スイス流金融サービスに回帰を
スイス中央党(Die Mitte/Le Centre)のペーター・ヘグリン議員は、経済へ壊滅的な影響を生じさせる前に、スイス最大の銀行となったUBSをより強力な規制で手なずける必要があると考える。
クレディ・スイス(CS)の破綻は世界の銀行業界に衝撃を与えた。UBSによる買収で最悪のシナリオは免れた。だが今後、別の銀行が存続の危機に陥り、金融業界や実体経済を奈落の底に引きずり込む危険は現実にある。そして確かに予見可能だ。
ここでさまざまな疑問が生じる。そうした危機は中途半端なシステムが引き起こすものなのか?規制が不足しているのか?それともマネーがプラス効果をもたらし金融業界が経済の繁栄に大きく貢献していることの代償として、人々は危機を受け入れなければならないのか?
私の考えでは、金融危機が何度も繰り返されるすシステムがもたらす悪影響は、金融・経済が生む一時的な利益を上回る。
このためスイスには次の問いに答える安定化規制が必要になる。大手銀行が制御不能な破綻から経済を守るにはどうすればいいのか?取り付け騒ぎが起こったらどう対応すべきか?金融当局はどんな権限を追加的に付与すべきか?国やスイス国立銀行(中央銀行、SNB)は経営に失敗した銀行をどの程度支援すべきなのか?またこうした支援を制御するための法的メカニズムとはどうあるべきなのか?
震源地は常に米国
考察に当たり、まず過去を振り返る。
過去100年間の大規模な金融危機は、いずれも米国に端を発した。1929年のウォール街大暴落は世界恐慌をもたらし、1987年のブラックマンデーは1990年代のスイス不動産危機につながった。2007~08年の世界金融危機は債務問題が未だに収束しきっていない。(シリコンバレーバンクやシグネチャーバンクなどが相次ぎ破綻した)直近の米国金融不安は、UBSによるCS買収の遠因になった。
振り返ってみると、かつて欧州金融業界は米国よりもはるかに安定した構造を備えていた。1980年代まで、金融機関は最大20~30%の自己資本を抱え、非常に堅牢、そして責任感も強かった。
だが米金融業界に進出し、米国流の投資銀行業務に手を出すと同時に、スイスの銀行にもボーナス文化など米国のビジネスモデルがじわじわと浸透していった。
強靭な経済や、権力の源泉ウォール街が育む高い職業観、そして固有のメンタリティのおかげで金融危機の衝撃をうまく吸収できる米国に比べ、欧州やスイスではそうはいかない。
銀行と従業員を守る
散発的な金融危機には米国の方が立ち直りやすいことは歴史が示してきた。そうした危機が生じるような金融システムは、我が国の経済にとって非常に危険だ。UBSにリスクが集中する現状を踏まえ、スイス金融業界は喫緊にスイス元来の価値観に適応・回帰する必要がある。さもなければ、スイスの経済・金融業界は今後大きな危険を抱えることになる。
品質、安定性、誠実さ、革新性、法の支配。スイス金融業界はこうしたスイスの強みを土台にしたビジネスモデルを備える。試行錯誤を重ねてきた制度や国際的に高く評価される民主主義と併せて、長期的には成功モデルとなり、世界で唯一無二の存在となるだろう。世界的な変化や、持続可能性や安全性への要望が広がるのに伴い、このスイスモデルがリスクを抱えることはほとんどない。
今行動を起こさなければ、スイスは経済全体の安定性と耐久性を失うことになる。金融業界とその雇用を守ることが不可欠だ。もちろん、市場経済においては通常の景気循環は避けて通れない。だがそれとは別に、野放図な好不況とその結果として生じる世界的な歪みとの循環をどう断ち切るか、という問題がある。
考えられる改革
システム上重要な銀行については以下のような選択肢は検討に値すると考える。
- 投資銀行業務は、自己勘定取引を禁止するとともに、必要最小限にとどめ、必要に応じて外部委託する
- CS崩壊の原因は明らかに自己資本不足ではなかったが、それでも銀行の自己資本はさらに増額しなければならない。システム上重要な銀行では、総資産の10%の自己資本を確保する
- 金融市場監督機構(FINMA)は、権限を大幅に強化し、しっかりした銀行業務の専門家を雇い、責任を明確化することが重要だ。FINMAが金融機関のリスク管理に口を出し監督することによって、責任者個人に罰金を科したり、業界から追放したりできるようにする。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)スプレッドやAT1債(永久劣後債)の価格、法的介入義務のある格付会社による信用格付けといった先行指標を導入する
- FINMA職員を削減し、同時にシステム上重要な銀行ではない小規模銀行に対する過剰規制を見直す。そうすることで、システム上重要な銀行に人的資源を集中できるようになる
- 金融業界の意思決定者にはとりわけ高い誠実さが求められる。ボーナスによる経営陣のインセンティブを、賢明なチャネルに振り向ける
- 現在の「大きすぎて潰せない(Too big to fail)」規則は機能していない。銀行破綻の原因に関係なく、あらゆる状況に適用できるように改善する
- 故意・過失による経営ミスに対し、法的措置を強化する。金融サービス業界の犯罪は、もはや「紳士の犯罪」とみなされるべきではない
- 銀行預金の通告期間の対象を広げる、または顧客が急に引き出すことのできない預金の割合を高める
- 通告期間(期限規制)付きの銀行預金や、顧客が急に引き出すことができない預金の割合を高める
- 国際的な取り付け騒ぎが起こった場合、国家が預金引き出しを一時的に制限する(ギリシャやキプロスで成功した)
- 銀行が支払う保険料で補償基金を創設し、「大きすぎて潰せない」保証のリスクを補償
- SNBの責任を見直し、必要に応じて明確な規制をかけ拡充する
※この記事で表明されているのは純粋に著者の見解であり、必ずしもswissinfo.chの見解を反映しているわけではありません。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫
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