スイスの同性婚合法化、まだ続くいばらの道
スイス議会は7年越しの議論を経て昨年末、ようやく同性婚の合法化にゴーサインを出した。だが平等を勝ち取る戦いはまだ終わっていない。
編集部注:この記事は昨年12月4日に英語版で配信された記事を、その後の議会の動きを受けて一部加筆修正しました。下段のグラフは、昨年12月時点のデータです。
スイスは同性婚を認めていない欧州では少数派の国だ。だが昨年12月1日、国民議会(下院)に続き、全州議会(上院)が議員発議のイニシアチブ「全ての人に結婚の自由を外部リンク」を可決。さらにその後、下院で追加の議論が行われ、最終案が同月18日に両院で可決された。
「全ての人に結婚の自由を」は国内法を改正し、同性婚を合法化する。レズビアンカップルへの精子提供も認める。
ただ、男性カップルが養子を持つことは従来同様認められず、同性カップルには遺族年金の受給権がないなど、異性愛者の夫婦と同等の権利が保障されるわけではない。だが、これまでパートナーシップ制度しかなかったスイスにとっては大きな一歩となる。
LGBTIQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、インターセックス、クィア)の支持者らにとって、この道のりは非常に長いものだった。
法案の通過を受け、「全ての人に結婚の自由を」委員会外部リンクのマティアス・エルハルト副委員長は声明外部リンクで「この勝利は、私たちの国、そして直接的、間接的に関係する人達にとって大きな一歩だ」と喜んだ。
しかし、保守派のスイス民主同盟(EDU)が同法案に反対するレファレンダムを提起すると公言しており、成立すれば国民投票に持ち込まれる。その分、実現はまた遠のく。
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カメの歩み
スイスの政治プロセスは時間がかかるが、「全ての人に結婚の自由を」は既に7年もの歳月を要している。同イニシアチブ外部リンクは2013年12月、中道派の自由緑の党が提案。その後、議会は複数の修正案を議論してきた。
だがスイスは、このとき既に国際的に遅れをとっていた。オランダは2001年に世界で初めて同性婚を認めた。スイスが2007年に同性カップルのためのパートナーシップ制度を導入したときには、欧州5カ国(オランダ、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド)は同性婚に加え、養子縁組、生殖医療へのアクセス、出生時の両親の認知といった、親になる権利を全て認めていた。
国際的な批判
法制面の不備は、様々な国際機関から批判されてきた。国連人権理事会は普遍的・定期的レビューの中で、同性愛者に対し差別的なスイスの法律を指摘している。
国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)欧州グループが出すLGBTIQの平等な権利に関するランキングで、スイスは近年、27位に順位を落とした。今年2月にホモフォビア(同性愛嫌悪)を刑事罰の対象とする法案を可決したことが評価され23位に浮上したが、平等に対する評価が36%と、いまだ欧州平均(48%)を下回っている。
上院で法案が可決された時、国際社会は「好ましい発展」だと歓迎した。
ILGA欧州グループのキャンペーン・ディレクター、カトリン・フーゲンドゥーベル氏は、「これは良いニュースだ。LGBTIQの人たちが、スイスの全ての人と同じ婚姻権と親権を得るための一歩だ」と言う。
アムネスティ・インターナショナルは「平等な権利のための歴史的な決定」と評価。スイス支部部長のアレクサンドラ・カーレ氏は「同性カップルやレインボーファミリー(一般手には同性カップルの家族を指す)に基本的な権利を与えない理由がないことを、スイスはやっと認めた」と述べた。
課題はまだ山積み
しかし、スイスにいるLGBTIQの人たちのための平等な権利を確保するには、さらなるステップが必要だと専門家は言う。
例えばアムネスティ・インターナショナルのナディア・ベーレン広報官は、スイスの法律ではトランスジェンダー差別への処罰が認められていないと批判する。
またILGA欧州グループは、インターセックスの未成年者への医療介入は、不要な場合は法律で禁止すべきだと考える。同性愛者の難民認定の分野でも、連邦当局に改善の努力が必要だと強調する。欧州人権裁判所は昨年11月、スイスが同性愛者のガンビア人男性に国外退去を命じたことに対し、その男性がさらされるであろう危険性を適切に調査していなかったとして、スイスの決定は妥当でないとの判決を下した。
また国の統計がないため、スイスにおけるLGBTIQコミュニティへの差別や暴力の実態を把握するのは困難だ。
スイス人の心情に変化
ただ、この問題に対するスイス人の受け止め方は変わってきている。スイスのホモ・バイセクシュアル男性の団体ピンク・クロスが2020年2月に行った調査では、回答者の8割以上が同性婚を支持すると回答した。
(英語からの翻訳・シュミット一恵)
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