ハイテクより正確な放火探知犬が大活躍
スイス北西部、フランスとの国境にあるヌーシャテル。ここの警察には、不審火に対して心強い味方がいる。4歳になるスプリンガー・スパニエル、ダスティはスイスで初めての放火探知犬だ。
これまでも、麻薬、爆弾、食品などを対象とした様々な探知犬が活躍してきた。しかし、不注意から来る火事なのか悪質な放火なのかを探知してしまう犬の活躍を耳にしたことのある人は多くないのではないか。
ダスティの仕事は、消し忘れの火を見つけて飛んでいくなんて簡単なものではない。消防車が最後の残り火までしっかり消した後、火事現場を検査した専門官がダスティのお出ましを必要とした時にのみ、出動する。
真打ち登場は人間が手を尽くしてから
放火探知犬は、可燃物の液体を嗅ぎ分けて見つけ出すよう訓練された犬だ。ダスティの飼い主はヌーシャテル署の警察官、エムル・エルタンさんだ。「火事の50%は電気漏れなどのテクニカルなことが原因です。それ以外は消し忘れのタバコなど、人為的なものです。もちろん放火の割合はこのうちのごくわずかです」
「火事があったからといって、理由なくダスティを出動させるということはしません。まず初期調査がしっかりなされ、専門家が放火の疑いがあると判断した時に限ります」。人間やハイテクでも判断が難しい場合に、初めて出動となるわけだ。
いかにもプロ使用といったブーツを履いたダスティが、焼け跡の立ち上る蒸気の中ですばやく探すのは、石油、灯油、テレビン油、ディーゼル重油など、可燃物の液体の匂いである。放火犯は、火の手を早くするためにこのような物質を撒くことが多い。
ダスティが、焼け跡の残がい物をふんふんと鼻で示した場合、その物質は細心の注意を払って専門の犯罪科学研究室に廻される。
人間の頭脳も犬の嗅覚には及ばず
「放火探知犬の活躍はめざましいものです。ハイテク探知機器でも探し出せないものでも、犬たちは嗅ぎつけてしまいます」。エルタンさんは胸を張る。「サッカー場の芝生の上のどこかに、石油を一滴落としても、ダスティは2〜3分でそこに飛んでいけます。どんなに高価で精密な機械を使っても、人間には決して見つけられないでしょう」
放火探知犬がすばやく怪しい標的を見つけ出してくれるおかげで、時間と莫大な科学テストの費用が節約できる。
しかし、建物にアスベスト素材などの毒性の強い素材が含まれている場合、放火探知犬が鼻で嗅ぎまわるのは危険と隣合わせなのではないだろうか。
それなりの待遇を
エルタンさんは否定する。「英国の動物愛護団体から何回か引き合いがあり、犬たちは獣医の診察を受けました。もちろん、何も問題は見つかりませんでした」
「私たちは、ダスティを送る前に火事現場のリスクをいつも想定していくつかのチェック事項を設けています。しかし、それでも割れたガラスや黒こげになった木などで怪我をしないように、安全ブーツも履かせています」
ダスティはガソリンスタンドの傍を通る時などもわんわん吠えまわるのだろうか。「まさか。彼は“仕事をしている時”にだけ反応するように訓練されています。プロなんですよ。まあ、彼にとっては、“仕事”というより“ゲーム”と言った方が正確かもしれませんが。とにかく、私がダスティにいつものブーツと引き具を付けてやると、ゲーム・モードに入って標的を探索し始めるのです」
エルタンさんはこれが犬にとって非常に疲れる「ゲーム」であることは認めた。「寒い日は1日15分から20分、暖かい日は最高でも10分働いた後には、1時間から1時間半の休息を取ります。暖かい日は火事現場の気温も上がりますからね」。うらやましい限りだ。
愛は力
成功は一日にして成るものではない。放火探知犬の基礎訓練は、最低でも6ヶ月かかる。それからまた違う液体可燃物に慣れるまでにもう6カ月かかる。
訓練は通常、匂いをつけた標的を隠して、それを見つけ出すことの繰り返しで練習を重ねる。これはシェパードなどではうまくいかないようだ。「スプリンガー・スパニエルは、主人を喜ばせることが大好きなので、その習性を利用しています」とエルタンさんは語る。
「最も重要なことは、犬が主人と一緒に遊びたいと思うかどうか、ということです。主人と犬の間に非常に強い絆があるかどうかに全てがかかっています」
swissinfo、 トーマス・シュテファン、遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
ヌーシャテル警察はダスティを5000フラン(約45万円)で英国から輸入した。
通常、放火探知犬の価格は1万5000フラン(約130万円)。
ダスティは4歳のスプリンガー・スパニエルで、スイスで初めての放火探知犬。
放火探知犬はハイテク機器よりもずっと早く、正確に標的を突き止める。
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