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自殺ほう助カプセル「サルコ」スイスで初の死者、複数人を逮捕

サルコ
7月にチューリヒで公開されたサルコ Keystone / Ennio Leanza

物議を醸す自殺カプセル「サルコ」の利用に、スイス連邦政府がついにノーを突きつけた。しかし奇しくも同じ日に、サルコによる第1号の死者が出た。

サルコの運用団体ラスト・リゾートは24日、カプセルを使った初の自殺ほう助が行われたと発表した。

同団体によると、死亡したのは健康問題を抱える64歳の米国人女性で、23日午後、シャフハウゼン州の森の小屋のそばでカプセルの中に入り、自死した。

シャフハウゼン州警察は24日、州検察が自殺教唆・ほう助の容疑で数人に対する刑事手続きを開始し、数人が州警察に身柄を拘束されたと発表した。

サルコは当局が押収し、遺体は検死のためチューリヒ法医学研究所(IRMZ)に運ばれた。

物議を醸すカプセル

サルコはオーストラリアの医師で安楽死擁護者のフィリップ・ニチケ氏とオランダ人技師のアレックス・バニンク氏が考案。カプセル内に窒素を大量に放出し、室内を急激に低酸素状態にして中にいる人を死に至らしめる。スイスなど自殺ほう助が合法化されている国では通常、医師の処方する致死量のペントバルビタールナトリウムが使われるが、窒素は安価で購入でき、医師の処方せんも要らない。

▼2024年7月にチューリヒで公開されたサルコ

サルコの開発者は7月にチューリヒで開かれた記者会見で、自殺ほう助が合法化されているスイスで、このカプセルの「世界デビュー」を計画していると発表した。しかし、シャフハウゼン州を含むいくつかの州が、このカプセルの使用に警告を発した。

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専門家の間でも、カプセルの使用を規制する法律があるのか、あるとすればどの法律なのか、意見が分かれていた。

「法的適合性を欠く」

連邦内閣(政府)は奇しくもサルコが使われた23日、初めて公の場でサルコに言及した。エリザベット・ボーム・シュナイダー内務相は、このカプセルはスイス国内では使用できないと明言した。

エリザベット・ボーム・シュナイダー氏
連邦議会でサルコについて言及したエリザベット・ボーム・シュナイダー氏 Keystone / Anthony Anex

ボーム・シュナイダー氏は秋季議会で、「サルコは2つの点で法的適合性を欠く」と述べた。第一にこのカプセルは、商業・業務目的で市場に出される製品の安全性を規制する製品安全法の要件を満たしておらず、「したがって市場に出してはならない」とした。

また自殺を目的とした窒素の使用は、化学物質法の意図する目的とは一致しないと述べた。ボーム・シュナイダー氏はまた、窒素の使用に関する管轄は基本的に各州にあると強調した。

一方、ラスト・リゾートは、カプセルのスイスでの使用が合法であるという姿勢は崩していない。

ラスト・リゾートの創設メンバーで弁護士のフィオナ・スチュワート氏は声明で、同団体は常に弁護士の法的助言に基づいて行動してきたと述べた。

また7月の会見で「過去2年間、さまざまな専門家から広範な法的見解を得てきた。サルコの使用に法的な障害はないと理解している」と述べている。

2人用サルコの計画

サルコは7月、別の米国人女性が第1号の利用者になる予定だった。しかし、本人の精神状態を理由にカプセルの使用許可が取り消された。この女性はその後、別のスイスの自殺ほう助団体の支援を受けて死亡した。

英紙デイリー・メールは最近、86歳と80歳の英国人夫婦が、2人用のサルコを使って自死する初めてのカップルになると報じた。2人用のサルコのアイデアは、7月に同団体が発表していた。来年1月にも使用が可能になる予定だという。

スイスでこのカプセルが使用されたニュースは24日、スイスの主要日刊紙の見出しを独占した。議会でも反応があった。秋季議会でボーム・シュナイダー氏にサルコ使用の合法性について質問した下院法務委員会委員のニーナ・フェール・デュッセル議員(国民党=SVP/UDC)は、日刊紙ターゲス・アンツァイガーに対し、カプセルの使用禁止を提案することが可能か検討していると述べた。

編集:Marc Leutenegger、独語からの翻訳:宇田薫、校正:上原亜紀子

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