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10月の総選挙に向け、景気刺激政策は必要なし

どの通貨よりも強いスイスフランの唯一の欠点は輸出経済を圧迫することだ Keystone

総選挙まで1カ月半。スイス経済は現在、スイスフラン高・ユーロ安による痛手を受けスイス国立銀行(SNB)が為替介入を発表するなど混乱が続いているが、全般的には好調だ。

経済成長率はヨーロッパの平均値を上まわり、失業率は低下。国家財政も安定している。各政党は選挙戦に備え景気刺激政策を提案する必要がないほどの状況だ。

 2009年の経済危機後、スイス経済は順調に回復した。多額の負債を抱え、国家財政破綻と戦うほかのヨーロッパ諸国と比べると、スイス経済はどの国も羨むほど好調なのだ。

 

 それは、最も重要な経済指標からも見て取れる。昨年、欧州連合(EU)の国内総生産(GDP)は1.8%増加した。これに対し、スイスの国内総生産は、2.6%増。また、国債は国内総生産の4割(EU圏内8割)にとどまり、5月の失業率は3%以下(EU圏内9.5%)に低下した。

良好なスイス経済の根底

 しかし、スイス経済が安定しているという理由で、突然、右派、左派政党が共通の経済政策に合意するということはあり得ない。また、スイスの経済状況に関し各政党の見解もかなり異なっている。

 過去数十年間政治の中心的役割を担い、ほかの政党より高い頻度で政治方針を決定してきた、中道右派の急進民主党(FDP/PRD)と中道派のキリスト教民主党(CVP/PDC)は、スイス経済の発展の大半が両党の功績によるものだと自負している。

 「我々は長年にわたり、安定と信頼というイメージを持つ国家を築いてきた。このイメージがスイス経済の持続的成長において重要な役割を担っていることは確実だ。さらに、社会的平和と堅実な市場経済を実現し、スイスに投資したいと考える外国企業に魅力的な条件を提供する際の基礎にもなっている」とキリスト党教民主党のピルミン・ビショーフ議員は語る。

 急進民主党のフィリップ・ミュラー議員もこれに共感する。「我々は過去数年間に節制とバランスを併せ持った政治を行ってきた。ほかのヨーロッパ諸国と比較して、我々は決して過度な景気刺激政策を推し進めず、金融機関のもろさを補うために過度な負債を負うこともなかった」 

スイス経済危機を救ったもの

 中道派の以上のような見解に対し、右派、左派の政党はそれぞれ異なった意見を表明する。  「確かにスイス政府は聡明な介入を行い、軽はずみに負債を負うことはなかった。しかし、経済成長は移民増加に因るところが大きい。外国人の数が毎年1%増加すると、国民総生産もその割合に応じて増加するのは明らか。しかしこれは見せかけの成長だ」と語るのは右派の国民党(SVP/UDC)議員、ハンス・カウフマン氏だ。

 一方、左派、社会民主党(SP/PS)のハンス・ユルク・フェール議員の意見はこれに対立している。「スイスは最近の経済危機をほかのヨーロッパ諸国が行った大掛りな景気刺激政策のお蔭で乗り切ることができた。スイスは輸出国。多くのスイス企業は、ヨーロッパ諸国の景気回復に便乗して利益を得たのだ」

 ヨーロッパ諸国が自国の経済危機を救済するために、数兆円から数十兆円単位を投入したのに対し、スイスはほんの30億フラン(約2850億円)を景気安定のために拠出した。右派はスイス政府が投じた金額を膨大だと主張するが、左派にとっては少なすぎる金額だ。

 「我々は、すべての産業部門が連邦政府からの援助金を望んだために、全く必要のない経済安定計画を行った。現在、そのつけが回ってきている。当時の援助によって最も利益を得た不動産部門の景気が過熱している」と国民党のカウフマン議員は語る。

 これに対し社会民主党のフェール議員は、政府はさらにほかの援助政策を行うことができたはずだと主張する一方、「経済安定計画は、特に観光部門支援と若者の失業率減少に役には立った」と明言する。

左派、右派、中道派の経済政策方針

 スイス経済が好調な限り、各政党が革新的な経済政策を推進する気配はない。唯一目新しい政策はクリーンテクノロジー(環境保全技術)の促進だ。これは新しい雇用を生みだすことになるだろう。

 しかし、このクリーンテクノロジーを積極的に支持するのは左派の緑の党(Grüne/Les Verts)のみで、ほかの政党はこれまで長年推進してきた経済政策を繰り返すだけだ。

 左派の社会民主党は最低賃金の導入、総括的な公共サービス、スイス国内の雇用を保証できるよう企業の強化を要求している。「金融危機が相次いで起きるたびに、スイスで過大な比重を占める金融産業に対し、比重は小さいが実体経済を担う産業、貿易、観光業を強化する必要があることが証明された」と社会民主党のフェール議員は語る。

 一方、EUとの2者間協定を新たに審理するよう要求する右派の国民党は、スイス経済はEUから独立した国家であるべきだと唱える。「スイスは数カ国の市場と深く結びついているが、特にEUとは密接な繋がりがある。そのため、経済危機が起きるたびにその影響を受ける。将来的にスイスは、経済躍進が目覚しい新興国と自由貿易協定を締結することによって、EU諸国への依存を軽減するべきだ」

 中道右派の急進民主党と中道派のキリスト教民主党が優先する選挙テーマは、雇用確保、中小企業援助、投資家や外国企業を誘致するために有利な条件を設定することだ。また、キリスト教民主党のビショーフ議員は次のように明言する。「我々は、今後も自由、かつ社会的な市場経済を保証することを目指す。これまでスイス経済が強かったのは、この二つのバランスを保ってきたからだ。対立する左派、右派の政党の極端な要求はスイス経済の安定を脅かす。将来もこの二つのバランスを保っていくべきだ」

国民党(SVP/UDC)右派 : 減税と政府の支出削減、市場拡大と行政手続の簡略化、雇用確保、私有財産の保護

社会民主党(SP/PS)左派 :  再生可能エネルギー分野投資による10万人の新雇用、最低賃金保証制度の導入、健康保険の国営化

急進民主党(FDP/PRD)中道右派 :中小企業に有利な条件設定、雇用創出、国際市場への参入、 行政手続の簡略化

キリスト教民主党(CVP/PDC)中道派 :  クリーンテクノロジー(環境保全技術)計画促進による雇用創出、最重要市場への参入、分野に限定した税負担の軽減

緑の党(Grüne/Les Verts)左派 :  技術革新と再生可能エネルギーを基礎にした環境保全重視の経済へ移行、クリーンテクノロジー分野における雇用創出とバランスのとれた資源配分

市民民主党(BDP/PBD)中道右派 :  公共部門におけるバランスの取れた経済政策、競争力のある企業、持続力と責任感の強い企業精神

2007:3.3%

2008:2.8%

2009:3.3%

2010:4.5%

2011:2.9%(5月末現在)

2007:+3.6%

2008:+1.9

2009:-1.9%

2010:+2.6%

2011:+2.1%(連邦経済省経済管轄局/Secoによる予測)

(独語からの翻訳、白崎泰子)

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