世界大学ランキングに背を向ける大学たち
ロンドンかベルリンか、それともチューリヒか――海外を目指す学生や研究者にとって、大学ランキングはどこで学び、研究すべきかを示す道しるべとなる。タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)のランキングは「誤ったインセンティブ(誘因)を生む」として脱退を決めたチューリヒ大学の弁はただの言いがかりなのか?
チューリヒ大学は13日、THEのランキングは「誤ったインセンティブを生む」として、同誌にデータを提供しないと発表外部リンクした。ランキングは測定可能な成果に焦点を当てていることが多く、教育の質よりも出版物の数を増やすインセンティブを生んでいると指摘。今後、同大はTHEのランキングから姿を完全に消すことになる。最新の2024年版(2023年9月発表)では80位だった。
同大はswissinfo.chに対し、英クアクアレリ・シモンズ(QS)や中国の上海大学、米USニューズ&ワールド・レポートなど他の国際ランキングについては、「継続するか検討中」だと語った。
進学先や研究拠点を選ぶ際に大学ランキングを参考する学生・研究者は少なくない。大学側にとっての悩みの1つは、各ランキングが研究業績や学術論文の数、教育の質、ノーベル賞やその他の賞の受賞数など、さまざまな基準に基づいていることだ。このため同じ大学でもランキング実施主体により順位が大きく異なる。
スイス連邦経済省職業教育・技術局(BBT/OFFT)のポータルサイトuniversityrankings.ch外部リンクは、メディア企業によるランキングは古代ローマの剣闘士のような切った張ったの激しい大学間競争の要因になっていると警鐘を鳴らす。
世界中で疑問視されるランキング
同サイトは「大学ランキングは優劣が分かりやすいリーグテーブル(成績比較表)の形を好む。勝者と敗者がややドラマチックな『ランキングゲーム』で競り合うことになり、過度に単純化されたり正確性が欠落したりすることもある。順位に大きな変動があれば、こうしたドラマはさらに大袈裟になる」と指摘する。
「それらは出版雑誌の経済的成功にとっては大きな問題にはならないかもしれないが、ランキングに載る大学にとっては大きな問題を引き起こす可能性が十分にある」
上海大学が2003年に世界初の大学ランキングを発表して以来、ランキング制度は年々重みを増し、確立されてきた。だがそれらに背を向けている大学はチューリヒ大だけではない。
昨年9月にはオランダのユトレヒト大学が「ランキングの作成者は非常に疑わしいデータと手法を使用している」として、THEのランキングからの撤退を表明した。
中国紙チャイナ・デイリーによると、中国の南京、人民、蘭州大学は、「西側の基準を重視しすぎている」として2022年に各種ランキングから撤退した。
また2022年にはエール大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校などが数十の法科大学や医学部とともにUSニューズ&ワールド・リポートからの脱退を表明した。
苦情内容は多岐に
各種ランキングに対する苦情の内容は、方法論の欠陥、エリート主義、大学の社会的価値を反映していないなど多岐に渡る。さらには順位を上げるために金銭の授受を提案する評価者もあるという。
欧州大学協会のウェブサイトは、ランキングの抱える問題について特設ページを設けている。ある寄稿者は、「順位を上げるために、合法・非合法を問わずあらゆる手段を使おうとする教育機関もある」と指摘する。
こうした指摘には、どのような解決策がありうるのだろうか?
THEは、チューリヒ大の脱退を「遺憾に思う」一方、ランキングに関するさらなる対話と世界的な議論には前向きであると述べている。またチューリヒ大のランキング手法に対する批判は「根本的な誤解に基づいている」と反論し、研究の質より量を優先しているわけではないと主張した。
Universityrankings.chによると、すべてのランキングが同じ穴の狢というわけではない。メディアでもてはやされるのは民間発行のランキングだが、教育機関が信頼性の高いランキングをまとめている国もある。
チューリヒ大学は、欧州大学協会などが設立した「研究評価推進連合(CoARA)」に加盟している。これは「研究の質と影響を最大化する多様な成果、実践、活動を認識する」研究者と大学の研究を公正に評価するための改革を目指す有志連合で、世界で約600の教育機関が賛同している。
ランキングがすべてではない
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は、現在の大学ランキングシステムには限界があるとみなす。
swissinfo.chに対し「各種ランキングは私たちの活動に対する興味深い『外部の見方』と捉えている。他の学校と比較するのに役立つパラメータを示唆してくれる」とメールで回答した。
「しかし、中には方法論を正確に開示していないランキングもあるため、私たちは総合的な結果はあまり重視していない。つまり、ランキングが本校の戦略や経営上の選択を左右することはない」
チューリヒ大学は学生や研究者に対し、どこで学ぶかを決める際にはランキングを精査するよりも別の下調べをするようアドバイスしている。
「各大学の学習プログラムの内容や仕組みを比較し、興味のある研究者や提携機関、研究プログラム、学術文化、労働条件を良く調べることをお勧めする。これはどのランキングよりもはるかに重要だ」
また、THEランキングからの脱退は、世界の研究人材にとっての同大学の魅力に「いかなる悪影響も予想されない」と強調した。
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編集:Mark Livingston/ts、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子
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