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年金給付の試算で計算ミス スイス政府への信頼にキズ?

年金改革案に関する国民投票の結果発表を見守る人たち
2022年の国民投票で女性の年金受給開始年齢の引き上げ案に反対した人々は、投票のやり直しを求めている Keystone / Peter Klaunzer

スイス政府の年金財政予測に重大な計算ミスが発覚した。有権者の人生に関わる問題の基礎となる数字で誤りが見つかるのは、過去10年で少なくとも3回目だ。世界で最も国民に信頼されている国の一つと自負する政治家たちにとっては由々しき事態となっている。

スイス連邦保健庁は6日、老齢・遺族年金(AHV/AVS、日本の国民年金に相当)の給付額推計に重大な計算ミスがあったと発表した。2023年の給付額は、これまでの推計より約40億フラン(約6800億円)、率にして約6%少なくなった。

給付額の下方修正は朗報といえる。国が運営する年金保険制度は思っていたより財政状態がよいということだからだ。

一方、保健庁の訂正は政治的に大きな波紋を呼んだ。スイス労働組合連合(SGB/USS)は、年金に関する政府の情報への信頼が失われたと警鐘を鳴らした。中道右派の急進民主党(FDP/PLR)は「大失態」と糾弾し、担当閣僚を非難した。

一方、エリザベット・ボーム・シュナイダー内務相は8日、ミスの原因について調査を命じた。

反響が大きいのは、政府の計算ミスはこれが初めてではないためだ。過去10年間、重要な政治問題について政府は少なくとも3回の計算ミスを認めている。昨年10月の選挙では、連邦統計局(BFS/OFS)のプログラミングエラーにより政党の得票率が誤って発表された。議席数にこそ影響はなかったものの第3・第4党が逆転し、ミスが放置されれば連邦内閣(政府)7ポストの政党配分が変動する可能性があった。

2019年にはもっと重大な誤りも発覚した。婚姻を結んだカップルに対する税制上の不均衡を是正するための国民投票(2016年)に先立ち、政府は対象となる既婚夫婦を8万組と見積もっていた。だが政府は投票の2年後になって、実は45万4000組だったことを明らかにした。

直接民主制の長い伝統を持つスイスは、国民の政府に対する信頼度が最も高い国の一つだ。1年に4回の国民投票があり、有権者は投票に関する議論や賛否の判断材料となる予測を政府の計算に頼っている。政府の試算が変われば国民投票の結果も変わる可能性がある。計算ミスが不安をかき立てる理由はそこにある。

信頼のもとに結束するスイス国民

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スイスが国民に信頼される理由

安定した国、安定した通貨、安定した生活。国際的に見ても、スイスではたくさんのことが滞りなく機能している。その要因の1つが国家機関に対する厚い信頼だ。

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スイス有権者は今年3月、年金の給付額を増やす制度改革案を僅差で可決した。白熱した論戦も統計局の給付推計を基にしていた。訂正後の試算では年金基金にまだ余裕があることが示されたため、賛否が逆転する可能性はなかったとみられる。

だが訂正後の試算が年金財政の赤字化を示唆していたらどうなっていたか?投票では年金改革案が否決されていたかもしれない。左派政党は早速、女性の年金受給開始年齢の引き上げをめぐる2022年の国民投票について、計算ミスが有権者の選択を誤らせていたのではないか、と主張している。

国民投票が無効になるとすれば異例だが、前代未聞ではない。スイス連邦裁判所(最高裁)は2019年、計算ミスを理由に結婚罰に関する国民投票を無効とする判決を下した。年金増額案や女性の定年引き上げ案に関する国民投票についても無効となるのかどうか、現時点では決定がなされていない。

年金将来予測の難しさ

今回の騒動が政府に対する信頼をどれほど揺るがすか、影響は未知数だ。試算は一般的に問題が起きやすく、複雑化している。統計局のミスは、7万行を超えるプログラミングのソースコードの中に、わずか2つの数式に誤りがあることが原因だった。

ミスの影響は年金受給者数だけでなく、平均寿命、現役時代の収入、資産、婚姻状況にも及ぶ。急速な人口動態の変化や新たな医学的発見、経済情勢の変化を踏まえると、これらの要素を予測するのはますます難しくなっている。

ローザンヌ大学で直接民主制を専門とする政治学者ショーン・ミュラー氏はswissinfo.chに対し、スイスが世界経済との一体化を深め、危機の影響を受けやすくなっていることでさらに複雑になっていると語った。

「予想外の出来事が次々と起こり、当然予測は難しくなる。スエズ運河での船舶事故でさえ、スイスの地元スーパーマーケットの小売価格に影響を与える」

連邦制も事態を複雑にしている。法人税率や教育制度、インフラ予算は州によってばらばらだ。

ミュラー氏は「間違いは誰にでも起こる。不安なのは多くの仮定や公式、不十分なデータに基づいているにもかかわらず、絶対的な確信を持って、確固とした数字が予測されていることだ」と指摘する。試算は試算にすぎないことがもっと明確に認知され、データや計算式を公開して批判的な議論ができるようにするべきだと提案する。

何よりも重要なのは「ミスが透明性をもって報告され、人々がそこから学ぼうとすることだ」とミュラー氏は語った。

編集:Balz Rigendinger/ts、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

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