新しい情報発信ブログ、スイスで浸透せず
サラーム・パックスと名乗るイラク人の若者は有名人ではないが、米英のイラク攻撃が始まる少し前から世界中にファンができた。
同氏はバグダッドに住む29歳の男性。独裁者に抑圧されてきたイラク人像とは異なり、欧米の音楽や映画を楽しむ。同性愛者であることを隠さず、戦時下のバグダッドで暮らす日常を、日記を書く感覚で発信し、世界中の読者の共感を呼んだ。
彼の名前をタイトルに付けた「サラーム・バックス」をはじめ、個人がインターネット上で簡単に情報発信できるウェブログ(通称ブログ)が米国を中心に世界中で急増している。だが、こうした動きはスイスでは浸透していないという。自分をさらけ出すことに抵抗があるのが理由のようだ。
新メディアの登場
インターネットを使った新しい情報発信として登場したブログは、ホームページに比べ、作成するのに専門知識を必要としない。日記を書く感覚で誰でも簡単に書き込みができ、新しい投稿が常にサイトのトップにくる仕組みだ。
バグダッド発「サラーム・バックス」には、米英の攻撃にさらされながらも日常生活の描写が多い。このため、既存のメディアでは伝わらないイラク人の生の声が聞ける情報発信源として人気を得た。
その後、2002年9月からの9カ月間をまとめた本『サラーム・バックス——バグダッドからの日記』までが出版されるに至る。
こうしたブログは世界中でおよそ400万あるといわれる。しかし、スイスに存在するブログはたったの1,000程度。内容も、元彼女についての悩みの書き込みや、一家団欒の写真を満載するブログがほとんどだという。
日刊紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングのサイトを担当していた元編集長マルティン・ヒッツ氏は、国内で流行らない理由について、こう分析する。「スイス人は米国人ほどには自分のことを他人に話す必要に駆られないのが要因だろう。スイス人にありがちな控えめな態度も浸透しない一因だ」。
ヒッツ氏は1年半前に、「メディエンシュピーゲル(報道の鏡)」という名のブログを立ち上げた。スイスメディアの変わっていく様を探るのが狙いだと話す。
「ブログが出てきた背景には、既存のメディアに多くの読者が満足しきれていないからだと思う」と語る。「今後はブログに書き込む人たちがニュースを報じるような参加型メディアも出現してくるかもしれない。既存のメディアはこうした動きを重く受け止める必要がある」と今後のブログの行方に注目している。
スイス国際放送 フィリップ・クロプ 安達聡子(あだちさとこ)意訳
ブログの名称由来:
ネット上に日記のように書き込まれることから「Web日記(Weblog)」と呼ばれ、後半部分が通称となる。
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