優ジョージ・クルーニー氏、スイス人宇宙飛行士クロード・ニコリエール氏、連邦工科大学チューリヒ校 ( ETHZ ) 学長ラルフ・アイヒラー氏、フリブール ( Freiburg ) の電力会社グループE ( Group E ) 社長フィリップ・ヴィルディス氏と共に役員を務める。

グループE、連邦工科大学、スイスの有名な研究所「ポール・シェーラー研究所 ( Paul Scherrer Institute )」、そのほか世界的な企業と共同でプロジェクトを推進中。

研究内容の特許を取り、自動車業界に対するライセンス販売を計画中。5年間で採算が取れるとハイエック氏は見積もる。

1904年、非営利目的の国際的な自動車団体の統括組織として結成される。F1を含むモータースポーツの運営機関でもある。

130カ国222の自動車関連グループから成り、グループのメンバーは1億人。

国連 ( UN ) や欧州連合 ( EU ) などの国際機関に対し、安全面、環境面、移動性、消費者保護法などに関する加盟者の利益を促進する。

1896年に元来は自転車のクラブとして結成されたスイス・ツーリング・クラブも加盟している。

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