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ロカルノ国際映画祭2014 アーティスティック・ディレクターに日本映画について聞く

ロカルノ国際映画祭のアーティスティック・ディレクター、カルロ・シャトリアンさん pardo.ch

残すところあと2日となった2014年のロカルノ国際映画祭。今年は「新鋭監督コンペティション部門」に五十嵐耕平監督の作品がノミネートされただけだったが従来この映画祭で上映される日本映画の数は多く、観客にも重要視されてきた。同映画祭を1年前から指揮するアーティスティック・ディレクター、カルロ・シャトリアンさんに「日本映画とロカルノ」について聞いた。

 溝口健二、小津安二郎、黒澤明の映画が大好きだというシャトリアンさん。こうした偉大な監督の伝統を継承しながらも、日本の映画界は絶えず新しい表現を生み出していると絶賛する。ただし、こうした新しいものを生み出す新人監督の作品を見つけるのは非常に難しいとも指摘する。

 知られていない監督やその斬新な表現の紹介を使命とするロカルノ国際映画祭にとって、これは痛手であるともいう。

 なぜ日本の新人監督の発見が難しいのか?映画祭の審査プロセスなども含め聞いてみた。

swissinfo.ch : まずロカルノ国際映画祭2014で「新鋭監督コンペ部門」にノミネートされた五十嵐耕平監督の「息を殺して」についてどう思いますか?そして選考の理由は?

シャトリアン : ロカルノの目的の一つは、新人監督を見つけ、まったく知らない表現に驚かされることだ。その意味でこの作品はロカルノにふさわしいものだった。作品のアイデアは素晴らしく、ある社会の姿、それは今日か数年後か分からない社会だが、人間関係が難しいことを表している。

また、スタイルが非常に特別。がらんとした空間に遊びとしての戦争を取り入れ、また現実とSF的な未来をミックスさせている。

よって、芸術的な観点からこの映画を「新鋭監督コンペ部門」にノミネートした。

swissinfo.ch : 映像言語という意味で、例えば小津安二郎が作り上げたような日本の映画の伝統を感じますか?

シャトリアン : 日本の映画の伝統というより、むしろヨーロッパのヌーベルバーグに近いような気がする。登場人物が他者に対しコミュニケーションができないという意味ではイタリアの映画監督アントニオーニに似ている気もする。

ただし、日本の文化表現には、「無」の空間が特徴的だとヨーロッパでは考える。この映画では、この無の空間での人物の在り方が特徴的で、そういう意味では日本的なのかもしれない。

しかし、結局はどの監督にも比較できないような独創性がある。それは素晴らしいことだ。

swissinfo.ch : 日本の映画をどう思いますか?また、「日本映画とロカルノ」という観点からどう思いますか?

シャトリアン : 日本の映画の歴史は古く、またとても重要なもの。僕が好きな監督は溝口健二、小津安二郎、黒澤明。もちろん1960年代に出てきた監督で尊敬する監督も多い。大島渚などだ。その後、今40~50歳代の監督、河瀬直美、黒沢清、青山真治、是枝裕和などがいる。この世代の監督たちにはロカルノ国際映画祭が「貢献した」と思う。

例えば、ロカルノは青山真治や河瀬直美の作品を取り上げてきた(青山監督の作品は何回もロカルノに出品され、「東京公園」は2012年に審査員特別賞を獲得。また同年、河瀬監督の全作品が上映された)。さらに、13年は青山真治と黒沢清の作品を上映し、私としてはとても楽しめた。

これら以外の新人に関しては、「発見」していかなければならないし、それが楽しみだ。なぜなら、日本の映画は伝統を継続しながら新しい表現を生み出し続けてくれるからだ。ただ、新人は製作費が限られ、大きな映画館での上映も難しいため、ロカルノなど西欧の映画関係者には見つけるのが難しい。

しかし、こうした新人の作品は独創的なものが多く、製作費が十分で大きな映画館で上映されるがアイデアに乏しい映画と対照的だ。

ロカルノとしては当然、前者の小作品を探していくことが目的。3年前の富田克也の作品「サウダーヂ」を国際コンペティション部門で上映できたたことは素晴らしいことだった。俳優に友人を使い、ドキュメンタリータッチのフィクションという新しい試み。こうした作品こそ、ロカルノが取り上げたいものだ。

swissinfo.ch : 新人発見が日本では難しいと…

シャトリアン : 何と言っても言葉の壁がある。日本の監督はほとんど英語をしゃべらないので仲介を介さないといけない。例えば今回も、選考委員会に日本映画が送られてきたが、字幕が付いていなかった。つまり日本では、優れた無名の作品があっても、制作者と配給会社との間に距離があると思う。

それはしかし、他の国、例えば中国でも事情は同じだ。ところが韓国では、制作会社や配給会社がもっと新人の映画を支援していて、字幕を付けるなどして、世界への配給を考えている。

swissinfo.ch : ところで、審査のプロセスですが、DVDで送られてくるものから選ぶのですか?

