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アラン・ドロンと「平和な」スイスとの複雑な関係

カメラを構える男性と俳優
ロカルノ国際映画祭で映画界への貢献を讃えたライフ・アチーブメント・アワードを受賞し、フォトコールに応じるアラン・ドロンさん、2012年8月3日撮影 KEYSTONE

18日に死去したフランスの俳優、アラン・ドロンさんにとって、スイスは第二の故郷のような存在だった。個人事業の立ち上げを機にスイスに縁が生まれ、最終的にはスイス国籍を取得し、ジュネーブに居を構えた。 

ドロンさんの家族は声明で、「アラン・ファビアン、アヌーシュカ、アントニー、そして(愛犬の)ルーボは、悲しみを込めて父親の死をお知らせします。ドゥシーの自宅で、3人の子どもと家族に囲まれて安らかに亡くなりました」と明らかにした。88歳だった。  

映画「太陽がいっぱい」、「山猫」など数々の名作に出演したドロンさんがスイス移住を決めたのは、最初はビジネス上の理由からだった。1978年、ドロンさんは香水やシャンパン、時計、たばこ、衣類などの商品用に自身の名前の権利販売を行う会社ADD(アラン・ドロン・ディフュージョン)をジュネーブに設立。それをきっかけに次第にジュネーブの魅力に引き込まれていく。 

ドロンさんはジュネーブの旧地方紙「ラ・スイス」のインタビューで、飛行機がジュネーブ空港に着陸した瞬間「言葉では言い表せないほどの安らぎ」を感じたと語った。1985年にはジュネーブ郊​​外の緑豊かなシェヌ・ブジェリーに別荘を購入し、スイスの地に根を下ろし始めた。 

飛行場で荷物を手に歩く男性と女性
ジュネーブ空港に到着したアラン・ドロンさんと妻のナタリーさん、1965年頃 Keystone / Str

市当局は1999年、ドロンさんと2人の子ども、アヌーシュカ(当時8歳)さんとアラン・ファビアン(当時5歳)さんのスイス国籍取得を承認。その翌年、ドロンさんは新スイス国民としての宣誓式に出席し誓いを宣言した。

動物への愛

スイス政治への関心は薄く、スイスの国民投票にも参加しなかったドロンさんだが、例外が一つあった。フランスの自分の土地にある墓地に50匹の犬と一緒に埋葬されることを望むほどの犬好きの彼は2010年、虐待を受けた犬などを保護する動物弁護士制度の創設を求めるイニシアチブ(国民発議)で賛成を呼びかける運動に参加し、話題を呼んだ。  

ドロンさんは投票前、スイスのフランス語圏日刊紙ル・マタンの取材に応じ、「犬や他の動物を拷問できるのなら、人間も拷問できるということを理解しなければならない。スイスがモデルとなり、フランスもそれに倣うことを私は願っている」と語った。 

同イニシアチブはスイス有権者の7割が反対票を投じ、否決された。 

自殺ほう助を支持

ドロンさんは2005年、シェヌ・ブジェリーの別荘を350万フラン(約6億円)で売却し、ジュネーブのフロリサン・シャンペル地区のアパートに引っ越した(娘のアヌーシュカさんが2018年から夫と息子とともに住んでいる)。2011年、このアパートで悲劇が起きた。息子のアラン・ファビアンさん(当時17歳)が友人を集めてパーティーをしている最中、16歳の少女が腹部に銃弾を受け重傷を負った。家庭裁判所は2年後に事故であったことを認め、アラン・ファビアンさんに過失致傷で懲役5カ月、執行猶予1年の判決を下した。 

2019年、83歳で脳卒中を起こしたドロンさんにとって、スイスが再び休息と療養の地となった。パリで手術を受け集中治療室で3​​週間過ごした後、ドロンさんはスイスに戻り、裕福な個人クリニックのクリニック・ド・ジェノリエで療養した。2021年に妻のナタリーさんが膵臓がんで亡くなるのを見届けると、とりわけ自殺ほう助を支持するようになった。 

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ドロンさんは2021年、フランス語圏の放送局TV5モンドのインタビューにこう語っている。「(自殺ほう助に)賛成だ。第一に、私は自殺ほう助が可能なスイスで過ごす時間が長い。それだけでなく、それが最も論理的で自然なことだと思うからだ。ある年齢、ある瞬間から、私たちには病院に行ったり注射などを打たれたりすることなく、平和にここから逃げ出す権利を持つようになる」 

編集:Reto Gysi von Wartburg/ts、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子 

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