国際都市ジュネーブの住宅難
ジュネーブではここ数年来、人口が増え続けている。しかし、新参者数に見合う住宅供給は足りていない。賃貸、売買を含む1万件の物件中、たったの19軒しか空きがないという状態だ。
これを受けて、右派急進党は7月に新しい建設を促す「1500軒の住宅を造ろう」というイニシアチブの署名が集まった。ジュネーブ州政府も5日に2200軒の住宅プランを発表した。しかし、これらの政策が実現されるにはまだ時間が掛かりそうだ。
ジュネーブでの「転勤の一番のハードルは家探し」と言われている。それもその筈、ジュネーブ州が8月に発表した住宅空室率(全住宅数を賃貸、売買物件を含めた空き部屋数で割ったもの)は0.19%で前年比では0.02%上がったもののスイス全州で最低の数値となった。
2002年の連邦統計局の調査によるとジュネーブ州の人口は約42万人(約38%が外国人で内日本人は約1000人)だが、2020年には50万人に増えるとの見通しだ。実際、ジュネーブ州での労働者人口の25%は隣のヴォー州か国境を越えたフランス側に住んでいる。(越境通勤者は約4万8000人)
住宅難の原因はフランスに囲まれた狭いジュネーブの地形が挙げられるが、それだけではないようだ。
国連大使も認めるジュネーブの欠点
「ジュネーブでの住宅問題は依然として大きいです…」と認めるのはスイス国連大使のブレーズ・ゴデ氏(5日付けル・タン紙)。欧州国連本部があり、国際人道支援機関(世界保健機関、国連難民高等弁務官事務所、赤十字国際委員会など)やNGOが集まるだけでない。欧州の中心的な位置で経済的に有利な条件を求め、多くの多国籍企業の欧州本部が置かれている。
ジュネーブにやってくる外国人をサポートする政府の基金、「ジュネーブ・ウエルカム・センター」でも家探しを手伝っている。センターの所長、フランソワ・シュミッド氏も「もちろん、予算によりけりですが、家探しに2日で済む人もいれば6カ月掛かる人もいます。物件はほとんど口コミですので、外から来た人には非常に難しい」と言う。新しくやってきた外国人のなかには、気に入る住居が見つからず帰国した例もあるという。気に入ったアパートが見つかっても候補者が多いため、収入条件により選考から落とされることなど日常茶飯事だ。
2003年の新参者は6800人、2004年は3500人と減った。ジュネーブ不動産管理協会のパトリック・ヘイモ氏はこの半減を「住宅難のせいで企業はフランスやヴォー州に人員を送る」と分析する。
住宅難を解決するには
ヘイモ氏によるとこの住宅難を改善するには「一挙に5500件の住宅を新築する必要がある」という。1998年以来、ジュネーブ州では約1200件ペースで住宅を造ってきた。ヘイモ氏は「ジュネーブの成長に見合うには毎年3000件ペースで造らなければ間に合わない」という。
ジュネーブの地形をみると、市街を囲む緑豊かな畑が多く目に付く。ジュネーブ州の41.5%は農地に指定され住宅を建築することは不可能だ。このため、建築が可能な市街化規定地域はさらに狭い。
どうして建てない?
そこで、市街化規制を緩くして、ジュネーブ州の土地の1%を市街化優先地域に変えようとする右派急進党の発議の署名が集まった。しかし、州政府の居住局のミッシェル・ブルジッサー氏は「市街で建造可能な場所がまだ、全て利用されているわけではない」と慎重だ。
スイスでは個人の住宅所有率が36%前後(日本では60%前後、フランスは55%前後、ドイツでは約43%)だが、ジュネーブでは18%とさらに低い。前出のヘイモ氏は「現存している多くの規制が、既にあるマンションの改修や増築を妨げている。また個人が投資しないのも問題の一つ」とみる。
一度建てたらもう終わり
しかし、農業地帯が建築ゾーンになる可能性は低いとの見方が多い。これを「ジュネーブ人は生活環境を大事にするので、自然と住居の調和のとれた環境を重視しますから」と前出のシュミット氏が説明する。
ジュネーブ政府のブルジッサー氏は「一度、建ってしまえば壊すわけにはいかないので慎重になるのは当然」という。同氏は「政治的な意思はあるのですが、皆“建築には賛成だが、自分の裏庭では困る”と反対する人が多いので進まないのです」
どうやら、ジュネーブでアパート探しに最も必要なのは“忍耐強さ”ということは間違いない。
swissinfo、 屋山明乃(ややまあけの)
– ジュネーブ州の住宅空室率(全住宅数に対する賃貸物件、売買物件を含めた空き部屋を割ったもの)は2005年6月1日で0.19%とスイスで最も住宅事情が悪い。今年の各州の住宅空室率はバーゼル市1.50%、ベルン市0.53%、チューリヒ州0.68%(但しチューリヒ市は0.08%)。
– 連邦統計局の2004年6月の統計調査ではスイス全体の住宅空室率は0.91%(33600軒)でチューリヒは0.55%、ジュネーブは0.15%だった。
– 不動産専門家によれば、ジュネーブの住宅難を改善するには一挙に5500軒の住居(マンションや一軒屋)を建築しなければならないという。
– ジュネーブ州ではこの住宅難を解決するために幾つかの政策が提案されている。しかし、スイス特有の直接民主主義の制度では、数多くの反対意見も考慮されるため、実現するためにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
– ジュネーブ市内に住むのに賃貸者に理想的な家賃はワンルーム(1LDK)で1000フラン(約8万8千円)、1LDKで1500フラン(約13万)、2LDKで2000フラン(約17万7千円)、3LDK〜4LDKは3000フランから4000フラン(約26万円〜約35万円)、一戸建て6000フラン(約53万円)以上。
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