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スイスが目指すNATOとの「緊密関係」とは?

握手をする北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長と輪番制のスイス連邦大統領を務めるヴィオラ・アムヘルト国防相
目指す方向は同じ?世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)に出席した北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長と輪番制のスイス連邦大統領を務めるヴィオラ・アムヘルト国防相 © Keystone / Laurent Gillieron

スイス連邦政府は1月31日、北大西洋条約機構(NATO)と「より緊密で制度化された協力関係」を築く方針を発表した。これは一体どういうことなのか。なぜスイスは距離を縮めようとしているのか。スイスはNATOに加盟するのか。 

NATOとは? 

NATOは現在31カ国(米国とカナダ以外はすべて欧州諸国)が加盟する世界最大の軍事同盟。 1949年4月4日、米ワシントンで欧州10カ国(英国、フランス、ポルトガル、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、アイスランド、ノルウェー、イタリア)が米国、カナダと同盟を締結し、創設した。 

もともとはソ連に対抗するための軍事同盟だったが、ベルリンの壁崩壊後は、テロやサイバー戦争、中国の台頭といった新たな課題にも取り組み、より広い視野での欧州の安全保障を推進している。 

NATOは、北大西洋(ワシントン)条約の第5条で「加盟国が1国でも攻撃を受けた場合、これを加盟国全体への攻撃とみなし」反撃などの対応を取る「集団的自衛権」を規定している。これまでに同権利が行使されたのは、2001年9月11日の米同時多発テロ発生時の1回のみ。 

本部はベルギーの首都ブリュッセルにある。2014年からはノルウェーのイェンス・ストルテンベルグ元首相が事務総長を務めている。 

スイスとNATOの関係は? 

スイスは公式には中立国であり、NATO加盟国ではない。しかし、1996年からNATOの「平和のためのパートナーシップ(PfP)」プログラムに参加している。同プログラムでは軍事協力や情報、経験の共有が行われる。集団的自衛権などへの法的義務は発生しない。 

スイス軍は1999年以来、 NATOの主導するコソボ治安維持部隊(KFOR)の一部として活動している。だがこれについてはスイス政界で批判も起こった。左派からは外交が軍事化していると非難され、右派からは中立を損なうと糾弾された。 

Illustration Aussenpolitik

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NATOのスイス政府代表部大使を務めるフィリップ・ブラント氏は2022年3月、swissinfo.chのインタビューに応じ、スイスの中立性はNATOとのパートナーシップの基礎であり「安定的で有意義だ」と語った。 

なぜスイスはNATOとの距離を縮めようとしているのか? 

スイス連邦政府は先月31日の声明外部リンクで「安全保障環境が著しく悪化していることを考慮し、スイスの防衛力を強化する必要がある」と述べた。それに加え「安全保障と防衛政策については特にNATO、欧州連合(EU)、近隣諸国との国際協力に向け、より一貫して取り組むことになる」と明らかにした。 

2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、欧州の安全保障構造を揺るがした。かつてエマニュエル・マクロン仏大統領が「脳死状態にある」と評したNATOだが、昨年にフィンランドが加盟し新たな息吹をもたらした。今後は長年の中立政策から転換したスウェーデンが加盟予定だ。 

スイスでは、NATO接近をめぐる大議論を引き起こした。ほぼ全ての政党と世論がNATO接近を支持している。問題はどこまで近づくべきか、だ。 

侵攻から間もない2022年4月、中道右派・急進民主党(FDP/PLR)のティエリ・ブルクハルト党首は、ドイツ語圏日刊紙NZZに寄稿した論説外部リンクで「トラブルが発生すると体を丸めてトゲトゲの球体と化し、他国が攻撃されたときには何もしない『ハリネズミ・スイス』を終える時が来た」と訴えた。「スイスの安全保障政策は行き詰まっている。ロシアのウクライナへの攻撃は、このことを無慈悲なほど露呈させた」 

