税金が一番安い州
スイスの建国に携わった3つの州のひとつ、オプヴァルデン州では12月中旬、大幅な減税案が州民投票で可決した。
税金を他州より下げることで企業誘致を促進したり、高所得者を有利にすることでより多くの大口納税者を州に呼び込もうというのが新税制の狙いでもある。州税が安いことで有名なツーク州とシュヴィーツ州に次いで、「税金天国」の州が一つ増えたが、州間の減税競争の引き金を引くのではないかと懸念する声も聞こえる。
スイスでは相続税の有無から税率など税制が州ごとに、また市町村ごとに大きく違う。今回のオプヴァルデンの州民投票では、8割以上の支持を得て新税制が早くも2006年から導入されることになった。
お金持ちと企業に有利
全国的には累進課税が普及しているが、オプヴァルデン州では、年収30万フラン(約2700万円)以上の州民や資産500万フラン(約4億5000万円)以上の資産を持つ州民は、それ以下の人より納税率が下がる逆進税が導入される。こうした高所得者は結果として、これまでよりおよそ6%の減税となる。年収7万フラン(約600万円)といった所得者の税率もこれまでより8〜10%下がる。ほかに逆進税を採用しているのはスイスでは、シャフハウゼン州のみだ。
また、企業の利益に対する課税は、これまでの16〜20%から6.6%へ大幅に下がり、全国最低の率となる。企業は連邦税と地方税を合わせて13.1%の税金を払うだけで、スイスの全国平均31%を大きく下回ることになる。さらに、持ち株会社の場合は0.01‰とほとんどゼロに等しく、相続税はこれまでの半額となる。
EUからも説明を求められる
新税制が導入されることで、州および市町村の収入は2100万フラン(約19億円)減少する見込みだ。しかし、スイス中銀の所蔵する金の売却資金が各州に割り当てられる予定で、オプヴァルデンには2350万フラン(約21億円)の臨時収入が入ることから、減収をカバーできるという。
一方、州間での「税引き競争」はお互いの破壊を招きかねない(ジャン・ノエル・レイ氏、社会民主党・下院議員)、付加価値税など間接税に頼ることになり、所得の低い人への負担が増える(エヴェリン・ヴイトマー・シュルンプ氏、州財務担当委員会会長)などという批判の声も聞かれる。また、納税は収入に応じて定めるという憲法に反しないだろうかという意見も出ている。
さらに、欧州連合(EU)も、極端に低い税率で企業誘致をすることは、税制に関する二国間条約に違反するのではないかと、スイスに説明を求めた。スイスの税制についてEUとの会合は、来年も続くことになりそうだ。
swissinfo、 佐藤夕美(さとうゆうみ)
オプヴァルデンの州民投票
8623票対1368票で可決される。
投票率44.4%.
州民はおよそ3万3,000人
<財政の豊かな州>
ツーク、バーゼルシュタット、チューリヒ、ジュネーブ、ニトヴァルデン
<歳入が少ない州>
グラウビュンデン、フリブール、ウーリ、ジュラ、ヴァレー、オプヴァルデン
(連邦統計より)
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