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「気候保護はスイスのエネルギー安定供給を強化する」

急進民主党(FDP/PLR)のジャクリーヌ・ド・クワトロ下院(国民議会)議員
急進民主党(FDP/PLR)のジャクリーヌ・ド・クワトロ下院(国民議会)議員 © Keystone / Alessandro Della Valle

急進民主党のジャクリーヌ・ド・クアトロ下院議員は、新しい気候保護法がスイスのエネルギー自立を促進し、国内経済にチャンスをもたらすと断言する。

スイスの有権者は6月18日の国民投票で「気候変動目標・イノベーション・エネルギー安全保障の強化に関する連邦法(KIG/LCI)」(通称・気候保護法)の是非を問われる。「氷河イニシアチブ(国民発議)」の対案として作成された同法案は、2050年までに国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロ(気候中立)にすることを求めている。再生可能エネルギーへの移行を加速し、エネルギー輸入への依存を減らすことが目的だ。レファレンダムの成立を受けて国民投票の実施が決まった。

2050年までの気候中立目指すスイスの環境新法が国民投票へ

この気候保護法を支持する急進民主党(FDP/PLR)のジャクリーヌ・ド・クワトロ下院(国民議会)議員に話を聞いた。

気候保護目標・イノベーション・エネルギー安全保障の強化に関する連邦法(KIG/LCI)外部リンク」(通称・気候保護法)(独/仏/伊語)

スイス連邦環境省環境局サイト:気候保護法の解説外部リンク(独/仏/伊語)

気候保護法「賛成」委員会サイト外部リンク(独/仏/伊語)

気候保護法「反対」委員会サイト外部リンク(独/仏/伊語)

swissinfo.ch:新しい気候保護法は化石燃料の禁止を明確に定めていませんが、気候中立を実現するにはガソリンや石油、ガスを手放す必要があります。車や家の暖房を動かすエネルギーはどこから来るのでしょう?

ジャクリーヌ・ド・クアトロ:これまでスイスはエネルギー供給の再構築にあまり注意を払ってこなかったので、遅れを取り戻す必要があります。連邦議会と内閣は必要な措置を講じていますが、それにはいくつかの要素が不可欠です。エネルギー供給を幅広く多様化する必要があります。水力発電に加え、太陽光発電がエネルギー供給のもう1つの柱になります。冬期電力の3分の2を生産する風力発電もまたエネルギーミックスの中で重要な役割を果たし、太陽光発電所やダムの補完的役割を担うことになります。欧州近隣諸国との協力関係を強化し、エネルギー貯蔵能力を高める必要もあります。

swissinfo.ch:エネルギー危機やウクライナ戦争で電力不足のリスクが叫ばれる中、化石燃料という選択肢を捨てる決断は危険を伴うのでは?

ド・クアトロ:禁止や課税をするのではなくイノベーションに投資することで、スイスは徐々に気候ニュートラルになっていきます。このバランスの取れたアプローチにより、効果的に気候を保護すると同時に、スイス経済にもチャンスを提供します。イノベーションを促進することで付加価値、国内での雇用、輸出市場が生まれます。

現在の地政学的状況では、スイスが外国や化石燃料に依存していることが浮き彫りになりました。スイスのエネルギー自給率は30%足らず。一方で、食料自給率はしばしば不十分とされますが、ほぼ60%に達しています。エネルギー危機に直面し、再生可能エネルギーの開発やエネルギー効率の向上など、早急に代替手段を見出す必要に迫られています。

swissinfo.ch:スイス国民はCO₂(二酸化炭素)税の導入を望んでおらず、連邦議会は暖房設備を交換する住宅所有者への補助金交付を決定しました。ですが国民の大半は賃貸物件で暮らしています。少数派の住宅所有者のために、国民全体が負担を強いられるべきなのでしょうか?

