スイスのパワースポットを巡る
スイスには神秘的な場所がたくさんある。そこでは疲れた人たちが地球からのエネルギーを吸収して「充電」できるという。そこでスイスインフォは今回、こうした「パワースポット」を訪れてみることにした。
『スイスのパワースポット』というガイドブックをめくりながら、この癒しのエネルギーが一体どのようなものなのかを大まかにつかむため、都市、郊外、山の中にある3つのパワースポットを選んだ。
巡礼地へ
最初の目的地はルツェルンからさほど遠く離れていない、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の道の途中にある巡礼地ヴェルテンシュタイン ( Werthenstein ) だ。エンメ川にそそり立つ崖のてっぺんには後期ゴシック建築の教会が建ち、遠くからでも見事な眺めだ。
そもそも、教会はパワースポットの典型だ。また、本の執筆者であり地球生物学者のブランシェ・メルツ氏によれば、教会はエネルギーが空気のように流れていることを感じられる絶好の場所だという。
「古い大聖堂の円天井の下に立ち・・・・何も考えず、体の力を抜く。すると、かすかな振動を感じるだろう」
とメルツ氏は記している。
さらに、ヴェルテンシュタインの教会の回廊は外界から遮断された墓地になっており、そこには幅広いさまざまなエネルギーレベルがあるとメルツ氏は指摘している。ここですることは、目を閉じ、足元の墓に死者が眠っているかいないかを考えながらゆっくり移動することだ。確かに、死者の上に自分が立っていることを想像するたびに、何とも言えない嫌な感覚に襲われるような気がする。
そしてベルンへ
次に目指すはベルンの旧市街だ。ここでは、メルツ氏が言及しているように聖ペーター・パウル教会と大聖堂を結ぶいわゆるジオマンシー ( 土占い ) のラインをたどる。そうなると、クラム通り ( Kramgasse ) を渡ることになるが、トラム ( 路面電車 ) がガタガタ走っている中では集中しにくい。
さらに、このラインを正確にたどろうとすると壁を突き抜けて行かなければならず不可能だ。しかし、大聖堂の脇には公園があり、見通しの良さは言うまでもなく、じっくり自分と向き合える静かな空間だ。園内をゆっくり歩きながら、高いエネルギーを感じ取ろうと懸命に努める。足を一歩前に踏み出したり、後ろに下がってみたり。そして、胸が早鐘を打ち始める。
本の中で、スイスのパワースポットの多くはかつてケルト人が住んだ所だとメルツ氏は書いている。これらの土地がその後になって崇拝の場所として人びとに知られるようになったのは極めて当然のことだという。
メルツ氏は2002年に他界する前に、現在はローザンヌにある「地球生物学研究所 ( Institute for Geobiological Research ) 」を創設した。ジュラ地方にあるラ・ショー・ドゥ・フォン ( La Cahux-de-Fonds ) 出身のローマン・ヴィニガー氏は最近この研究所で集中講座を受け持った。
「パワースポットが先にあったのか、それとも教会が先なのか、常に考えています。おそらく、もともと教会を開くのに適した場所だったのでしょうが、そこで祭礼が執り行われるに従い、ますます霊的な場所になったのでしょう」
とヴィニガー氏は言う。逆に言えば、何か悪いことが起これば、こうした良い場所もだめになるだろうという。
人気のパワースポット巡り
今日、スイスのパワースポットには世界中から人が集まっている。フィアヴァルトシュッテッテゼー湖観光局のウェブサイトはこのテーマの特集をしている。責任者のエスティ・フォン・ホルツェン・ビューン氏は
「パワースポットはここ数年間で、さらにその重要性が増しました。そこに集まる人たちは自分自身に意識を向け、落ち着いて自らの生き方をじっくり考えようとしています」
と言う。
この観光局が担当する地域のルツェルン湖周辺にはパワースポットが数カ所ある。その多くは教会だが、それ以外は自然だ。
「多くの人が自然の中に行き、充電できたと感じます。山そのものがパワーをくれるのでしょう」
