無水トイレの勝利
水洗トイレのために年間何十億リットルもの清潔な水が使われているが、男性用小便器を製造するスイスの小企業が、水を節約する装置の開発に成功し、洪水のような喝采を浴びている。
冗談はさておき、「水洗 ( フラッシュ ) 」という単語は、水や油、そして化学薬品を使わないこの男性用無水小便器の解説には不要だ。その上、このトイレには臭いもない。
貴重な水を大切に
国連は、世界の人口の約3分の1は基本的な衛生施設を所有していないという事実を強調し、2008年を「公衆衛生の年」と宣言した。水不足が世界的な大問題になると注目されている中、チューリヒ湖畔の街フェルトバッハ ( Feldbach ) に位置するウリマット社 ( Urimat ) が特許を獲得した意匠が人気を呼んでいる。
「EURO2008」の開催期間中、男性サッカーファンはバーゼルのザンクト・ヤコブ・スタジアムで同社の無水小便器「ウリマット」を試すチャンスに恵まれている。
ウリマットのシステムの要は、臭気を密閉する仕掛けだ。小便器の底面に設置されているカートリッジの内部には、流体静力学を利用した浮きのような仕掛けが内蔵されている。これが水を使わずに尿を除去するとウリマット社のマルセル・ネプフラー社長は説明した。
しかし水を使わない小便器は臭わないのだろうか?
「もちろんほとんどの人がそれを1番に質問します。実際、臭いのもとはバクテリアですから、水(そしてバクテリア)がないところには臭いはありません」
とネプフラー氏は語った。
発想の転換
「これは発想の転換です。私たちは、水イコール清潔と思い込んでいますが、トイレでは全く逆です」
とネプフラー氏は述べた。
ネプフラー氏によると、約10年前に無水小便器の製造開始をした時は、このアイデアが機能することを説得するのはたやすいことではなかった。しかし、水不足に対する懸念の増大でこのシステムにも関心が集まり、ウリマットは環境への貢献によって世界中で環境関連の賞を次々と受賞した。
「水を使わないエコロジカルな小便器の開発を常に考えてきました。エコロジーはわれわれの大きな目標の1つです。同様の節水効果がある小便器のシステムが市場に出回っていることは知っています。しかしそれらの製品は化学薬品や液体を使っています。ウリマットは100パーセント環境に優しい方法を使用しています」
とネプフラー氏は述べた。
ウリマット本体はマクロロン ( Makrolon ) というハイテクプラスチックを鋳型に注入する複雑な過程を経て作られる。
衛生
このように製造され、衛生面での利点を持ち合わせているのは、ネプフラー氏が知る限りウリマットが世界唯一の製品だ。
「マクロロンはエネルギッシュな合成素材なので、陶器製の小便器のように、排出された尿が冷える、残る、シミができるなどということもありません。また、バクテリアがたまるようなシャープなへりも小便器にはありません」
とネプフラー氏は説明した。
さらに、ウリマットは4キログラム程度の重さしかないので、取り付けは従来のものよりもかなり簡単で、本体を支えるためのフレームも必要ない。そして乱暴な破壊行為にも耐えられる。
臭いについての質問の次に来るのは、そのハイテク小便器をいかにして掃除するかだろう。
「2番目に多い質問は、おそらく掃除についてでしょう。ウリマットは無水で機能しますが、掃除をしなくてよいというわけではありません。われわれの掃除のコンセプトは、掃除をする働きを持つ微生物の利用です。小便器に微生物をスプレーするだけなので非常に簡単で早く、しかし非常に効果的です」
水不足がますます問題になるにつれて、ウリマット社の製品に対する関心は高まっている。
広告
ウリマットの特許のもう1つのユニークな特徴は、小便器の上部に組み込まれたパネルに広告をつけられることだ。小便器の使用中は、約40秒間は目をそらすことがないとウリマット社は指摘する。
オプションの1つとして、内蔵センサーの働きで使用中に、広告をパネルに表示することができる。これはスイスとドイツの高速道路沿いのレストランで使用されている。つまり、ウリマット社の小便器は広告のスペースを貸し出すことで利益を生み出すことができる。
メキシコ、韓国、オーストラリアなどの政府は、広告スペースに「われわれは環境に配慮しています」というメッセージを表示し、この小便器が節水できることを伝えている。
ウリマット社が無水小便器の発売を開始したとき、この製品を揶揄 ( やゆ ) するジョークには事欠かなかったが、国連が「命のための水、国際10年」を宣言してから3年が経った現在、状況は変化した。
「節水するのは良いことですから、だれも冗談を言わなくなりました。われわれは小便器の販売会社ではありません。節水への貢献という環境問題の解決方法を提供しているのです」
とネプフラー氏は述べた。
swissinfo、ロバート・ブルックス、フェルドバッハにて 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳
従来の水洗小便器は、毎回使用時に3~6リットルの水を流すが、それは飲料水と同じ清潔な水だ。
普通のレストランの水洗小便器は1年間に10万リットルの水を使用するが、ウリマットの使用によって1年間で約600フランから1000フラン ( 約6万2000円から10万4000円 ) の水道料の節約が可能と推計される。
ウリマットの使用によって、スイスのマクドナルドは、1年間で2800万リットルの水を節約したと報告している。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。