ターゲットは石油王たち
スイスで初めてのイスラム系プライベート・バンクがジュネーブに誕生した。その名は「ファイサル・プライベート・バンク ( Faisal Private Bank )」。最近ジュネーブで運用されたイスラム系の資金2000億ドル ( 約24兆円 ) を「将来は自分たちの手で」とねらっている。
スイス銀行ライセンスを取得し、開設したばかりの同銀行は、シャリーア ( イスラム法 ) の規範に沿った経営を行う。
ファイサル・プライベート・バンク
「この銀行の開設は、異なるが補い合う2つの伝統、即ち、スイスのプライベート・バンキングの優秀さとシャリーアの道徳律に沿った金融制度に橋をかけたことになります」とファイサル・プライベート・バンクの代表。
ヨーロッパの他の都市にも、イスラム系銀行はあるが、これらは主に、移住したイスラム教徒を顧客に持つ。ファイサル・プライベート・バンクはスイスに居住していないイスラム教徒を対象にしていく。この銀行の前身は、「ファイサル・ファイナンス ( Faisal finance ) 」 というジュネーブに拠点を置く銀行で、小規模の投資家を顧客にしていたが、今後は湾岸地域の「石油王たち」をターゲットにしていく。
「2〜3年後には、投資額を2倍の12億5000万フラン ( 約1200億円 ) にしたいと思っています」と同銀行の会長、カリドゥ・ジャナヒ氏はフランス語圏の日刊紙ル・タンに語った。
顧客の信頼
「普通、スイスの銀行はそれ程革新的ではないのに、非常にがんばって中東に進出してきました」と同銀行の財産管理部門のアレキサンダー・テオシャリデス氏は言う。 スイス最大の銀行UBSを始め、多くの大手スイス銀行が中東に支店を構え、アラブの資産家にシャリーア規範に沿う形で、金融サービスを行ってきた。ところが、資産の自国外での安全管理を望むこうした顧客に、スイスの銀行はスイス国内での対応を迅速に行ってこなかったといわれる。
「もし、スイスの大手銀行とイスラム系銀行の投資サービスを選ぶとしたら、シャリーア規範を尊重する多くのイスラム教徒は、イスラム系銀行を選ぶでしょう」と、イギリス/スイス金融業務の専門家、アントニー・トラビス氏は言う。
「そして、もし私が宗教の規律を守るイスラム教徒で、シャリーアが禁止する利子収入を得たくないなら、そして自分の資産が、武器、タバコ、アルコールなど信条に反するものに投資されたくないなら、やはりイスラム系の銀行をえらぶでしょうね」と続ける。
それでも、スイス銀行がイスラム系銀行に比べていいところは、スイスの国の政治的、社会的安全性にある。「だからこそ、私のところはスイスの安全性に守られた自分たちの銀行というメリットを、顧客とパートナーに供給できるのです」とジャナヒ氏は胸を張る。
swissinfo、外電 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )
シャリーア規範に沿い、かつスイスで投資をしたいアラブの資産家にとって、今まで、銀行の選択肢が非常に限られていた。ファイサル・プライベート・バンクはこうした人たちの要求に応えていくことになる。金融市場での信用格付けを行うエージェント、「ムーディーズ・インベスターズ・サービス ( Moody’s Investors Service )」 によれば、世界的にイスラム系金融機関が運用する資金総額は7500億ドル( 約90兆円 ) になるという。
- シャリーア ( イスラム法 ) とは、イスラム教徒の生活全般を規定する律法。
- イスラム系銀行はこのシャリーアの規範に沿った経営を行う。
- シャリーアは利子を不労所得とみなしているため、イスラム系銀行は無利子金融制度を発展させてきた。
-シャリーアは、またギャンブル、アルコール、タバコ、ポルノ、豚肉製品などに関係する会社への銀行投資を禁じている。
- 世界的に、多くの銀行が急速にシャリーアの規範に沿った金融サービスを行い始めた。
- 大手のスイス銀行もプライベート・バンキング部門で、こうしたサービスを始めたが、これらをイスラム教徒はイスラム系銀行とは呼ばない。イスラム諸国からのアラブ系銀行のみを、イスラム系銀行と呼ぶ。
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