スイスコムの攻撃
スイスコム ( Swisscom ) が1998年10月にスイス証券取引所に上場し、実質的に情報産業の自由化が行われた。外資系企業もスイス市場に次々と進出する中、スイスコムはいまだに情報産業界で他社を大きく引き離しているが、うかうかしてはいられない。問題は特に、将来ラストマイルが開放されることで他社が勢いづくことだ。
このほどスイスコムの子会社でインターネットのプロバイダー、ブルーウィン ( Bluewin ) は、テレビ100局、ラジオ70局を電話回線を通してインターネットをベースとして配信するようになった。こうしたビジネスモデルが、スイスで成功を収めるかは、いろいろな見方がある。
世界的に見てインターネットベースのテレビ技術 ( IPTV ) の将来は有望だ。その市場規模は2010年で契約者が全世界で5000万人に上ると見られ、その売上は年間
132億ドル ( 約1兆5555億円 ) と込まれる。今年はすでに8億7200万ドル ( 約1000億円 ) の売上になると予想されている。( ガルトナー研究所 )
金の卵を産むか?
西ヨーロッパでは300万戸がすでにIPTVを利用している。特にフランスでその半分を占めるが、これはケーブルテレビがあまり普及していないことが理由とみられる。
都市部を中心としてケーブルテレビが普及しているスイスでも、スイスコムがこのほどIPTVに参入し100局のテレビ放送と70局のラジオ放送を配信するようになった。そのほかサービスの目玉は、500本の中から選んで映画を注文できたり、スポーツイベントの中継も観ることができることだ。
従来のケーブルテレビ配信社との競合になるが、大手ケーブルテレビ、ケーブルコム ( Cablecom ) は10月15日、ケーブルテレビの受信料は値上げする一方で、来年4月からIPTVの月額料金を現在の15フラン ( 約1350円 ) から6フラン ( 約540円 )と半額以下に設定し、受信機の値段も大幅に値下げすると発表した。また、視聴できる番組の数を増やす方針でもあるという。しかし、IPTVの将来は不透明。金の卵を産むビジネスではないと見る向きもある。
スイスコムのライバル社サンライズ ( Sunrise ) は、ブルーウィンによるIPTVサービスに懐疑的だ。「賃貸アパートの場合、ケーブルテレビの受信料は家賃に含まれているのが一般的。IPTVがブームになるかは疑問だ」とサンライズの最高経営責任者 ( CEO ) イェスパー・テイル・エリックソン氏は言う。特に都心部はケーブルテレビの受信料が家賃に含まれていることが多く、これを切り離すことはまず難しいだろう。
魅力は映画の注文か?
ブルーウィンのIPTV に加入するためには、電話回線、ブロードバンドのインターネット回線、テレビの3つが必要で、スイスコムとするとラストマイルが開放される将来を見込んで、電話やインターネットの顧客の囲い込みをしたい意向だ。
特に視聴者にとって魅力なのは、IPTVの付属サービスである映画の注文ではないか。レンタルビデオでDVDを借りるのではなく、家に居て映画を観たいと思った時、その場で観たい映画を選べるので、返却期限を気にすることもなく鑑賞できるからだ。料金もケーブルテレビより安く設定するなど、スイスコムは今回の新事業でテレビに直結する情報・エンターテイメント産業に先鞭をつけたいところである。
swissinfo、 ルイジノ・カナル 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳
ブルーウィンのIPTVを利用するためにはスイスコムの電話回線とブロードバンドが必要。
IPTVの料金は月29フランと連邦情報局のライセンス料1.05フラン。そのほか電話回線料金として25.25フラン、ブロードバンド使用料金9フラン ( いずれも月額 ) が必要で、最低64.30フラン( 約6000円 ) かかる。別途、器具設置の工事料金として95フラン ( 約9000円 )が必要。
スポーツの中継は1回1フラン ( 90円 ) 、映画の注文は3.50〜6フラン ( 約300〜560円 ) 。
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