スイス南部ティチーノ州のロカルノを拠点に活動するダンスカンパニー、「MOPS_ダンス・シンドローム」は、ダウン症の若いダンサー21人で構成されている。10年以上前に創設されたカンパニーの活動は、国内外で高い評価を受けている。
このコンテンツが公開されたのは、
アメデアさんが机に向かい、長い詩を書いている。「鉛筆の先の踊り。パラソルの踊り。星の踊り。平和の踊り。息づかいの踊り。魂の踊り」。わき目もふらず、一心にダンスへの思いを紙にしたためていく。12年前からロカルノのMOPS_ダンス・シンドロームで踊っている。
カンパニーのメンバーは18歳から35歳までの若いダンサーで、毎週水曜と木曜に集まり、稽古やリハーサル、新しい作品の制作などをしている。アメデアさん、ガイアさん、エリザベッタさん、シモーネさん、ヴィンゼンツさんは、踊る楽しみと、仲間と集う喜びをかみしめている。
MOPS_ダンス・シンドロームが特徴的なのは、ダウン症のダンサーのみで構成されてるということだ。21トリソミーはダウン症とも呼ばれ、21番染色体が通常より1本多い3本存在することで引き起こされる先天性の染色体疾患。ダウン症の人には、個人差は大きいが発達の遅れや、身体的・生理的な特徴などがみられる。
在来の文化を超えて語る
MOPS の挑戦は、2005年、多方面で活動するアーティストのエラ・フランセッラさんと、当時19歳だったダウン症の青年シモーネさんとの偶然の出会いから生まれた。フランセッラさんは、「私がロカルノで主催していたダンスと動きのワークショップでシモーネさんに出会った。彼が躍っているのを見たとき、主観や在来の文化を超えて、観客と感性に直接語りかけることのできる芸術の形という、私が追及する客観的な芸術を体現できる理想的な人だと思った。ダンスはその完璧な媒体。言葉を超えたつながりを生み出すものだから」と言う。それから3年半の時を経てMOPSが誕生した。
斬新なアプローチ
フランセッラさんは、身体に耳を傾け、自分の空間を認識し、自分の身体能力と動きを知ること、そしてそこから得られる動きの自由を出発点としたアプローチを考案した。「MOPSのダンサーは常に『今、この場所』という瞬間の中にいる。ほかの人と同じように、今という瞬間をとらえ、それを強烈に体験する方法を知っているので、リハーサルや公演でその感情の全てを伝えることができる」(フランセッラさん)
MOPSはこれまでに10本以上のオリジナル振付け作品を発表し、障がいを持たないプロダンサーのダンスカンパニーと共演するなど、その活動は広がっている
フランセッラさんの独創的で真摯なアプローチは、スイスのプロ・ヘルヴェティア文化財団や英国文化振興会、ティチーノ州からの支援を受けており、プロ・ティチーノ2018賞を受賞するなど、数々の賞や高い評価を受けている。MOPSはスイス内外で公演しながら、国際的なダンスフェスティバルにも参加している。また、国内外のプロのダンスカンパニーとも提携している。
(仏語からの翻訳・由比かおり)
続きを読む
おすすめの記事
障害者から参政権剥奪 スイスの現状は条約違反
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは、障害者が成年後見制度の被後見人になると、参政権が剥奪される。この現状はスイスが2014年に批准した国連の障害者権利条約に反しており、専門家らは障害者の差別解消に向けた取り組みを急いでいる。
もっと読む 障害者から参政権剥奪 スイスの現状は条約違反
おすすめの記事
ビジネスのモラルを問うスイスの国民投票 発議2件否決
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで29日、ビジネスにおける倫理観の向上を求める2つのイニシアチブ(国民発議)の是非を問う国民投票が実施された。両案とも否決された。
もっと読む ビジネスのモラルを問うスイスの国民投票 発議2件否決
おすすめの記事
障害者にも参政権与えるべき?ジュネーブで今週末住民投票
このコンテンツが公開されたのは、
ジュネーブ州で29日、精神障害などで成年被後見人となった人たちに参政権を認めるべきか否かを問う住民投票が行われる。障害者支援団体は、可決されれば国全体への波及効果につながると期待する。
もっと読む 障害者にも参政権与えるべき?ジュネーブで今週末住民投票
おすすめの記事
スイス、障がい者権利条約の履行に大きな遅れ
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは2014年、ニューヨークで「障がい者の権利に関する条約(障がい者権利条約)」を批准した。批准国の義務の一つにある「精神障がい者の社会へのインクルージョン(包摂)推進」がある。この具体例の一つとなった音楽フェスティバルが、先頃チューリヒで開催された。
もっと読む スイス、障がい者権利条約の履行に大きな遅れ
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。