スイスの視点を10言語で

チューリヒの大手銀行、米司法省に巨額の罰金支払いで合意

チューリヒ州立銀行
チューリヒ州立銀行 Keystone

スイスの銀行大手チューリヒ州立銀行(ZKB)は13日、米司法省に米国人顧客に対する脱税ほう助行為を認め、9850万ドル(109億1千万円)の罰金を支払うことで合意したと発表した。これにより同行に対する米司法省の一連の捜査は終了する。

 チューリヒ州立銀は同日夜の声明で、罰金の支払いは司法取引の一環であり「過去の米国人顧客向け業務に対する米司法省の捜査」に終止符を打つためだとした。米司法省は、同行が米国人顧客の隠し口座を使った脱税行為を手助けしていたとして捜査していた。

 同行のヨルグ・ミュラー・ガンツ取締役会会長は「米当局と事実に基づく対話を7年重ねたが、捜査が終わったたことに安堵(あんど)している。今回の合意によりこの問題に終止符が打たれ、関連する不安定要素もすべて取り除かれた」と語った。

 ロイター通信によると、米ニューヨークで13日に行われた公判の審問で検察側は、チューリヒ州立銀が罰金の支払いに応じたため、司法取引によりこれ以上捜査を行わないと述べた。

 またこの日、軽罪の共謀の罪(懲役最大1年)に問われていたチューリヒ州立銀の行員シュテファン・フェルマン被告とクリストフ・ライスト被告が有罪を認めた。2人は12年、重犯罪の罪で起訴された。2人は公判で、複数の米国人顧客が税金逃れのため口座を利用する不正行為に「あえて気づかないようにしていた」一方で、こうした顧客にサービスを提供していたことを認めた。

 この事件は、スイスの銀行の隠し口座を使った米国人富裕層の脱税行為に対する一連の捜査で発覚した。

 2012年の起訴状によると、03~09年にチューリヒ州立銀の米国人顧客190人以上が共謀し、口座を不当に隠匿、脱税を図ったとされる。

長期化する戦い 

 米国人の脱税問題をめぐる米司法省とスイスの金融機関の攻防は10年前、大手銀行UBSの元行員ブラッドリー・バーケンフェルド氏が内部告発したことがきっかけだった。

 UBSは2009年、米司法省に対し7億800万ドルの罰金を科せられたたが、後にスイス国内の他の銀行も関与していたことが発覚。そのうち国内最古のプライベートバンク、ヴェゲリンは公判で7400万ドルの罰金刑を受け2013年、廃業に追い込まれた。

 同年、スイスと米国の間で合意が交わされ、脱税ほう助にかかわったスイスの銀行を四つに分類した「銀行プログラム」を策定、関連する銀行は罰金を支払うことで米国内の刑事訴追を免れることになった。すでに訴追手続きが始まっている銀行はカテゴリー1、カテゴリー2は米租税法に抵触したと思われる理由を持つ銀行、カテゴリー3、4は証拠不十分と裁判所が判断した銀行だ。

 16年1月、カテゴリー2に分類された80行は、計13億6千万ドルの罰金の支払いに応じた。チューリヒ州立銀はカテゴリー1に属すが罰金額は低い方だ。同じカテゴリー1のクレディスイスは14年、25億ドル超の罰金が科されている。

 スイスの銀行は第三者への顧客口座情報の開示を禁じるという厳格な秘密守秘義務がある。これが2009年の脱税ほう助問題の発覚とともに、国外から強く批判され、米当局の要請に基づいてUBSが顧客情報の開示に応じるなど大きな方向転換を迫られた。

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

おすすめの記事

スイス鉄道、国外へ乗り入れせず

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦鉄道(SBB)取締役会長のモニカ・リバー会長は、自社列車で国外に乗り入れないとする同社の決定を擁護した。

もっと読む スイス鉄道、国外へ乗り入れせず
スイス事故防止協議会(BFU)によると、シートベルトの着用により、過去10年間の国内交通事故で負傷事故5700件、約650件の死亡事故を未然に防いだ

おすすめの記事

命を救う後部座席のシートベルト スイスで義務化30年

このコンテンツが公開されたのは、 スイスでは、30年前から車の後部座席のシートベルト着用が義務付けられている。スイス事故防止協議会(BFU)と連邦統計局の最新データによって、この安全対策の有効性が裏付けられた。

もっと読む 命を救う後部座席のシートベルト スイスで義務化30年
握手を交わすスイスのアムヘルト大統領と岸田首相

おすすめの記事

アムヘルト大統領、岸田首相と会談 FTA改定を改めて要望

このコンテンツが公開されたのは、 訪日中のヴィオラ・アムヘルト大統領兼国防相は7日、官邸で岸田文雄首相と会談し、日本・スイス間の自由貿易協定(FTA)改定というスイスの要望を改めて表明した。

もっと読む アムヘルト大統領、岸田首相と会談 FTA改定を改めて要望
UNRWAの前でたむろす子どもたち

おすすめの記事

UNRWA、「イスラエル襲撃に関与した可能性」の9人を解雇

このコンテンツが公開されたのは、 国連は5日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員9人が昨年10月7日のイスラム過激派ハマスによるイスラエル襲撃に「関与していた可能性がある」との内部調査を発表した。

もっと読む UNRWA、「イスラエル襲撃に関与した可能性」の9人を解雇
診察を受ける赤ちゃん

おすすめの記事

スイスで小児科医が不足

このコンテンツが公開されたのは、 スイス小児科医協会は医師が足りず、特に地方部で子どもが十分な治療を受けられなくなる可能性があると警告する。背景には柔軟な働き方を求める世代の増加や役所・企業の「官僚主義化」があると批判する。

もっと読む スイスで小児科医が不足
注射を打たれる男性

おすすめの記事

コロナ再流行のスイス、ワクチン不足に

このコンテンツが公開されたのは、 スイスでは現在、新型コロナウイルス感染症が再び流行している。それ自体はさほど深刻ではないものの、ワクチンを受けたくても薬局や診療所に在庫がない事態が発生。背景には7月初めの制度変更がある。

もっと読む コロナ再流行のスイス、ワクチン不足に
座り込む女性の横顔

おすすめの記事

スイスで人身取引被害が増加

このコンテンツが公開されたのは、 「人身取引と闘うプラットフォーム(Plateforme Traite)」は2023年、スイスで197件の人身取引(人身売買)事案を記録した。前年比で11%増加した。

もっと読む スイスで人身取引被害が増加
耳を抑える子どもと打ち上げ花火

おすすめの記事

「建国記念日に花火欠かせない」半数 スイス世論調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス人の半数が、打ち上げ花火は8月1日の建国記念日に欠かせないと考えていることが最新の調査で分かった。しかし、回答者の大多数は個人での花火打ち上げに反対している。

もっと読む 「建国記念日に花火欠かせない」半数 スイス世論調査

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部