ド・クアトロ:気候保護法には暖房設備の改新や建物の改修を奨励する具体的な措置が盛り込まれています。その目的は、より効率的にエネルギーを使用できるようにすることです。奨励することで、気候を保護できるだけではなく経済も強化できます。確実に需要が出るため、企業はより安定した計画を立てられます。住宅所有者は石油、ガスの暖房器具、電気使用量の多い電気ヒーターの取り換えで経済支援を受けられます。

エネルギー効率の向上策として奨励される建物の改修工事は、コスト削減、諸経費・光熱費の引き下げにつながり、借家人にも直接的な利益になります。

swissinfo.ch:気候保護法は、スイスのエネルギー自立にどう影響しますか?

ド・クアトロ:100%輸入に頼っている化石燃料の石油とガスの使用が減り、国内で再生可能な資源から供給される電力に取って代わられます。石油やガスの暖房器具に代わるヒートポンプ、ガソリン車に代わる電気自動車などがその例です。

再生可能エネルギーへの一つひとつの投資が、外国への依存度を減らします。そうすることでスイスは、石油やガスの輸入依存から徐々に解放されていきます。つまり、気候保護はスイスの安定したエネルギー供給を強化するのです。

swissinfo.ch:新法の反対派は、気候目標を達成するためにスイスの景観がソーラーパネルや風力発電機で覆われてしまうと訴えています。気候中立という名目で、例えば景観や環境などの面で妥協しなければならないのでしょうか?

ド・クアトロ;自分が何を望んでいるか知る必要があります。反対派は、原子力発電の復活を望んでいるのでしょうか?国民の大半が賛成しているとは思えません。

スイスでは常に利害のバランスがとられます。住宅や商業施設、インフラ、病院や学校など、全ての建物が譲歩する必要があります。太陽光パネルを設置できる屋根は数えきれません。既存の風力発電機は住宅地から十分に離れて設置されており、もはや外国ではほとんど抵抗がありません。

私たちが今直面している生物多様性の問題は、再生可能エネルギーの拡大が原因なのではなく、人口増加やそれに伴うニーズ、気候変動が原因です。

swissinfo.ch:スイスのCO₂排出量は世界のわずか0.1%です。地球に全く影響を与えないと分かっていながら、なぜスイスは気候ニュートラルを目指す必要があるのでしょうか?

ド・クアトロ:スイスはパリ協定に署名しました。この協定は各国が自らの役割を果たすよう定めています。スイスのようにこの変化をもたらすための知識と技術を持っている国は、ほんのわずかしかありません。

私たちの国ではすでに、気候変動による被害やコストが明らかになっています。干ばつや極端な天候不順、加速する氷河の融解も、目に見える具体的な証拠です。スイスの平均気温は世界平均の2倍の速さで上昇しています。

今の時点ですでに、スイスの気候変動による損害は数十億フラン、その対応策にかかる費用は年間数億フランに上ります。待てば待つほど、費用は膨らんでいくのです。

swissinfo.ch:スイス国民は原子力発電の段階的廃止を選択しましたが、CO₂排出がゼロ、または低排出の原子力発電を、地球温暖化との戦いの中で無視できないとする声が国内外で多く聞かれます。気候危機の中で、まだ原子力発電が果たすべき役割はあるのでしょうか?

ド・クアトロ:短期的には、たとえ技術が進化したとしても、原子力発電で解決することはできません。国民の支持が得られるとは到底思えませんし、依然としてコストが高いままです。放射性廃棄物の問題も解決できていません。

エネルギー経済学者から原子力技術を求める声は上がっていません。専門家は、「究極の解決策」として提示された新しい原子力技術が産業的に成熟するには、まだ長い道のりがあると判断しています。大手電力会社も非常に懐疑的です。欧州やその他の地域で新しい発電所建設に絡むむしろ悲惨な歴史を見ると、金融業界(投資家や保険会社)もまた大きな困難に直面することでしょう。

*このインタビューは書面で行われました。

仏語からの翻訳 :由比かおり

同法案に反対票を投じるよう呼びかける国民党(SVP)のミヒャエル・グラバー下院(国民議会)議員とのQ&Aはこちら:

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