土壌の分解能力を調べる研究プロジェクトの一環で、スイスの地中に埋めた下着のパンツ2千枚がこのほど掘り起こされた。
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この「パンツで証明」プロジェクトは、農業研究所アグロスコープとチューリヒ大学が共同で実施。庭や農場の土壌の質に関する広範な情報を得ることが狙いだ。今回は初めて一般市民の協力を得た。2021年4月、ボランティア1千人が綿のパンツ2千枚を庭や草原、農地、畑に埋めた。
初期の検証結果から、腐植(植物や動物が分解してできる土壌中の黒い有機物)は、分解速度において重要な役割を果たし、その結果、土壌の健全性を高め、気候変動による干ばつへの対応を助けていることが分かった。
プロジェクトの担当者フランツ・ベンダー氏は28日、声明外部リンクで「土壌に含まれる有機物が多ければ多いほど、地中に無数に存在する微生物のエサが増える。その結果、下着の分解も速くなる」と述べた。
腐植の含有量が最も多かったのは、一般家庭の庭だったという。同氏は「家庭から出る生ごみや葉から作る堆肥(コンポスト)の使用量が増えたことが主な要因だ。堆肥から出る貴重な栄養素は、土壌生物のエサにもなる」とした。
検証結果によると、一般の庭と比べ、農地では平均して腐植が23%少ない。そのためパンツの分解速度は農地の方が遅かった。また腐植が土壌の水分バランスにも重要なことも分かった。同氏は「腐植が多いほど、土はより多くの水を蓄えることができる」とした。
一般市民の協力がカギに
プロジェクトの責任者マルセル・ファン・デル・ハイデン氏は声明で「増加する干ばつから農業を守り、収穫量を多く保ち、より持続可能な生産を行うには、まずは土壌の腐植を増やすことから始めるべきだ」と指摘した。
さらに「腐植は土壌中の食物網全体のエンジンとして働き、土壌生態系が最適に機能できるようにしている。その結果、より多くの水を蓄えることができる」と述べた。
土壌の腐植含有量を増やす方法として、常に土壌をカバーする、耕作作業を減らす、コンポストやマルチング(畑の表面をプラスチックフィルムなどで覆うこと)を利用する、などが一般的に知られている。
同プロジェクトでは、1万8900種類以上のバクテリアと6500種類以上の真菌を発見。1立方センチメートルの土壌に数百万もの生命体が生息していることを示すものだ。
ベンダー氏は「一般市民の協力なしに、これほど多くのデータを集めることは決してできなかっただろう。今回の研究は、この種のプロジェクトではスイスで過去最大だ」と語った。
英語からの翻訳:シュミット一恵
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