バイオ燃料生産のモラトリアム
穀物価格の急騰が世界の貧困を助長させ、その一因とされるバイオ燃料が今、やり玉に挙げられている。最近ベルンで行われたNGO会議で、「スイスエイド」はバイオ燃料の世界的なモラトリアムを提案した。
二酸化炭素の排出量が少ないため、温暖化防止に役立つとされるバイオ燃料だが、実はエコロジー的な側面はゼロだという理由による提案だ。
バイオ燃料生産の有害性
「バイオ燃料は、環境にとって有害な農業を促進し、農作物の多様性を減少させ、さらに小規模農家と南半球の農民を排除していく」
と、「スイスエイド ( Swissaid ) 」の事務局長カロリンヌ・モレル氏は語り、世界の農地の2%を占めるバイオ燃料生産にストップをかけるよう訴えた。
インドネシアのNGO「ビア・カンペシナ ( Via Campesina ) 」のヘンリ・サラギー氏も、この国のバイオ燃料用パーム油が輸出用に生産されていると指摘しながら、
「多くのコメ生産農家がパーム油に切り替えた。また、バイオ燃料生産は奴隷制的な労働条件も含めて、植民地時代のプランテーションをよみがえらせている」
と語った。
またサラギー氏は、バイオ燃料は温暖化を防止するのではなく反対に促進させると考える。
「バイオ燃料は二酸化炭素( CO2 ) 排出量がさほど少ないわけではない上、その農産物生産には多量の農薬を使い、水、土地を汚染するのみならず、森を破壊していく。さらに、種の多様性を減少させることで、CO2の吸収量も減少する」
と言う。
アフリカはバイオ燃料生産の「被害」が最も顕著な大陸だ。バイオ燃料で豊かになるという当初の期待は幻想に終わった。アフリカに投資するため集まったのは、石油の多国籍企業、穀類を扱う大型商社、遺伝子組み換え農産物 ( GMO ) を専門にする多国籍企業、そして自動車会社だった。
「バイオ燃料生産は、農家や、青年、女性などの失業に陥りやすい階層を活性化しない。むしろ、アフリカの伝統に根ざした家族単位での農業生産を破壊していく」
とマリの農業開発に携わる社会経済学者ママドゥ・ゴイタ氏は分析する。
農作品種の多様性とエコロジー的農業
「食糧の確保という基本的な人権を侵さないためにも、バイオ燃料生産の世界的モラトリアムを訴えたい」というのがスイスエイドの基本姿勢だ。さらに、バイオ燃料生産の直接的補助金や輸出補助金を停止することも要求している。
また、スイスエイドはほかのNGOとの協力により、単一栽培や遺伝子組み換え農業は世界の貧困や飢餓を救わないと結論付けた。その上で、「農作品種の多様性を含む、ミックスされた農作を基本としたエコロジー農業」を提案する。
モレル氏はさらに、
「ガソリンとミックスさせるバイオ燃料は、現在のガソリンを基本としたエネルギーモデルを単に延長させているにすぎない」
と指摘し、スイスエイドはスイス連邦政府に、エネルギー効率の高い、再生可能なエネルギー政策を要求すると結論付けた。
swissinfo、ピエール・フランソワ・ボッソン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
世界の農産物のおよそ半分がヒトの食糧になる。約7億トンが家畜の飼料に、1億トンがバイオ燃料に使われる。
スイスでは消費燃料の約0.2%をバイオ燃料が占める。世界の全バイオ燃料消費の1.5%に当たる。
欧州連合 ( EU ) は、バイオ燃料の一番の生産者であり消費者でもある。ナタネ、大豆、パーム核油を原材料にしたバイオ燃料が2%を占める。EUは2020年までにこれを10%まで成長させようとしている。
社会民主党(SP/PS )の連邦議会議員、シモネッタ・ソマルガ氏を代表とするNGO。インド、ビルマ、ナイジェリア、タンザニア、コロンビアなど南半球の9つの国で活動する。
1500万フラン ( 約15億円 ) を資金とし、その3割は連邦外務省開発協力局 ( DEZA/DDC ) が負担する。2007年には211のプロジェクトを行った。
スイスエイドは北半球から専門家を送りこむ形で援助をしない。世界で最も貧しい国が自力で開発を行うことを助ける。また地域の機関のプロジェクトを援助する形も取る。
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