スイスの祭り「牧下り」で6歳児が喫煙
スイス東部のアッペンツェルでは、今月初旬に伝統的な秋の祭り「牧下り」が開催された。観客は、カラフルに装飾された牛たちに魅了されるどころか、子供たちが合法的に喫煙する姿を見て仰天した。
「アッペンツェルでは伝統行事の『フンケンゾンターク』と『牧下りの日』に子供の喫煙が認められている」とアッペンツェル・インナーローデン準州観光協会外部リンクのロザリア・ケラーさんは言う。
伝統の由来についてケラーさんは知らないが、これが今の禁煙化が進む世の中と矛盾していることは認めている。
隣のアッペンツェル・アウサーローデン準州でも未成年の喫煙は許容されている。農夫のマックス・フューラーさん(61)は現在非喫煙者だが、子供の頃、牧下りの時期に喫煙した経験がある。「子供は煙を口に含んで吐くだけで、肺の中には取り込んでいない。たばこを『正しく』吸えないのだ」
別の農夫、アルベルト・フェッスラーさんもこの伝統の下で育った。「観光客は皆驚くが、我々にとっては『普通』のこと。6歳の子供ですらたばこを吸っている。当時は『シュトゥンペン』(自家製葉巻の一種)を吸っていたが、たいていの場合気分が悪くなった」(フェッスラーさん)
健康へのリスク
アッペンツェル・インナーローデン準州は伝統色が非常に強い地域だ。例えば、同準州ではスイス連邦裁判所が介入した1991年まで、女性参政権が認められていなかった。
しかし、地元の保健所は「(特定の日に子供が喫煙する)伝統が広く許容されているようだが、我々は断固反対する」と、未成年の喫煙に反対の立場を示している。
呼吸器疾患の患者を支援するNPOのスイス肺連盟外部リンクもこの伝統に難色を示している。「喫煙は健康を害する。とりわけ、成長段階にある子供の喫煙は肺の成長を妨げる危険性がある」と同連盟のバーバラ・ヴェーバー広報担当は指摘。また、「たばこを試しに吸った人のうち、3分の1は依存する傾向にあり、喫煙を始めた年齢が早ければ早いほど、禁煙は難しくなる」と付け加える。
読者の反応
牧下りでの子供の喫煙を無料日刊紙20Min.が記事で取り上げたところ、驚くことに、同紙に寄せられた読者の反応は寛容的だった。
読者のケヴィンさんは以下のコメントを残している。「新鮮な空気がほぼない環境で育ち、毎日のようにパソコンの前で過ごす街の子供たちと比べて、アッペンツェルに住んでいる農家の子供たちは100倍も健康ではないだろうか。だから年に一度の喫煙の害は許容範囲だと思う」。他の読者も街の排気ガスと粉じんを指摘し、彼の意見に賛同する。
またサンディーさんは、同様の伝統が彼女の村にもあると言う。「この慣習のもとで育った大人が『(子供の時にたばこを吸って)気分が悪くなった経験から、その後喫煙者にならなかった』と言っているのをよく耳にする。禁じられているからこそ興味をそそられるものも、こうして魅力を失っていくものだ」
トゥールガウ州ヴァインフェルデン在住の読者(75)は、子供の頃に最年少で参加した伝統的な秋の行事「レーベヒルビ」を思い返す。「蕪(かぶ)をくり抜き、ろうそくを中に入れて作った提灯(ちょうちん)を片手に、7歳前後の子供が先生の付き添いのもと夜道を行進する。もう片方の手には火がついたたばこを持っていた。それでよく指をやけどしていたこともあり、つらかったけれども、皆誇らしげだった」
フンケンゾンターク(Funkensonntag)
冬に別れを告げるための伝統的な行事。ファスナハト(カーニバル)4週目の日曜日に行われる。巨大な焚き火の頂点に、「フンケバーベ」(Funkebaabe)と呼ばれる、花火が詰められた人形が置かれる。冬に見立てられたこの人形が、終わりを象徴する火で燃やされることで、冬が終わる。
(独語からの翻訳・編集 説田英香)
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