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スイスで人気 ホメオパシー

直径およそ4ミリメートルのこの白い粒がホメオパシーのレメディー。 imagepoint

公園でけがをしたり、遊具から転落したりした子どもに母親が素早く駆け寄り、白い小さな粒を口に含ませる姿は、スイスでよく見かける光景だ。この粒がホメオパシー薬の1つアルニカ。打撲、傷、さらに精神的ショックにも効果がある。 

スイス国民は5月17日の国民投票で、ホメオパシー、薬草療法などの代替医療を憲法に盛り込むことに同意した。中でもホメオパシーは、内科医の資格を持ち同治療を行う医師が320人いる、スイスで非常に一般的に受け入れられている治療方法だ。

抵抗力を高める

 「ホメオパシーは慢性病に効く。子どもの病気では、インフルエンザ、中耳炎、胃腸炎、不眠症、性格的問題など。大人では、炎症性のもので、頭痛、花粉症、急性の蓄膿症など、3カ月ごとに繰り返し同じ症状が出る人に特に有効だ」
 とホメオパシー医師、ブルーノ・フェローニ氏は言う。

 ホメオパシーは、基本的に病気と似た症状を起こさせる植物、動物、鉱物などをごくわずか投与することで、体の抵抗力、治癒力を高める方法だ。例えば、うさぎ菊のアルニカは、それを大量に与えると炎症の症状が起こる植物だが、これを何回も水で希釈し、ほとんど成分が残っていないような水を、糖粒にしみ込ませたもの ( レメディー) を与えることで、炎症を抑える力を体内に呼び起させる。
 
 「ホメオパシーはウイルスや細菌を直接攻撃するのではなく、ウイルスや細菌に対する抵抗力を高める方法だ」
 とフェローニ氏は続ける。従って病気によっては治療に時間のかかることも多く、急性の病気などホメオパシーで治せないものも多くあり、限界はある。
 
 例えばがんは、ホメオパシーでは十分に治療できないという。
 「がんは臓器が侵される、体の1部分の病気と呼ばれるもの。つまり肝臓がんは慢性肝炎の進んだ形でこれはもうホメオパシーでは治せない。心筋梗塞も治せないし、盲腸にかかったら切るしかない。体が自分の力だけで治すことができないものはホメオパシーの治療範疇 ( はんちゅう ) に入らない」
 と説明する。

ホメオパシーと西洋医学は補完し合う

 「例えば気管支炎の患者が来たら、まずホメオパシーで対処する。なぜならホメオパシーは毒性や副作用がないからで、1日か2日で早く反応したら、それに越したことはない。しかし、症状が変わらなければ、わたしは内科医の資格を持つ医者なので、一般の内科医が使う抗生物質や咳止めを渡す」
 とフェローニ氏は、ホメオパシーは決して西洋医学と対立するものではなく、お互い補い合っていくものだと考えている。さらに、一般の医師がホメオパシーを含む代替医療についての知識をもっと深めてほしいとも望む。

 代替医療が医療として憲法で認められることを求めたイニシアチブ ( 国民発議 ) を起こした組織の1つ、「スイス・ホメオパシー医師協会 ( SVHA/SSMH ) 」の広報担当ヴァルター・ストュデリー氏も、
「緊急の病気は西洋医学で、慢性の病気はホメオパシーとお互いが治療分野を分け合い、補い合っていくという、非常に実際的な医療の形を追求している。そして、誰もが代替医療にアクセスでき、健康保険の対象になることを望んでいる」
 と言う。

ホメオパシーに対する批判

 しかし、西洋医学や科学者たちの間には、ホメオパシーに対する批判が根強く残っている。

 まず、ホメオパシーでは症状を起こす成分を希釈する回数が多ければ多いほど効果が高い、つまり症状を起こす成分がほとんどなく、水に限りなく近いレメディーの方が成分が残るものより効果が高いという、科学的論理に反する理論を1つの基礎にしている。
 
 「私も西洋医学を学んだ人間なので反論は理解できるが、実際に治療経験から、こうなんだと答えるしかない。より希釈された15CHのレメディーの方が希釈が少ない5CHより早く、有効に効くのを実際に見てきた」
 とフェローニ氏は言う。

 またホメオパシーでは、同じ頭痛でも患者の性格や過去の経験によって違うレメディーを使うため、初診では1時間近くかけ患者の病気になった原因や過去の話などを聞く。そのため、偽薬を飲んでも「薬を飲んだ」という心理的作用で病気が治る「偽薬効果 ( プラセボ効果 ) 」と同じで、「レメディーは偽薬だ。治るのは長く患者と話をするからだ」という批判がある。

 「しかし、話ができない新生児や乳幼児、動物にも効果があるといわれるし、実際わたしもそれを何度も経験している」
 と、フェローニ氏は反論する。新生児や乳幼児を何人も治してきたし、また患者の農夫のニワトリ数十羽が伝染病にかかったとき、抵抗力を高めるレメディーを渡し治したという経験を持つ。

 一方、こうした議論をよそに、スイスではホメオパシー治療に頼る人がここ数年増え続け、ストュデリー氏によれば、ここ4年来ホメオパシー薬の販売量が毎年5%伸びているという。またどのホメオパシー治療機関も満員で、患者のリスト待ちが続いている。実際、フェローニ氏のところでも毎日数人の患者を電話で断っており、「初診を望むなら10月か11月になる」という。

里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch

基本的に病気と似た症状を起こさせる植物、動物、鉱物などをごくわずか投与することで、体の抵抗力、治癒力を高める代替医療の1つ。

ドイツ人ザームエル・ハーネマン医師によって、1810年頃始められた。

彼の理論によれば、症状を起こす物質を限りなく薄く希釈すればするほど、治癒力が高まるといわれている。

希釈の度合いを示す単位は希釈法により異なる。フェローニ氏によれば、希釈度により、およそ以下3つのグループに分かれるという。低い希釈度5CHと30K、 中間的希釈度7、9CHと200、1000K、高い希釈度12、15、30CH と10000K。スイスではCHを日本ではKの単位を使っている。

スイスには「スイス・ホメオパシー医師協会 ( SVHA/SSMH ) 」があり、「国際ホメオパシー医師リーグ ( LMHI ) 」でスイスを代表する。

スイスの大学で医者、薬剤師、歯医者の資格を取得した者で、ホメオパシーの講義を数年受け、その証明を持つ者のみがメンバーとして認められる。現在約400人がメンバー。

スイスの医師資格 ( FMH ) を持ち、ホメオパシーの内科医として働く人は約320人。

チューリヒとベルン大学の医学部では、選択科目としてホメオパシーがある。教師は協会のメンバーによって行われている。ベルン大学では正式なホメオパシーの教授職が設定される方向にある。

ホメオパシーの薬レメディーは、スイスでは医者の処方箋がなくても薬局で買うことができる。自己治療を行う人に対し「例えばアルニカなどのレメディーを1日4、5回使ったり、毎日使ったりするのを避け、必要な時だけに使うのであれば、副作用がないので許容できる」
とフェローニ氏は話す。

スイスの薬局では旅行用に、酔い止めや、けが用のレメディーがセットで販売されている。

ホメオパシーの人気は高まっており、ここ4年来ホメオパシー薬の販売量は毎年5%伸びている。また、どのホメオパシー治療機関も満員でリスト待ちが続いている。

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