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とイェンス・ストルテンベルグ事務総長
2023年7月12日、リトアニアのビリニュスで開催されたNATO首脳会議に出席したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とイェンス・ストルテンベルグ事務総長 Keystone / Filip Singer

その直後には、同じ党のダミアン・コティエ氏がフランス語圏日刊紙ル・タンに寄稿し、スイスは幸いにも近隣諸国からの侵略の危険にさらされておらず、NATO加盟国の「バリア」によってスイスはロシアから隔たれていたと論じた。「しかし、スイスがこれからも無償で守られるという期待を持つことは危険な夢語りだ。欧州の安全保障に関して、我が国が(他人の気前のよさにつけこむ)『たかり屋』であることは許されない」 

首脳レベルでは、2023年3月にヴィオラ・アムヘルト氏がスイス初の国防相としてNATOの北大西洋理事会(NAC)に出席した。ブリュッセルでの2者会談で、ストルテンベルグ氏はアムヘルト氏に対し、スイスの中立性はNATOとの協力の障害にはならないと述べ、スイス政府がNATOと協力を深化させていく姿勢を示していることを歓迎した。両者は今年1月にスイスのリゾート地ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)でも会談している。 

「核の傘」を含むNATOの保護を受けるために、スイスがどのような妥協をしなければならないかは不明だ。しかし、ル・タン紙が2023年4月に伝えたところによると、NATOのストルテンベルグ氏はブリュッセルでの会談時、アムヘルト氏に対し国連の核兵器禁止条約(TPNW)に署名・批准しないよう求めた。加盟国である米英仏の3カ国から非常に強い圧力を受けたという。 

スイスはいつかNATOに加盟するのか? 

絶対にないとは言い切れないが、今のところスイスがNATOに加盟する可能性は低い。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)で安全保障問題を研究するレア・シャード氏は「スイスはNATO加盟に興味がない。単純に必要ない」とswissinfo.chに語った。「我々が加盟する理由がないだけでなく、加盟すれば中立性を失うというデメリットさえある」 

シャード氏は、NATOにとってはスイスが外交舞台の1つであり続ける方が好都合だとみる。「他国は、中立国で会議の開催ができるという恩恵を受けることができる。スイスがNATOに加盟していたら、ジュネーブはジュネーブではなくなっていただろう」 

連邦国防省(BABS/OFPP)は、スイスのNATO加盟は論外だとしている。同省のカロリーナ・ボーレン報道官は2022年、「NATO加盟はスイスの中立とは相容れない」と断言。「スイスが武力攻撃の標的になれば、中立性は無効になる」と述べた。スイスは軍事的に自国を守るだけでなく、近隣諸国など他国と協力することもできるという。 

NATOは「この(ワシントン)条約を推進し、北大西洋地域の安全保障に貢献できる立場にある欧州諸国であれば、誰でも加盟できる」としている。 

関係はどのように発展していくのか? 

軍事統括組織全国会議(LKMD)のシュテファン・ホレンシュタイン会長は2022年、PR会社furrerhugiとのインタビューで、スイスがNATOに加盟する可能性は否定できなくなったと主張。「私が言いたいのは、現在の状況で考えることを禁ずるべきではないということだ」と話した。 

「もちろん、武装中立はスイスのDNAの一部だ。しかし、スイスは1996年からNATOの『平和のためのパートナーシップ』プログラムに参加し、1999年からはNATOの指揮下でコソボの平和維持活動に参加している。スイスの安全保障体制をより広い視野で見る必要がある」 

どのような形が考えられるかとの質問には、スイスの防空システムをNATOの防空システムに統合し、指揮通信系統を一本化することを例に挙げた。「それはNATOとの和解ではあるが、加盟ではない。くだけた言い方をすれば『いちゃつくのはアリだが結婚はしない!』ということだ」 

これまでに複数回行われた世論調査では、多くのスイス国民がNATOとの緊密な関係を望みながらも、加盟には一線を引きたいという結果が出ている。 

英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子 

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