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蒸気機関車で走る旅

今回運行された「HG3/4−9号」のほか、ヴァイスホルンなど6台が運行中 swissinfo.ch

標高2436メートルの高所にあるフルカ峠 ( Furka ) は、ローヌ氷河が近くに見える景勝地である。冬には鉄橋をはずさなければならなかったほどの難所のこの場所に、昔ながらの蒸気機関車が走る。「フルカ蒸気山岳鉄道 ( DFB ) 」だ。


廃線となった蒸気機関車路線が1993年、観光用として生き返り、いま、多くの鉄道ファンを喜ばせている。

 8月中旬の平日。天候に恵まれたフルカ蒸気山岳鉄道の出発駅レアルプ ( Realp )駅では乗客およそ130人が、蒸気機関車のスナップ写真を撮ろうとごった返していた。80年前にスイスで製造され、第2次世界大戦後ベトナムに売却されたが、再びスイスに買い戻された蒸気機関車「HG3/4−9号」だ。 ( 画面下にあるビデオも合わせてご覧下さい )

「スイスに戻そう」運動

 20世紀初頭、ウーリ州から標高3000メートル級のアルプスの山々を越え、ヴァレー/ヴァリス州につながる鉄道を建設したスイスの技術は、世界に誇れる最高レベルだ。118パーミルの傾斜のある急勾配をアプト式の機関車で往復させた「意地」は、「山国スイス人」だからこそできたと言っても過言ではない。フルカトンネルが開通し、この路線が廃線となったことを惜しみ、観光用の蒸気機関車路線として生き返らせたのも、鉄道マニアのなみなみならぬ努力によるものだ。

 「蒸気機関車しか走れない路線なんです」と語るのは、機関士のマルティン・ホラットさん。20年前にベトナムからスイス製の蒸気機関車を買い戻したグループのメンバーだ。フルカ路線は、冬は雪崩のため電柱が折れてしまうといった設備の問題で、電車を走らせるのは不経済だからだ。

 当時、スイス国内には「ヴァイスホルン ( Weisshorn ) 」という蒸気機関車が博物館に展示されているだけで、フルカ鉄道再生のためには複数の機関車が必要だった。「ベトナムでは、機関車が鉄道の通っていない野外に放置されていたりして、トラックで30回も積み直ししながら港まで運びました」。こうして運んだ6台の蒸気機関車は、ホラットさんのガレージで、有志たちによりオリジナルの設計図を元に、昔ながらに技術を使って修復されていった。
 
 蒸気機関車はホラットさんの趣味。本業もリギ山の山岳鉄道の機関士だ。蒸気機関車の修復作業のほか、フルカ蒸気山岳鉄道で運転もする。「蒸気機関車は、水と火と古いメカニズムのコンビネーション。機械の動きが外から見て分かるのも魅力」だという。

有志のみによる運行

 フルカ蒸気山岳鉄道は、ホラットさんのような有志、約150人によって運営されている。蒸気機関車ファンのスイス人やドイツ人が主だが、渡辺慶昭 ( わたなべよしあき) さんもこの夏、日本から「奉仕活動」のためフルカに来た。 車内で同僚のマックス・アンネンさんが「ここで働くわれわれは、みんなボランティアです。( 渡辺さんを指して ) 彼は、何千キロの海のかなたから働きに来てくれた日本人です」と乗客に紹介すると、車内に拍手が沸き起こった。「乗客の反応はいつもこんな風さ」とアンネンさんはウインクをした。

 渡辺さんは、日本の製薬会社を退職した69歳の小柄な男性だ。車内では飲み物やお土産のカレンダーを販売し、清掃もする。「重労働ですからねえ。来年もできるかどうか」。日本人の観光客には、日本語で蒸気機関車にまつわる話や風景の説明もする。
 
 鉄道ファンという東京からのS夫妻は、スイス旅行はこれで3回目。9年前にここの路線工事をしていたのを見て「結婚10周年には記念に、是非、この蒸気機関車に乗りたいものだ」と思ったという。

 日本企業の会社員木山高宏さん、彩子さん夫妻 ( 2人とも30歳 ) は、 赴任中のサウジアラビアからスイスに観光に来た。「ただの電車と思っていましたが、かわいい汽車で、楽しいですね」と緑豊かなスイスの旅を楽しんでいると言う。

 スイス人乗客と、フルカ蒸気山岳鉄道のオリジナルワインで乾杯し合っているのは、オランダからスイスを訪れた丸尾直人さん ( 30歳 ) 、満理さん ( 33歳 ) 夫妻だ 。「石炭の匂いがいいですね。すすが入ってこないように、トンネルに入ったら窓を閉めるタイミングとか、楽しんでいます」と蒸気機関車ならではの旅を満喫していた。

 案内役の渡辺さんは「フルカ峠の駅からのアルプスの眺め。今は溶けて氷河は奥のほうにしかありませんが、ローヌ氷河の跡など壮観な眺めを見てもらいたい」と笑顔いっぱい。8月末まで車掌に専念するという。
 
swissinfo、 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) レアルプにて

<フルカ蒸気山岳鉄道 ( Dampfbahn Furka-Bergstrecke ) >
6月末〜10月上旬まで運行。
レアルプ ( Realp )−グレッチ ( Gletsch ) 間を100分で走る。
途中、水の補給のために停車したり、20分のランチタイムなどもある。
平日はレアルプ発10時40分。グレッチ発14時の往復1本のみ。
運賃 片道1等車 全行程で96フラン( 約9000円 )。要予約。
電話 +41 848 000 144
ファクス+41 556 193 039

2006年は、運行日数が68日で、本数は219本。乗客は約2万4000人、稼働率73%だった。

2000年からレアルプ−グレッチ間の運行が開始された。最高傾斜度はフルカ駅−グレッチ駅の118‰。アプト式。廃線となった従来線はグレッチからさらに西のオーバーヴァルトまでで、現在、路線復旧工事が行われている。

現行の蒸気機関車は、「HG3/4型」の3列車、「HG4/4型」の2列車、ヴァイスホルン1列車の合計6台。ヴァイスホルン ( Weisshorn ) 以外は、ベトナムにあったスイス製の蒸気機関車を14人の有志者により、予算約1億5000万円で1991年に買い戻し修復したもの。ヴァイスホルンは博物館にあったものを譲り受けた。特別な運転技術が必要で、鉄道ファンの中でも人気の高い蒸気機関車だ。

乗務員、機関士、乗車券販売やショップの店員など、ほぼ全員がスイス人やドイツ人のボランティア。乗車券の売り上げの80万フラン ( 約7400万円 ) が、鉄道運用費に充てられる。寄付により、グレッチからオーバーヴァルトの線路復旧工事の予算は確保された。

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