ツタンカーメン王の暗殺説覆す CTスキャン調査報告
黄金の仮面で知られるツタンカーメン王のミイラを、体の断面図を鮮明に映し出すCTスキャンで調べていた調査チームが、「同王の死因は暗殺ではない」と発表した。
これまでの暗殺説を覆した形となったが、死因は死後3300年経った今も謎に包まれている。
エジプトと欧州合同考古学調査チームに参加したスイス人のフランク・リューリさんは、「左足の大腿骨を骨折した形跡があり、それに伴う感染症で死亡した可能性が高い」と話す。王の墓を荒らさぬよう、調査はひとまず打ち切られる予定だ。
暗殺説覆す
36年前にX線で調査した際、ツタンカーメン王の頭蓋骨内に骨片が見つかったことから、19歳の少年王は頭部への殴打が原因で死亡したのではないかとする暗殺説が考古学者の間で有力となっていた。
死因を特定するため、調査チームは今年1月、エジプト南部ルクソール近くの「王家の谷」でツタンカーメン王のミイラを墓から取り出し、CTスキャンで断層画面を撮った。
調査メンバーのリューリさん(チューリヒ大学解剖学部)は「頭部を殴られた痕跡はなく、頭蓋骨内の骨片は死後にできたもので、死因ではない」と話す。
頭蓋骨内の骨片は、ミイラを作るために遺体から脳を取り出した時にできたものか、1922年に英考古学者ハワード・カーターが発掘した時にできたものではないかと考えられ、撲殺など暗殺説を裏付ける証拠は見つからなかったとしている。
死因謎のまま
一方、今回のCTスキャンで左足の大腿骨を骨折した形跡が見つかった。「ここから病原菌などに感染して死亡したのでは」とリューリさんは推測する。
ただ、これも発掘時に破損した可能性があり、疑問視する見方もある。
今回の調査で死因を特定できなかったものの、エジプト考古最高評議会は調査を打ち切る方針を出した。
リューリさんも「ミイラから一部組織を取り出してDNA鑑定をするのでなければ、ミイラそのものからこれ以上データを集めるのは無理だろう」と話す。「ツタンカーメンの死因解明は今回の調査でひとまず幕を下ろすけど、数年後には新たな幕が上がるはず」と期待を寄せている。
swissinfo アダム・ボーモン 安達聡子(あだちさとこ)意訳
ツタンカーメン王:
紀元前14世紀頃の古代エジプト第18王朝12番目に在位した統治者といわれる。
1922年に英考古学者ハワード・カーターがエジプト南部「王家の谷」で同王のミイラを発見。その存在が世界に知れわたった。
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