とフォン・ホルツェン・ビューン氏は言う。メルツ氏の本によれば、スイスの山の頂上は下の谷にエネルギーを送るアンテナのような役割をしているという。山を歩くハイカーにも活力と喜びを与えているという。
大きな山脈
このことを念頭に置いたまま、ベルナーオーバーランドの「 ( 超 ) 自然発電所」があるエングシュトレンアルプ ( Engstlenalp ) に行ってみてはどうだろう。オプヴァルデン州のエンゲルベルク ( Engelberg ) から行くと、ケーブルカーに2回乗り、さらに2時間ほどハイキングをしてようやく高さ2.5メートルの岩に到着する。この岩の周りには高山植物のアルペンローゼが咲き、アリの巣もあり、働きアリが地面に群がっている。
虫や猫のように動物の中には高いエネルギーを発している場所に引き寄せられるものがいる。しかし、ヴェルテンシュタインの教会の回廊のように、この場所にも明らかに死の空間がある。岩から1メートルほど離れた所に1本の木があり、そこまでの空間はデッドゾーンだ。そこでは胸の内に不快感と重苦しさを感じる。
しかし、アリがいる反対側は大きい石が地面にごろごろと転がっているにもかかわらず、惹きつけられるような感じがする。自分の体を支えるために一番大きい石の上で足場を確保することが最も安全なようだ。
「深い心の平穏を感じます」
とヴィニガー氏は自らの体験を語る。エングシュトレンアルプはとても平和だ。
豊かな経験
土木技師であり写真家のジャン・ピエール・ブルンシュヴィラー氏は昨年だけで200カ所近いパワースポットを訪れた。彼もメルツ氏の本を読み、実践してみたくなったという。
「素晴らしい体験でした」
とブルンシュヴィラー氏は言う。それ以来、人間や動物に対するエネルギーの影響を信じている。
さらに、パワースポットに対する自らの考えをこう述べる。
「多くの場所でわたしが抱いた幸福感が、美しい景色や荘厳な建物から得たものではなく、パワーそのものにどの程度影響されているかは分かりません。しかし、これはさほど重要なことではありません。大切なことは、新鮮で有益な経験がわたしの人生を豊かにしてくれたと気づくことです」
ブルンシュヴィラー氏が訪れた164カ所の写真が載った本は今年9月に出版される。
自分だけの場所
こうした特別な場所を訪れるというのは楽しく刺激的なことかもしれないが、どこにいても居心地良く感じられることの方が重要だと考える人は多いだろう。
「わたしはパワースポット巡りを主義とはしていません。それよりも、わたしが多くの時間を過ごす場所を、パワースポットになれるぐらいできるかぎり理想的な場所にしようと思っています」
とブルンシュヴィラー氏は言う。
一方、メルツ氏も「自分だけのパワースポットを持っていることは、日々の栄養補給と同じぐらい必要不可欠になるだろう」と書いている。それは自宅の庭であったり、森や住居の一角だったりするかもしれないとメルツ氏は言う。風景や滝の写真や絵を眺めることもまた役立つという。とにかく、1日の終わりにポジティブシンキングから得るパワーに代わるものはない。
スーザン・フォーゲル・ミシカ、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、中村友紀 )
生命、そして生命と地球の関係に関する学問。
パワースポットは自然磁場やエネルギーゾーンを意味する。
1920年代、イギリス人のアマチュア考古学者アルフレッド・ワトキンス氏は教会などの聖地が直線的に並んでいることを意味する「レイ・ライン」という言葉を作り出した。
土木技師、政治家、地球生物学者。ヴォー州議会に選出され、スイスで初めての女性議員。
また、ストラスブルクで欧州評議会のオブザーバーも勤めた。
パワースポットに関する研究においてスイスではパイオニア的存在。
1979年、シャルドンヌ ( Chardonne ) に地球生物学研究所を設立。その後、ローザンヌへ移転。
メルツ氏は多くの本を執筆し、『スイスのパワースポット ( Orte der Kraft in der Schweiz ) 』はフランス語とドイツ語で出版されている。
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