英データ分析企業ケンブリッジ・アナリティカ社に、有権者の心理操作目的でフェイスブック利用者5千万人以上の個人データを不正利用した疑いが浮上している。チューリヒのデータ保護責任者は、このようなシナリオはスイスでも十分起こりうると話す。本当だろうか?
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ブルーノ・バリエスヴィル氏はチューリヒ州役場のデータ保護責任者だ。同氏は独語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー21日付のインタビュー外部リンクで、有権者の心理操作はスイスでも十分起こりうると話し、とりわけ2019年の連邦議会総選挙キャンペーンに警鐘を鳴らした。
具体名は出さなかったが、「オバマやトランプの選挙キャンペーンを終えたアドバイザーたちは各々、新しい選挙キャンペーン方法を宣伝しに米国からスイスにやってきている」と現状を説明。「2019年の総選挙で、有権者の心理操作のようなことが起きても驚きはしない」と述べた。
バエリスヴィル氏自身もまた、フェイスブック利用者の個人データの不正利用が与えた影響の大きさに「驚かされた」一人だ。インタビューで、利用者データに関する利用規約が透明性を欠き、不必要に長く不明瞭であると鋭く批判。「利用規約に同意しなければ、アカウントを作ることもできない」と指摘した。
このような「同意することしかできなかった利用規約」への同意を「無効」にできる方法はある。ただ、スイスの現行法や(現在改正作業中の)連邦データ保護法外部リンクの枠組みの中では不可能だという。「カリフォルニア州の法律に基づいた訴訟ならできる」(バリエスヴィル氏)
マイクロターゲティング
データ保護団体「パーソナルデータ.io外部リンク」代表のポール・オリビエ・ダハイエ氏は、バリスヴィル氏の不正データの脅威をめぐる意見には賛同するが対策については意見が異なるとスイスインフォの取材に答えた。
同氏はターゲス・アンツァイガーの付録週刊誌「ダス・マガジン(Das Magazin)」と協働でデータ漏洩問題を追及外部リンクし、ケンブリッジ・アナリティカ社の活動を数年にわたり追跡してきた。スイスは他国と同じくらい脆弱だと考える。
問題は、「世間の無関心にある」と指摘。利用者はすでに自身を取り巻く複雑な情報業界の収益構造を理解しておらず、誰を信頼すべきかもわからない。また「フェイスブック社は自社が構築したインフラを管理できていない」と批判した。
選挙キャンペーンのアドバイザーたちは現行法の網の目を潜り抜ける可能性があると指摘。ケンブリッジ・アナリティカ社が英米でやりのけたような大規模な活動ではないにせよ、有権者の性別・年齢・居住地、興味などを把握し、選挙に役立てる戦略の「マイクロターゲティング」はスイスのオンライン選挙キャンペーンでも行われるとみる。
チューリヒのオンライン雑誌「レプブリーク」は、このような戦略は今月4日に行われた国民投票のキャンペーンにすでに利用されたと報じた外部リンク。
報道によると、公共ラジオ・テレビ放送の受信料廃止案「ノー・ビラグ」(反対71.6%で否決)の支持派は、投票キャンペーン中に不法データを使用。支持派はフェイスブック上の特定の利用者だけでなく「投票キャンペーンサイトにアクセスした利用者が、その後オンライン上でどのような行動をとったかを追跡」していたとする。スイスのデータ保護法に違反する行為だ。
これから
ダハイエ氏は、スイスで不正データの脅威に立ち向かう際に重要なのは、「オンライン上で信頼すべき人をどう判断するかの材料を利用者に与える」ことだという。そこにはオンライン上のマナーや権利を教える教育プログラムの強化や、法制度の強化も含まれる。
また、レプブリーク誌のデジタル・メディア作家で記者のアドリアンヌ・フィヒター氏は、「スイスはEUの一般データ保護規則(GDPR)外部リンクに追随すべきたが、連邦内閣は現時点で消極的だ」と話した。
(英語からの翻訳・大野瑠衣子)
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