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スイスのエネルギーの未来は地熱か?

地熱ヒートポンプはスイスで広く普及している暖房設備だ。チューリヒの設置現場にて Keystone

国を挙げて再生可能エネルギーを促進しているスイス。脱原発という政府の決断を受け、地方都市やスイスの電力会社は地熱に大きな期待を寄せている。

火山のないスイスでも地熱はある。地球の中心は5000度あると言われており、地下5000メートル付近の温度は150度から200度に達する。

地熱は季節や天候に左右されず、安定したエネルギーを供給できる。この地熱の開発を進めるザンクトガレン市に焦点を当てた。

 のどかな風景が広がるザンクトガレン市ジッタートーベル(Sittertobel)。ここの地下4000メートル付近には高圧力による150度から170度の熱水が流れており、それを地上に汲み上げて発電する地熱発電所建設計画が昨年11月、同市の住民投票で可決された。

 今回の計画では「ハイドロサーマル方式」が採用されている。この方式ではまず熱い地下水がたまっている帯水層まで2地点でボーリングをし、2本配管を通す。一方の配管で湯を汲み出し、その蒸気でタービンを回し発電する。他方の配管では冷めた水が地中に送り返される。予定では年間600万キロワット時から800万キロワット時の電力生産が見込まれている。

 また電力生産と同時に、湯の熱も地域熱供給のエネルギーとして使用される。地域熱供給とは、1カ所または数カ所の設備から直接配管を通して複数の建物に給湯や暖房などを供給する方法で、今回建設予定の設備ではザンクトガレン市にある建物の半数、約4万4000棟の暖房を供給する見込みだ。総予算は1億5900万フラン(約153億円)で、そのうち7600万フラン(約73億円)が地熱発電所建設に、8300万フラン(約80億円)が地域熱供給事業に投資される。計画は順調に進んでおり、2014年には稼働が予定されている。

2050年も温かい家を実現するために

 スイスの電力供給は主に州や地方自治体が責任を負っており、各自治体は独自のエネルギー政策を打ち出している。ザンクトガレン市議会は2007年、再生可能エネルギーの利用促進を軸に据えた計画「エネルギーコンセプト2050」を採択。「2050年になっても家やオフィスを暖房できるようにするには、今我々は何をすべきか。これが『エネルギーコンセプト2050』の重要なテーマだった」とザンクトガレン市環境エネルギー局のハリー・キュンツレ氏は話す。

 同市での暖房は全体として年間1200万フラン(約11億円)かかり、現在はその9割が化石燃料などの限りある資源に由来する。「ザンクトガレン市は年間9億キロワット時の熱需要があり、130度から170度の地熱があれば20度から25度ぐらいの暖房を供給することができる。風力発電とは違い、地熱は年間を通して安定したエネルギー源で、しかも安価だ」とキュンツレ氏は強調する。

地熱開発のリスク

 だが、地熱開発にはリスクも伴う。チューリヒ市では昨年、2000万フラン(約19億円)をかけて地熱発電の試掘を行ったものの、試掘75日後に見つかったのは、予想をはるかに下回る低温の水だった。

 またバーゼル市では「ペトロサーマル方式」で地熱開発が進められた。この方式では地下約5000メートルにある乾いた高温の岩盤まで2地点で掘削し、1本の配管から高圧で水を注入して岩盤の隙間を広げる。注入された水はそこで温められ、もう1本の配管がそれを汲み上げ、発電用タービンを回す。初めは計画通りに進んでいたが、2006年12月8日、岩盤の隙間に水を流し込む工程でマグニチュード3.4の地震が引き起こされ、町は騒然となった。その後リスク分析などを行った結果、バーゼル市議会は2009年12月、この地熱開発計画停止を決定した。

 こうしたリスクに対してザンクトガレン市は、バーゼル市のような地震は起こらないと説明している。高圧で水を岩盤に流すのではなく、すでに自然にたまっている地下水を汲み上げるためだ。またチューリヒ市のように高温の湯が見つからなくとも、さらに深いところまで掘削を進めたり、掘削の方向を変えてみることでなんらかの地熱利用を計画していると、ザンクトガレン市広報のエスター・レーベル氏は説明する。

地下1万メートルで堀削する計画も

 地熱開発にはスイスのほかの都市や企業も注目している。スイスの電力会社7社は昨年11月、地下4000~6000メートルの深層地熱開発を進めるため、合同会社「ゲオ・エネルギー・スイス(Geo-Energie Suisse AG)」を立ち上げた。苦い経験をしたバーゼル市やチューリヒ市の電力会社もその中に含まれている。この新会社理事のウルス・シュタイナー氏はスイス国営放送に対し、「地球の99%は1000度以上の温度があり、このエネルギーには大きな可能性が秘められている。今後4年間で開発の候補となる地域を選び、地質調査を行う予定だ」と話す。

 また地方都市の電力会社12社が2000年に設立した合同会社「スイスパワー(Swisspower)」は6月下旬、地下1万メートルまで掘削する地熱開発構想を発表。100万キロワット時の電力生産を見込んでおり、同社は原発や火力発電に代わる代替エネルギーとして地熱に期待をかけている。 

スイスの国民議会(下院)は2007年、電力供給法改正を受け、再生可能エネルギー源による電力を固定価格で買い取る決定をした。この制度の財源を確保するため、電力消費者は1キロワット時(kWh)につき0.0045フラン(約0.43円)を上乗せ料金として支払わなければならない。2013年には上乗せ料金を1kWhにつき0.009フラン(約0.86円)に引き上げ、国は5億フラン(約480億円)の予算を再生可能電力の買い取りに組んでいる。

スイスで新しく建設される建物の約3割が地熱で暖房している。スイス地熱協会(Schweizerische Vereinigung für Geothermie/Société Suisse pour la Géothermie)によると、地下50mから300mあたりの低層地熱を利用した地熱ヒートポンプの利用率で、スイスは世界のトップに入る。だが、深層地熱開発はスイスではまだ初期段階だ。隣国ドイツやフランスでは地熱発電がすでに稼働しており、アイスランドも地熱開発において高い技術を誇っている。

連邦エネルギー省エネルギー局(BFE/OFEN)が発表したスイスの2010年度発電電力量の割合は以下の通り:

水力発電:55.8%

原子力発電:39.3%

再生可能エネルギー(廃棄物、バイオマス、バイオガス、太陽光、風力):2%

その他:2.9%

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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