シャトリアン : やり方は二つあって、一つは1月末にEメールで登録してDVDを送るもの。ただし登録費がかかる。さらに条件があってテレビ用に制作されたものは受け付けないし、ワールドプレミアであることだ。

今年はこれで長編、短編合わせてほぼ3800本が送られてきた。しかし実際の選択が始まるまでに他の映画祭で上映されるものもあるので約半分の1800本に減り、それを選考委員会がある程度選んだ後、最終的に僕が見る。

もう一つは、日本の場合はカンヌが終わった5月末から6月にかけ東京に僕が行って、川喜多記念映画文化財団外部リンクが選んだおよそ50本を見て、その中からいくつか選び出すやり方。この財団はロカルノだけでなくカンヌなどの映画祭にも協力している。今回の「息を殺して」はこうして選ばれた。最後のやり方は、個人的に知っている監督に直接コンタクトを取るやり方だ。

swissinfo.ch : 最後に新しいアーティスティック・ディレクターとして、ロカルノの方向性をどう考えていますか?

シャトリアン : ロカルノは、「国際コンペ部門」を一番の柱にしているが、前に言ったように、新人の発見をロカルノの基盤の精神にしているので「新鋭監督コンペ部門」、「短編コンペ部門」でこそ、この精神が生かされると思っている。

従ってアーティスティック・ディレクターとして、この後者の二つの存在を強調したいということはある。それと、「国際コンペ部門」ではできるだけさまざまな国の映画を見てもらいたいと思っている。国際的に開かれた映画祭という意味で、言葉も文化も表現も異なるものをたくさん上映したい。

以上のような意図はアーティスティック・ディレクターとしてあるが、映画とは「さまざまな表現が可能な自由な芸術」なので、あらゆる表現をロカルノでは提示したい。一つのテーマに絞りたくないし絞るべきではないと思う。しばしば「今年のテーマは何か」と聞かれるが「テーマはない。あるとしたらいくつもある」と答える。

ロカルノはまるでいくつもの道が交わる交差点のようなもの。ロカルノは新人と同時に過去の偉大な監督の作品など、さまざまなものを上映する。結局は観客がどの道を選び、どのテーマを見つけて楽しむか、一人ひとりが決める場所だ。

カルロ・シャトリアンさん(Carlo Chatrian略歴

ジャーナリスト、作家、映画上映のプログラム制作者であるシャトリアン氏は、2013年からロカルノ国際映画祭のアーティスティック・ディレクター(芸術監督)を務める。

1971年、イタリアのトリノ生まれ。トリノ大学で、文学、哲学、ジャーナリズム、コミュニケーションを学ぶ。

1990年から映画雑誌に映画批評などを書き始める。

エロール・モリス、ウォン・カーウァイ、ヨハン・ファン・デル・クーケン、フレデリック・ワイズマンなど、数多くの監督の伝記や研究論文を著した。

2001年~07年までアルバ国際映画祭(Alba Film Festivals)の副ディレクターやフィレンツェの映画祭(Festival dei Popoli)とスイス・ニヨンの映画祭(Visions du Réel)の選考委員会メンバーを務めた。

ロカルノ国際映画祭に関わり始めたのは2002年。2006年~09年まで選考委員会メンバーを務めている。

ロカルノ国際映画祭2014

今年67回目を迎えたロカルノ国際映画祭は8月6日から16日まで続く。

16日の夜9時に、今年も3部門のコンペティション「国際コンペティション部門」「新鋭監督コンペティション部門」「短編コンペテイション部門」の結果が発表され幕を閉じる。

今年は、世界47カ国から集められた長・中・短編の映画、計274本が期間中に上映される。

観客は、3部門のコンペティションで新しい映画表現に出会えると同時に、「映画の歴史部門」では過去の優れた作品に触れ、さらに何人かの招待された俳優との対話が可能だ。

また、3部門のコンペティションでも上映後、監督や俳優とQ&Aの場が設けられている。

日本からは今年、「新鋭監督コンペティション部門」に五十嵐耕平監督の「息を殺して」がノミネートされた。

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