スイスの遺伝子組み替えトウモロコシがEUで輸入解禁
スイスに本社のあるシンジェンタが遺伝子を組み替えて作ったトウモロコシ「Bt11」の輸入について、EU農業相理事会では意見が分かれ決定を下せなかったため、認可するという欧州委員会の方針が認められることになった。欧州連合(EU)は、6年ぶりに遺伝子組み替え農作物の輸入を認可することになる。
欧州委員会は既に1月に輸入を認める方針を決めていたが、EU農業相理事会の意見は分かれていた。欧州諸国では遺伝子が組み替えられた農作物の安全性に対する消費者などの懸念の声は、依然として強い。
EU農業相理事会は「Bt11」のEU内への輸入問題について、結論を見出すことができなかったため、EUの規定により、欧州委員会に最終決定を委ねることになった。保険・消費者保護担当のデビット・バーン委員は26日、委員会はすでに1月、同トウモロコシのEUへの輸入解禁を決定しており、内閣にあたる欧州委員会の決定が優先されることから、5月には認可されると語った。「Bt11」は、農薬や種子を中心にしたアグリビジネスを専門とするスイス大手のシンジェンタの開発したトウモロコシ。従来のものより害虫に強く育つよう、遺伝子が組み替えられている。
シンジェンタは2000年11月、医薬品大手のノバルティスアグリビジネスとゼネカアグロケミカルズが合併して作られた。2001年にはアジアに多く栽培される稲のゲノムを解読し発表した。農作物のゲノムが解読されたのは世界で初めて。
6年ぶりの解禁
バーン委員は遺伝子組み替え食品に対する不安について、「消費者の安全は守られている」と語り、認可については「新しい食品表示法が4月18日から発効され、食品には農作物の生産者までたどり着ける情報を明示するよう義務付けられるようになった。EUは世界一厳しい規制を設けている」ので、遺伝子組み替え食品の輸入が解禁されても消費者の安全は保護されているとの認識で、輸入を承認するであろうとの見込みである。
1998年以来EUは、遺伝子組み替え作物の輸入の認可を凍結しており、今回承認されると6年ぶりとなる。米国をはじめ、アルゼンチン、カナダは、遺伝子組み替え農作物の輸入禁止は不当として世界貿易機関(WTO)に訴えていた。
論争は続く
遺伝子組み替え食品については、現在も欧州諸国では賛否が激しく対立しており、このほどの輸入認可が、欧州議員選挙がある6月13日以前になされるか否かに関心が集まっている。 最近になって、フランスとベルギーの2つの研究グループによる「Bt11」の危険性についての発表があり、フランスの食品衛生安全事務局は22日、動物実験が不十分であり、安全性は保証されていないと再警告したばかり。グリンピースなど環境保護団体も、輸入解禁には反対で、消費者保護の強化を訴えている。
スイスでは屋外での栽培を認めている
スイスでは本年1月1日から、遺伝子の組み替え技術に関する遺伝子工学法が発効になった。同法では、「遺伝子組み替え技術は、人間、動物、環境のためになるよう使われ、害を与えてはならない」と定められている。昨年には、遺伝子組み替えが施された植物の屋外栽培が認可され、チューリヒ工科大学では試験栽培が始まっている。同大学では、遺伝子が組み替えられた植物が周囲の環境に及ぼす影響を調査している。一方、遺伝子組み替え作物の栽培を5年間凍結する事を求めたイニシアチブが発足しており、連邦内閣の議題として審議が待たれている。
スイス国際放送 バルバラ・シュペチアリ(佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)
2004年1月 EU委員会「Bt11」の輸入を承認。
EU農業相理事会では
フランス、ギリシャ、デンマーク、オーストリア、ルクセンブルク、ポルトガルが「Bt11」の輸入に反対
イタリア、英国、オランダ、アイルランド、フィンランド、スウェーデンが賛成し、結論が出なかった。
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